第18話 山中の温泉露天風呂は安全なのに安心できない
「ふう、昼間っから温泉かぁ」
山越えの途中、
騎士団の訓練所というか合宿所というか、
もちろん元は魔物に備えての施設だったらしいが、そこで温泉に浸かっている。
(昼間っから贅沢だな)
この後、みんなに昼食も出して貰えるとか……
男湯の露天風呂では運転手のダンジュはもちろん、
午前に訓練もしくは見張りだかをしていたであろう騎士団員も何人か浸かっている。
(さすがにこの時間に、酒を呑みながらって訳にもいかないよな)
いくら安全だからって……
ちなみに魔界にも温泉はあって助かった、
熱過ぎるのもあったがまあ工夫して、それはさておき。
「思い出すなぁ、十二年前……」
俺が魔界に落とされる前、
魔物に占領されて捨てられた山の中に、
かつては営業していた露天風呂があって……
(そう、束の間の休息を楽しんだ、あの時間……)
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
「ラスロ、結界を張っているからしばらくは安全よ」
「お、おうアリナ、ありがとう……って近づいてくるなっ!」
「あら、真ん中の方が一番良い温度だから、仕方ないのでは?」
こんな山奥に露天風呂があったのは嬉しいが、
脱衣所は別にもかかわらず中が混浴だったとは……
いや、厳密には中央で分ける仕切りの竹筒が何本か立っていた跡はあった、だがもう数本しか残っていない。
(本当は綺麗に立て揃えられてたんだろうな、隙間なく壁のように)
それでも悪い奴が覗こうと思ったら覗けたんだろう、
いや俺はそんな事はしないぞ、いくら婚約者が相手であろうと、
魔王を倒すまでは、平和を取り戻すまではそういう事は決してしないと……!!
「ラスロ、今更何を恥ずかしがっているんだ、話がし辛いだろう」
「この距離でも十分だろうヨラン、ここには俺たちしかいないんだから!」
「私はラスロの姿を存分に見られるわ、ふふっ、目が良いので」「エミリ……」
あれ?
俺の目の前のお湯にぶくぶくと泡が……?!
ざばああああ~~~っっ!!
「ラスロサマァ!!」
「うっわ、ネリィこらっ!」
「潜って遊んでいたら、間違えてここに出てしまいましたぁ!!」
ぜってー嘘だっ!!
「いいから戻れ、男湯エリアだぞっ!」
「ん~、方向が湯気でわかりませんね~」
「こらこら、どさくさまぎれに抱きつこうとするなっ!!」
ヨランがすたすたと歩いてやってくる。
「仕方ないなネリィは……おおっと足が滑った」「ヨランまで!!」
「おふたりとも白々しいですよ……はっ、あそこに怪しい影が見えます!」
「なに、エミリ本当か?!」「近づいて見てみないと……あっ、葉っぱでした」「おいっ!!」
理由つけて、くっつきにきやがってえ!!
「もうみんな、落ち着いてこちらへ」
「はっ」「はい」「わかりましたアリナさまぁ」
正妻の言う事は本当によく聞くんだよな、俺のハーレムは。
「ということでラスロ、いえラスロ様」「お、おう」
「首筋が汚れています、洗ってさしあげますからこちらへ」
風呂中央でタオルを持って待ち構えている。
「わ、わかった」
「背中を向けて、もうすこし下がって」
「こうか」「もう少し」「……このあたりか?」「はい、では……あっ」「どうした?!」
いつのまにか、残っている竹筒が斜め前に!
「女湯に入ってきてしまいましたね」
「いやこれは、アリナに誘導されてっ!」
「ラスロ様自らという事は、これはもう……仕切りは関係なしで!」「ちょ、待て、わわわわわ!!」
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
という事で結局、
そこそこ洗われてしまったんだよなあ……うん、若かった、
俺もみんなも……あれが魔界前、最後のお風呂になってしまうとは。
(ん? なんだなんだ、脱衣所が騒がしいぞ?!)
ガラガラッ
「ラスロ、洗いに来ましたわ」「アリナ?!」
ちゃんと服は着てて腕まくり足まくりしている!
「私も来たぞ」「ヨラン! ここ男湯だから!」
「ここの今いる偉い騎士団員が、私の旧知の仲の部下でな」
「だからって!」「まあまあ、私達はラスロしか見ていませんわ」「エミリまで……」
と、いうことはあ!!
「はぁーい、ラスロサマのネリィですよぉ~!!」
ざっぶうううううんっっ!!
「うわ、どこの屋根から飛んできた!!」
「ラスロサマのオ背中をオ流しできるボーナスタイムですからぁ~、
なりふり構っていられません~!!」「あーお前ら、人に迷惑をっ、かけるなあああああ!!!!!」
(……それだけ必死なんだろうなぁ、大変だぁコレ)
この後、騎士団の皆さんにめっちゃ謝りました、もちろん五人で。
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一方その頃、女湯に浸かる新ハーレムは……
「男湯の方が騒がしいですが、まさか」
「そんな痴女みたいなこと、しても心象を悪くするだけでは?」
「様子を窺って参りましょうか、アサシンのスキルで」「叔母さんなら、ありうる……」
悪い予感は、的中していたのであった。




