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ハーレム崩壊、十二年後  作者: 風祭 憲悟@元放送作家
序章 魔王を倒した勇者、ハーレム崩壊の現実を突きつけられる
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第2話 伝説の女剣士は侯爵夫人を全うする 何でも従う良い妻のはずが……!!

「ヨラン、今日のスタヴィック公爵家は絶対にしくじれない、良いな?」

「はい、あなた」


 メイドにジョルジール侯爵家として相応しいドレスを着せてもらう私に、

 いつも通り厳しい表情で言葉を投げかける夫……私はそれに従うしか無い。


「何でもお前の武勇伝が聞きたいそうだ、なあに作り話でも良い、

 適当に喜びそうな話を頼む、私はその間に息子たちの婚約者候補を見てくるからな」

「はい、あなた」


 武勇伝……十五歳で入った王宮騎士団の話で済むだろうか、

 おそらく望まれるのはその後、十九歳から二十三歳までの話、

 勇者パーティーに参加した……あれから十二年、私は侯爵家に嫁ぎ、四人の息子を儲けた。


(そう、私はもう、何もかも全て、身を任せると決めたのよ)


 愛する勇者ラスロが亡くなり悲しみに打ちひしがれていた私は、

 実家に戻って生気を失い、父の、周りの言われるがままに従い続けた、

 その結果が今の侯爵夫人、私の人生はもう、何もかもを全て受け入れ続けるしか……無い。


 コン、コンッ


「旦那様」「どうした」「実は今、王城の方から……」


 何やら執事が耳打ちをしている、

 王城からだなんてこんな西の果てに何の用かしら、

 おそらく私には関係の無い事、あったとしても、その全てを受け入れるだけ……


(ここに嫁ぐにあたり唯一告げた我儘、それは『剣を捨てる事』その一点のみ)


 伝説の女剣士と言われた過去の私はもう居ない、

 生涯もう二度と剣は握らない、それが条件だと夫にも告げた、

 一度だけ長男が『母上、剣術を教えてはくれませんか』と言った時も、きっぱりと断った。


『わかりました、母上が断るだなんて、よほどの事なのですね』


 私の剣は愛する、いや、生涯を賭けて愛したラスロ様のためだけに捧げた、

 それが叶わない事態となった今、もう剣は握らない、自慢の『豪剣』も城に寄付した、

 だから今の私の手は綺麗なもの……こうする事で過去と、ラスロ様とのけじめをつけている。


(過去の事は過去の事、思い出すだけで、胸が張り裂けそうな程、辛い……)


 それを紛らわすため、

 今の私は今の夫のためのに、良き妻、欲夫人で居る事……

 これが私に与えられた残りの人生であり役割でもあり、もうそれしか、する事が無いのだから……


「よしわかった、では直接話そう、ヨランは来なくて良い」

「はい、あなた」


 そう言って出て行った夫……

 着替えも終わりアクセサリーも念入りに選び、

 贈り物までチェックして戻ってくるのを待ったが、出発の時間が近づいても一向に気配が無い。


(……何かあったのかしら?)


 心配になり様子を窺いに行くと玄関が騒がしい、

 隠れて見ると王城からの使いと思われる者達と、

 夫が何か言い合いをしていた、それに耳を傾ける。


「今更良いだろう、妻には伝えておく、もう帰れ」

「いえ、陛下から必ず、確実に『直接』伝えるようにと」

「私が聞いたのだ、直接と何ら変わらないだろう、折りを見て伝えておく」


 陛下から……?

 今更何を、と思いながら私は姿を見せる。


「ヨラン様! いらっしゃいましたか」

「来るなと言っただろう」

「はい、あなた」


 おかしな胸騒ぎについ出過ぎてしまった、

 一礼をし、素直に引き下がろうとすると……


「ヨラン様、勇者ラスロ様が、お城に帰還なされました!」

「……??」

「下らない話だ、ヨランは戻れ」


 ……『はい、あなた』とは言えなかった。


「それは、遺体が引き揚げられたという事でしょうか」


 あの時、魔王ともども落下し、

 溶岩の中で骨まで溶けたはずでは……!!


「いえ、十二年もの間、魔界で孤軍奮闘し、全ての魔王を倒して戻られました!」

「では、じゃあ、生きていたのね?!」

「はい、ボロボロではありましたが、五体満足、無事に陛下の元へと……!!」


 私の中で、

 意識が十二年前に戻る!


「よし、妻は聞いた、こちらももう出発の時間だ、帰れ!」

「し、しかし」

「うっ、うううううぅぅぅ……」


 あまりに衝撃的な事実に、

 涙が溢れて止まらないっ……!!


「ヨラン、とりあえず馬車に乗れ、そこで気持ちの整理をつけろ」

「……少し時間を下さい、仕度をして参ります」

「わかった、そうだな……一時間やろう」「十五分で充分です」


 私は涙を拭き、急いで私兵の倉庫へ駆け込み、

 剣を二本持って戻ってくる……驚く夫、だった人。


「なんだ、どうしたそれは」

「今すぐ外で一対一の勝負です、負ければ従いましょう、

 でも私が勝てば……モリス様、さあ、剣をお受け取り下さい」


 鼻で笑うモリス。


「そんな暇は無い、さあ行くぞ」

「では『モリス様の負け』で、よろしいですね?」

「勝ちも負けもあるか」「そうですか……わかりました、それでは失礼致します」


 私は深く一礼をし、

 元夫の横を通り過ぎ、

 まだ表に居る、陛下の使いの方へと掛け寄る。


「待て、どこへ行く」「触るな!!」


 腕を握ろうとすいた手を強く(はた)く!

 今までに見た事が無いであろう私の剣幕に驚くモリス。

 それを無視するような形で馬車へ……


「さあ、王城へ」

「そのドレス姿でですか」

「……そうだな、これは私のでは、無い」


 口調が侯爵令嬢から、

 十二年前の『伝説の女剣士』に戻っていた私。


「途中で普通の服を購入は出来るか」

「わかりました、途中に街に寄った時に」

「代金は必ず支払う、建て替えておいてくれ」


 馬車の中でドレスを脱ぎ、

 ほぼ下着に近いような姿になって窓から放り投げる。


「ヨラン!!」

「さあ行ってくれ、もうこんな所にもう用は無い」

「はっ!!」


(あぁ、私は、私はやっと……幸せに、なれるのね……!!)


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「陛下、改めてお聞きしたいのですが、私の婚約者は」

「そなたの婚約者は、誰一人、待ってはおらぬ」

「……どうですか」「ということで、二人目の妻を用意した」


 やってきたのは王宮騎士団の服装に身を包んだ……!!


「ロズリと申します、十九歳です、ラスロ様の伝説を読んで騎士団に入りました」

「……若い、ですね」

「子を沢山儲けて貰わねば、困るからな!」


 とはいえ昔のヨランよりもは細い……

 いやいや、すでに幸せになっている元婚約者の事は、忘れよう。


「ロズリさん、ロズリ、ちゃん?」

「はい、ロズリで良いです!」

「ええっと、俺でいいの? もうおっさんだけど」「憧れの勇者様ですから!!」


 まあ、これから育てれば良いか、色んな意味で。


「それでだラスロ殿、ひとつ頼みがあるのだが」

「はい陛下、何で御座いましょうか?」

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