第167話 復活の大聖女 ただし、もう取り返しのつかない身体に……
「……あら、痛みが、苦しみが消えたわ」
むくりと突然起き上がった大聖女さま、
枯れ木の用だった腕が、皮だけのようだった肌が、
みるみるうちに綺麗になり、やわらかく膨らんで行く……
「これは……少し、若返ったみたいね」
うん、健康的なご老人になった、
もちろんお婆さんであるのには間違いないし、
つるつるすべすべでは無いものの、健康的なお年寄りって感じ。
「大聖女様、これで良いか」
「あなたは」「ヨランと申す、アリナの補佐、剣士だ」
「そう、もういいわ、これはずっと続くのよね?」「ラスロ」「ええっと、ま、まあ」
ここで全てを説明するべきか、否か。
「なら良いわ、特別に許します」「そ、そうですか」
「貴方は確か勇者よね、今、魔物が襲ってきていると聞いたわ、
現にこの、修復中の修道院の周囲にも」「あれは味方です、安心して下さい」
そして安心したのか、
ヨランもふらついている、
それを介抱するミオス、ありがたい。
「味方なら、早くあの樹の魔物を」
「はい、アリナとヨランを回収して、そのまま去りますから」
「……良かったわ、これで死ぬことは無いのね」「え、ええまあ、詳細はのちほど、落ち着いてから」
俺はアリナをお姫様抱っこで抱え、
ヨランはミオスに支えて貰いながら、
無事、修復中の修道院から脱出する事ができた。
(……いいのか、本当に良いのか、今すぐなら吐きだせるかもだが……)
修道院前では、
まだ事情を呑み込めていない聖騎士団が身構えるが、
後から来た聖女に説明を受け、敬礼しながら俺たちを見送っている。
「……ヨランもう少しだ、頑張ってくれ」
「ああ、アリナが羨ましいな、私もそうやってラスロに」
「後でドリアードにやって貰ってくれ」「本気なら酷いな」「まさか」
そうこうして寒い中、
ようやく移動屋敷へ戻ったとたん、
ヨランは倒れ込むように眠ってしまった。
「ロズリ、手伝ってくれ」「ええ、一階で良い?」
「どうだな、とまりあずは居間で、アリナと並ばせて」
「モウスンダノカ」「ああ、全員撤収だ」「ワカッタ、ツイデノサギョウヲスル」
何をするのかと思ったら、
足元が凍っていたドリアード達が、
そこかに置いていたアリナとヨラン用の移動小屋を三階にくっつけた。
(わっざわざ、そんなことを……)
そして北組と大森林組のドリアードが合流、
もうこんな所に用は無い、とばかりにさっさと走り出す、
落ち着いた俺は帽子を脱ぐとアストの種がぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「それでラスロ様、結局、あの『黄金の種』は」
「ああ、あれで不死の魔王にトドメをさした事もあってな、
あれを呑み込むと身体が徐々に徐々に、樹になっていくんだ」
アストの芽が頷いている、
何人か血の気が引いているな。
「では、あの大聖女様は」「最初の数日は元気な人間のように見えるだろう、
だが、肌が徐々に木目化していき色も木の茶色に……やがて動きが鈍くなる」
「見た目も樹に」「ああ、やがて体内が完全に犯されると……根を張る、おそらく最初はベッドにな」
まあ、さらに伸びて床まで行くかも知れないが。
「その後は」「最終的に樹になるはずだ、アンデッド相手だとすぐ樹になったが、
人型の魔王だとみるみるうちに樹になった、その時、人間の場合はもっとじっくりゆっくり数日かけてと聞いた、なあアスト」
素早くコクコク頷いている。
「つまりは、もう」
「今、急いで引き返して吐き出させたなら……ってもう無理みたいだぞ」
芽が左右に振られているからね、
もう取り返しのつかない身体になっているのだろう。
「ねえラスロ、大丈夫なの?」
「エミリ、これは大聖女自ら望んだことだ、
まあ状況の説明は王都に戻ってから、一人くらい聖騎士団とか教徒とか残っているだろう、そいつに」
ということで、
一応は無事に? アリナとヨランを奪還できた訳だが。
「あっ、ドリアードのみんなも改めて、ありがとうな」
「ヨカッタヨカッタ」「アストサマガシンパイダ」「ハヤクゴウリュウヲ」
「ええっと、王都へ戻らずエルフの国を目指した方が良いか?」「ダナ」「ダナダナ」「ソウシヨウ」
アストの種を見ると、
芽がゆっくりと頷いた。
(まあ、仕方ないか)
まったく忙しいなあ、もう。
「ではエルフの国へ向かう、エミリ、案内を頼んだ」
「ええ任せて、事情をきちんと丁寧に説明すれば、話は通じるはずよ」
「ドリアード、平気か」「アストサマノ、タメナラ」「マダマダイケルゾ」
とはいえ、途中の湖で休憩くらいはさせてやろう、とその前に……
「さて、腹が減った、途中の村か街で食事でも採ろう」




