第156話【アリナ回想】愛する勇者を失って 全ての責任を取り、聖女を辞退し命を修道院に捧げるが……!!
「ラスロ!!」
魔王をあと一歩まで追い詰めたラスロ、
しかしその直後、まさかまとめて火口へと落ちる!
急いで光魔法の縄を伸ばす、が、姿が見えないっ!!
(お願い、間に合って!!)
更に光魔法を伸ばす、
掴んでくれるはず……そう思って縁まで行き、
下を見ると……大きな火柱があがり、そこには……誰も居なかった。
「そんな、そんな……」
生命反応は……無し、
ラスロも、そして魔王も……
その瞬間、さっきの火柱が、何が落ちて立ったものかを理解した。
(これはもう……助からない)
見るとヨランが、
その火柱の痕へ飛び込もうとしていた!!
「ヨラン!!」
私は両肩を掴み、
無理矢理に引き戻す!
もう、追いかけても……遅いのだから。
「……ラスロが、ラスロが」
「私がっ! 私の魔法が、もう一歩、届いていればっ!!」
光魔法の縄の出すタイミングがもう一歩早ければ、
縄が伸びるスピードがもう一歩速ければ、ラスロは、ラスロは!!
「あぁラスロ、ラスロ、まだ生きてるなら返事をして、お願い!!!」
「ラスロサマァ……ァァァ……ウグッ……ゥァァアァァッ……アアァァァ……」
エミリとネリィも泣き叫んでいる、
ハーレムの主、愛する勇者様を失った私達……
魔王は倒せた、しかし、その代償は、あまりにも大きすぎた……
(ラスロ、ごめんなさい、ラスロ……)
……とにかく、
みんなをまとめて帰らないと、
そう、サブリーダーとして、そして……正妻として。
「ヨラン、エミリ、ハミィ」
声をかけるも、
みんなまともな状態じゃない。
(だからこそ……今、だからこそ、ラスロのために、私がしっかりしないと!!!)
……その後の帰り道は、憶えていないわ、
ただ、私はちゃんと、きちんと帰れるように先導した、
もうその役割が出来るのは、私だけなのだから……そう、全ての責任を、取れるのも。
「こういう事になってしまったが魔王討伐は成功だ」
なんとか王城に戻るも、
陛下から頂いた言葉で憶えているのはそれだけ、
その後、廊下でひとり呼ばれ、教会の使いの者から言われたのは……
「おめでとうアリナ、今日から聖女よ」
「私が……聖女」「魔王討伐で認められたのよ、これで正式に結婚も許されるわ」
「……辞退します」「えっ?!」「一緒に喜んでくれるはずの、勇者様が、もう、いらしゃらないので」
そして控室に戻り、
ラスロと共に結婚するはずだった、
側室の三人にも私はきっぱりと伝える。
「私は聖女を辞退しました、なぜなら聖女は人を導く立場になるからです、
しかし私はラスロ様の所へ導かれたい、ですので世を捨てる修道院に籠ります、
そして死ぬまで毎日、延々とラスロ様が安らかに居られるよう、生涯、祈り続けます」
そう、ラスロの魂が天に召されたのであれば、
気持ちだけでも、心だけでもラスロの居る場所に近づきたい、
毎日、毎日、ラスロを想い続ければ、きっと、私の想いは……届くはずなのだから。
「皆さんとの連絡も取れなくなります、いえ、もう皆は連絡を取り合わない方が良いでしょう、
ラスロ様の正妻として最後の命令です、私は正妻としてラスロ様を亡くした全ての罪を背負います、
ですから皆さんは、ラスロ様の本来受けるべきだった幸せを、新たなお相手と全うして下さい」
この直後、ヨランに『ずるい』って言われたわね。
「はい、もうラスロ様は私が独り占めです、どうぞ恨んで下さい、正妻特権です、
その代わり、ついでに私の分も残りの人生、幸せになって下さい、そして……来世では、
来世こそは、また、ラスロ様とハーレムを……その時は、本当の笑顔で集まりましょう」
こうして私はひとりひとりを説得、
ラスロの、いえもう亡くなったのでラスロ『様』のために、
それぞれ幸せになって貰い、全ての罪は私がひとりで背負う、それこそが……私への罰、そして、義務。
(さあ、ラスロと同じように、この世を捨てましょう)
そして私は世間と切り離された、
その身を神にだけ捧げる者が籠る、
北の最果て『マベルス修道院』に着いたのだったわ。
「これはこれは聖者アリナ、よく来ましたね」
「はい導師様、この身を捧げに参りました、全てをお渡しします」
「一度入ると、もう二度と出られませんよ、良いですね?」「覚悟を決めて参りました」
私は全てを捨てた、
いいえ、全てを失って来た、
そう、唯一残るのは、心の中へ大切に仕舞ってある、ラスロ様への想いのみ……!!
「基本的には毎日、聖水に打たれるみそぎの修行、これを生涯続けていただきます」
「はい、やらせていただきます」「本当に心が研ぎ澄まされている瞬間は、その気持ちは天界にまで届くとされております」
「願っても無いことです」「何十年も続ければ、いつか、あちらからの声が聞こえる日も来るでしょう」「はい、その日のために」
もし死ぬまで聞けなかったとしても、
死ねば聞こえるはず、それまでの間は、
たとえ一方的であっても、ラスロに伝わり続けるはず……!!
「時折、下界から身体の治療を求める方もいらっしゃいます、
その場合は、天界の命として、神の代理として癒すのです、良いですね?」
「はい導師様、全て従います」「よろしい、今後は聖女ラフテを貴女につけましょう、生涯、祈り続けるのですよ」
こうして私は修道院での修行を始めたのでした、
過酷な修行はラスロ様を失った罰、意識が遠のけばラスロ様に近づける、
治療に来た者を救えば神の代理としての働き、その褒美にきっと、ラスロ様と再び……!!
(あぁラスロ、ラスロ様、アリナは……アリナは、これからもずっと、一緒よ)
そして天寿を全うしたその先に、
きっとラスロが……私はもう、それにすがるしか、無かった……
まさか、まさかラスロが魔界で生きていて、私達が帰りを待っていると、信じているとも知らずに。
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「といった感じよ」
「じゃあ、治療に利用されて」
「そのお布施は、修道院を五回は建て直せるはずよ」
などという会話をしながら、
マベルス修道院まであと一歩という所に到着していた、
アリナとヨランなのであった、果たしてふたりはどうなる……?!




