第189話 確かにあんな母親なら…… 自立したい長女アインの、本当の狙いとは?!
王城の湖、その畔に建てられた木製のアスト城、
その庭でサキュバスのリムリアから魔法の指導を受けていた、
旧ハーレム魔法使いネリィの長女、もう十二歳だっけアインちゃんが頭を下げる。
「魔力を上げるためだったら、どんなことでも、なんだってします、リムリア師匠!」
(えっ、し、しししし、師匠?!?!)
と心の中で派手に突っ込んでみる。
「ふふ、なら私がアスト城に居る間は、ずっと抱き合って眠る事になるわよ?」
「本当に、それで魔力が、ママ、母上くらいになるなら」「だそうよラスロ、いいわね?」
「いやいやその、抱き合うって具体的には」「抱き合うは抱き合うよ、何なら見学するぅ?」
……触れちゃいけない禁断の部類か。
(しかし、相手はサキュバスだ、あえてそこに突っ込んでみよう)
ていうか、これ本当はネリィの仕事だぞ。
「別に何か吸うとか吸わせるとかじゃないよな?」
「まずは全身を抱きすくめて、高い魔力に肌が耐えられるように慣らすの、
あとは私の体温から徐々に徐々に浸透するように魔力が入り込んで行って……」
おお、真面目な話か、良かった。
「それでどうなる」「睡眠状態になれば、あとは内側からイメージトレーニングね、
魔力が湧きだす感覚をまずは精神から成長させるの、そうすればしばらくすれば、
何度も何度も毎晩毎晩繰り返せば、脳や身体がそれを本当として認識しはじめて……」
ようはリムリアの膨大な魔力で包み込みつつ、
意識の中へ入り込んで魔力の発生をアシストするのか、
意外とちゃんとした方法だな、睡眠学習とでもいうかなんというか。
「私、やりたいです!」
「まあ寝てるだけの簡単な方法だからな」
「ふふ、最も(ぴーーー)するのが一番手っ取り早いわよ」「おい!!」
やっぱりそれかよ!!
「それでも構いません!!」「うおーーーい」
「ラスロ、いいわよね?」「アインちゃん、なんでそんなに必死なの」
「もう、私がしっかりするしかないんです、私が稼いで、弟や妹を」「あっそうか」
自立して、下のきょうだいを養いたいのか、
父親からは事実上捨てられ、母親はあんなのだし、
もう自分たちで生きていくしかないからと……それで魔力を。
「それで、それでグランさん」「おう」
「私も勇者パーティーに入れてくださいっ!」
「またそんなことを」「本気なんです、お願いします!」
半年前と気持ちは変わってないのか。
「それで結局、アインちゃんは最終的に、どうしたい」
「そ、それは……」「どうなりたいんだ、何が望みなんだ」
「……母の、仲間になりたいんです」「つまりは」「また同じ家族のような形に」
本当の狙いはそこか。
「俺が、俺たちが魔界へ行っている間、
ネリィにはしっかり子供の面倒を見るように命令したはずだが」
「それでもどこか余所余所しかったり、ラスロさんのことばかり話してたり」
やっぱり取り戻したいのか、母親を。
「まあこのあたりは俺にも責任あるから、
ネリィに再度言っておく、だから早まるな」
「しかし……」「という訳でリムリア、十二歳相手に変な事はするなよ、あと俺にもな」「ふふふ」
まったくもう……
「ずっとアタシに抱きかかえられて、説得力ないさね」
「ナルガ、そろそろ降ろしてくれ」「どこへ行くんだい?」
「もうひとり居るだろう」「屋上さね」「そうか、行ってくる」
という訳で庭から城へ戻る、
まったくもう……あっ、ネリィとハミィだ。
「ラスロサマアァァアァァッ……アアッ」「変な声出すな」
「今日は私も叔母と一緒に、叔母の子の面倒を見にきましたぁ」
「ハミィ、ネリィもだが、例の封印で魔物を追い出す作戦、バレバレだったぞ」「「ええっっ」」
素で驚いていやがる。
「近くにドリアードが居ただろ」
「ええ、言われてみればァ」「ひょっとしてぇ」
「そこから筒抜けだ」「なんとおおォォォ」「背景くらいにしか思っていませんでしたぁ」
……これはドリアードを褒めるべきか?!
恐るべき隠匿能力、認識阻害の魔法、という訳でもないな、
単にネリィとハミィが間抜けなだけ……と、屋上へ行くとそこに居たのは!!
「もっと風を読みなさい、見て同時に感じるのよ」
「はい、師匠!」「ちょ、君はエミリの娘の……!!」
カミラまで人間の弟子を取っていやがった!!!
(もうこれ、魔物に浸食されてるな)
まあ、アスト城がある時点で、今更か。




