第165話 北へ北へ そしてこっそり相談する相手はというと……
「よし、みんな二階で寝てるな」
そう呟いた俺は、
北へ北へと夜通し進む移動屋敷の一階、
本来はリンダディアさんの居た、運転室もとい前方確認室に居る。
(わざわざここで寝るくらいなら、居間で寝ろって? 違うよ!)
こっそりアリナについて相談なんですよ、
いや、自問自答だと頭の中だけで考えるから、
話相手が欲しいと思って……俺は座って話し掛ける。
「アスト、そっちは順調か?」
少し間を置いて、
種から出た芽が少し傾げながら頷いた。
「ちょっと何かあったがまあ大丈夫って所か」
今度はコクコクと頷いている。
「リンダディアさんは無事か?」
コクリと一礼。
「そうか……まあいい、
これから元婚約者、って言って良いんだよな、
あんな結婚パーティーもどき……情報をまずは整理する、聞いてくれるか」
軽く小刻みにコクコクと。
「俺がアスト達にさんざん帰りたい、帰らせてくれ、俺を待っているみんなに一度会いたい、
そう言って十二年ぶりに帰ってきた人間界……正妻側室、誰ひとりとして待っていてはくれていなかった、
そこでようやく、確かにあれでは死んだと思われていてもおかしくないって気が付いたんだ、間抜けだろう」
ゆっくりと左右に振る芽。
「まあ実際、死んだ人間を待ち続けるだなんて不幸でしかない、
側室の三人はアリナの命令という形で幸せな家庭を築いていた、
俺が戻ってこなければ……まあこれに関しては色々と複雑な内情もあったが」
自分を殺していたり、
エルフの人間への嫉妬だったり、
お金目的だったりとか、でもまあ、それでも元側室は幸せだった……のかな。
(ヨランだけはまあ同情はある)
そして問題は、正妻だ。
「側室は置いといて、正妻だったアリナだけは誰とも結婚せずに居てくれた、
だが、俺を待っているのではなく、俺に対してあの世で苦しまないでくれと祈り続けていた、
そしてそれを死ぬまで続けて、死んでから再会できると信じていた、正直、これどう受け取ればいいんだ」
思いっきり首を、いや芽を傾げている。
「まあもちろん『祈る』という部分では、俺の平穏な死後を祈るのと、
俺がこの人間界へ無事に帰ってきてくれと祈るのとでは、違うとも言えるし同じとも言える、
俺への愛を持ち続けていたとも言えるが、生きて帰ると信じていなかった事実を考えると……」
芽が真面目に姿勢を伸ばした。
「そこでだ、俺はアリナをどうしたらいいんだ、
いっそ『なんてことしたんだ』と責めるべきなのか、
十二年間も勘違いさせて、帰れなくてごめんと謝罪するべきなのか」
……アストの芽は無反応だ、
それはまるで、目を瞑っているかのよう。
(今更そんな話か、とか思っていたらどうしよう)
でも、聞いて貰いたい。
「ずっとアリナが俺に謝り続けていて、
そして昔のまま、十二年前の続きをそのまましようとしてくれて、
結婚披露パレードみたいなことまでやって……それで俺も嬢が絆された部分もあるかも知れない」
そのあたりは新ハーレムが、
ちょくちょくと釘を刺してくれた。
「ただ落ち着いて整理すると、俺はまだアリナ達、旧ハーレムを選ぶと決めた訳じゃない、
そして旧ハーレムが戻ってくる前に新しいハーレムが結成して、俺は受け入れた、はずだ」
種がぴょんぴょん飛び跳ねている、
これどういう意思表示なんだろ、まあいいや。
「どっちを取るか選べない、いや、選んでいない、
そんな状況でアスト、ナルガ、リムリアが俺を助けに来てくれた、
こんな中途半端な状況で、俺のせいとはいえ魔物が人間界に再び出てきたのを対処するために」
俺の頭に乗って跳ねてる、
これはなんとなく、勇気づけてくれている感じかな。
「俺は、どうすれば良いんだろうな、
これからアリナに会って、助けて回収して、
魔界のゲートを一緒に完全に封印して、それでめでたしめでたし、では駄目なのか」
うん、駄目だな、ちゃんと選ばないと。
「とにかくアストとも、きちんと向き合うし、
そのためにもアリナとも向き合うよ、ミオスとも……
だから一度、アリナとミオスとアストと俺で、話し合う機会を作らないか」
一回転して俺の前に嫡子し、
コクコク、コクコクと高速で頷く芽。
「俺は逃げない、逃げようも無いしな、
アストの詰めたがっていた話を、みんなで詰めよう、
そうする事で……平和が近づくような、そんな気がする」
ゆっくりコクリと頷いてくれた。
「……アストありがとう、こうやって相談に乗ってくれただけで、心が楽になったよ」
うん、どういう結論に進むにしろ、
まずはとにかく、アリナを救出しないとな!
(それにしても……床下のドリアードたち、よく黙って聞いていてくれたな、良かった)
走るのに夢中か、
さすがに空気を読んでくれたかだな、
そんなところで、とりあえずは寝よう……こんな所で。
「アスト、お休み」
俺に寄り添うアストの種(芽)であった。




