第187話 魔物ハーレム といっても本当に手を出すと、何か大切な者を失いそうな気がする。
「ならラスロ、子供が産まれるまで、いえ子を孕むまで、集中して魔界に住むってどう?」
「いやまあ、こっちでもそういう行為は、やれないことは無いだろう」「やっぱり空気が違うわ」
「ソウダソウダ」「アストサマノ、イウトオリダ」「オレタチガ、テツダッテヤロウ」「何をする気だ!」
ここはアストの部屋、
メイドドリアード(嫌な呼び方だなおい!)に囲まれつつ、
婚姻を詰めさせられる俺、いや婚姻を結ぶのはアストが俺の力になる、最低限の条件だった。
(上手く誤魔化せられると思ったのだがな)
所詮、相手は魔物だ、
婚姻の何たるかとかわからず、
適当にお茶を濁し続ければ自然消滅する話だと思っていた。
「それでラスロとの間に生まれるエルフは、どこに住まわせる?」
「まあ流れから行けばラグラジュ大森林だろう、あそこは小国規模の広さだし」
「オレタチガ、マチヲツクッテオイテ、ヨカッタ」「エルフヨウニ、カスタマイズスルカ」
正直あそこはドリアード用の街だもんな、
もちろん少しは人間に気を使ってくれているが、
そこから考えればエルフサイズにも適応していると言える。
(カスタマイズってことは、マザーツリーの設置か)
嫌だぞアリナやミオスが、
某大聖女みたいに樹になっちゃうのは!
選ばないにしても、さすがに人では無い状態にはしたくない。
「まあ、まだまだもうちょっと、こっちでする事が」
「魔界では、魔界でのする事が全部終わったらって言っていたわよね?」
「ああ、だから今はその、次のこの今の段階に来ている訳で」「どこまであるのよ」
どこまでも先延ばしにしたい。
(アリナやミオス達とすら、まだなのに)
いやほんと、
もうこれは新旧魔物ハーレムどれを選ぶかって話だ。
「ねえラスロ」「あっはい」
「私が本気を出せば、ラスロは傀儡に出来るわ」
「操り人形な」「樹にしないで永遠に操る方法もあるわ」
銀の種や銅の種も持っていたな確か。
「アストサマノ、ゴジヒダゾ」「黙りなさい」「ハハッ」
怒られてやんのメイドのドリアード、一匹だけだが。
「ナルガだって、本気を出せばラスロに抱きついて放さないわ」
「寝ぼけて潰されそうになったのは良い思い出だ」「あばらが折れてたわね」
「しっかりアストに治してもらった、その時はありがとう」「話を戻すわよ」「どうぞ」
最初の、魔界での十二年間は、
もう良い思い出ってことで流したい。
「リムリアも、その気なら永遠に夢の中から逃がさないことだってできるわ」
「そんな目にあった敵がいたな、不死の魔物、今でもあそこでくるくる回っているのだろうか」
「観に行く?」「いや遠い」「モッテキテ、ヤロウカ」「いや扱いに困る」「ソウカ」「もう、そっとしておこう」
リムリアの場合は夢の中で殺す事も出来るからな、
敵に回すとやっかいでしかない、味方なら本当に頼もしい、
だからって、あんな夢やこんな夢を……まあ最初の魔界では楽しませて貰ったが。
「カミラだって、当然、ラスロをアンデッドにする事も可能よ」
「鮮度っていうか、度合いがあるらしいな」「ええ、お人形さんから骨まで」
つくづく思う、
骨だけになっても喋ったり考えたりするからくりって、
一体どうなっているのかと……声帯も脳も、もう無いはずなんだが。
「つまりは」
「ラスロを無理矢理に従わせないのは、みんなラスロを信じているからよ」
「その、何を」「裏切ったり、逃げたりしないって……だからこうして待っているの」
改めてそこまで言われると、
いかに相手が魔物であっても胸が痛む、
味方なのは間違いないんだし……だからこそ、裏切ったら後が怖い。
(なので誤魔化して逃げる、が俺の作戦だったのだが)
まさか、ここまで世話になるとは。
「すまない、もうちょっと待ってくれ」
「ええ、今までさんざん待ったのだも、もう少しくらいなら、ね」
「グタイテキニハ」「アストサマハ、ホントウハモウマチキ……グハアッ」
あっ、ツルを伸ばして倒しちゃった。
「ラスロを信じるわ、だから、ね?」
「ああ、その、あとちょっと、もうちょっとだ」
「楽しみにしているわ」「お、俺はその」「その時は、繋がりましょう」
微笑むアスト、
しかしなあ……うん、
いざ本当に、実際にってなった場合、相手が魔物だと、やはり抵抗が……
(今更ながら、怖気づいてしまう)
これが俺が子供で相手が大人なら、
まだ自分が若い、で済む話なのだが、
こと人外まで行ってしまうと、なんかこう、恐ろしい。
「そうだわ、こうしましょう」「どうしたアスト」
「今夜はベッドにナルガも、リムリアも、カミラも呼びましょう」
「いやいやいや」「ベッドの大きさは十分よ?」「そういう心配はしていないが」
……その流れで本当に魔物と『致して』しまったら、
なんだろう、こう、人間として大切なものを、失ってしまいそうな気がする。
(それがお礼、対価だとしても)
俺が観念しないと行けないのはわかっている、
その時間が近づいてきているのも、もう逃げ切れないのも……
だが、しかし、それでも俺にはまだ、『選択』というものが残されている。
(そう、選ぶのは、旧ハーレムか、新ハーレムか、魔物ハーレムか)
そしてそこには当然、
俺が『誰も選ばない』という選択だって……あるかなあ?!
「ちょっと、歩きながら考えてくる」「行ってらしゃい」
俺が向かった先は……!!




