第155話 夜の出発進行 そしてその頃、アリナとヨランは。
「なんだか私、留守番らしいです」「ソウダ」
「リンダディアさん、むしろ安全な所へ居てください」
ここから先は、
ひょっとしたらとんでもない魔物が出るかもしれない、
一度、封印を解く事になるのだから……ロズリは元騎士団仲間と別れを惜しんでいる。
「大丈夫よ、すぐに戻ってくるわ」
「勇者様の護衛ですものね」「何かあったら任せて!」
「ええ、王都に知らせて頂戴」「ソノトキハ、オレタチガハコブゾ」
見送りドリアード達も勢ぞろいだ。
「ラスロ、アストサマヲ、タノムゾ」
「良いけど、俺たちと一緒に行く運搬ドリアードにも何か言ってやってくれ」
「イッテコイ」「イッテクル」「マカセタ」「マカサレタ」「ハコンデコイ」「ハコンデソノママカエル」
そうか、魔界ゲートで新たな交代もあるのか。
(さあ、いよいよ夜の出発進行だ)
アストが大きな川沿いで宣言する。
「ラスロとの婚姻に向けて、手伝ってくるわ」
「アストサマ―!」「アストサマノタメニ」「アストサマノオコトバ、アリガタイ」
「さあラスロ、みんなも乗って、この川が魔界ゲートへの通路よ」「あっ、道なのか」
つまり便利なルートを引いたと、
このラグラジュ大森林、ちょっとした小国くらいの広さがある、
道なき道、うっそうと生い茂った森を獣道便りでは、目的のダンジョンまで何日かかるか。
(それを、一気に省略してくれている訳か)
後は水路をすいすい泳いで行くだけ、
これ思ったより早く到着していそうだな、
封印がしっかりしているなら、途中で魔物に会う可能性も低いだろうし。
「じゃあ、アタシと一緒に乗るさね」
「いやナルガ、うわ、うわわわわわわ!!」
連れ去られるように抱きかかえられ、
あっという間に天窓から入場……抱きつかれて、
なぜか舐められている、なんだか懐かしい魔界でのスキンシップ。
「ラスロの味さね」「どうした急に」
「大きな戦いの匂いがするからね」「匂いがするから舐めるのか」
「それで結局、再会した人間の一番近しいのとは、どうするさね」「ええっとアリナのことか」
旧ハーレムの中では結婚したり子供を産んでなかっただけ、
一番マシといえる、だが、他の三人、側室に他と結婚しろと唆した、
ある意味で元凶とも言える、いやいやあれは仕方なかったのだろうけども。
(そういやアリナだけ、まだ改めて俺と別れた後の事を聞いていない気が)
もちろん他の三人の詳細を聞いて、
どうしてこうなったかの流れは判明した、嫌でも。
ただ、アリナ視点での俺と別れての言動、考えがどうだったか……
(このあたり、まだきちんとは聞いてないような)
そして、聞くのが怖いような。
「さあ、走り出すわよ」
「うわ、アストいつのまに」
「ナルガといちゃついている間によ、私も舐めたいわ」
アストの場合は、
舐めると言うより包み込むからなあ、
本当、魔物は怖い、俺に好意がある人型であっても。
(あっ、動き出したなこれ)
狭い隙間窓から外を見ると、
みんな手を振ってくれている、
いや騎士団とリンダディアさん以外はドリアードだが。
(いよいよか……)
それはそうと、
今頃アリナとヨランは、
どうしているのだろうか……?!
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一方その頃、
北へ北へと向かうアリナとヨランは。
「本当に速くて助かります、聖騎士団なんて、とっくに突き放して」
「ああ、ぶっちぎったな、奴らの顔といったらなかった、ドリアード達に感謝だ」
「この小屋も、本当に揺れませんね」「急造とはいえ、しっかりしていてソファー兼ベッドも完璧だ」
もはや、くつろいでいる状態のふたり。
「さっさと終わらせて、ラスロの元へ駆けつけましょう」
「結局、その大聖女とやらの治療をすれば良いのだな?」
「ただ、もう寿命なのを私の力で騙し騙しですから、そろそろ」
逆にそうなったら、
それはそれですぐに帰れるのでは? と思うヨラン。
「……粗方は聞いたが、改めて、アリナが修道院に入った流れを聞きたい」
「あら、十二年前に言ったではありませんか」「その後の話だ、私達と別れて修道院へ行った時の」
「そういえば、ラスロにも詳しい経緯は話して無かったかも知れませんね」「どうせ暇だ、行かせて欲しい」
少し外を見て、
ヨランを正面に見つめる。
「わかりました、ラスロに話す練習ということで」
「ああ頼む、聞かせて貰おうか」「はい、ではどこから……そうですね、では……」
こうしてアリナの回想が始まったのであった。




