第137話 目が覚めるとそこはアスト城 つまり、その気になればどうとでも出来るという訳か
「ラスロ、おはよう」
「ううっ……眩しいな」
「ここの窓は朝日が良く入るのよ」
眠気まなこで目をこすり、
見るとアストが見下ろしていた、
いつのまに……お城には入るなとナルガより先に言われていたはずだが。
「アスト、ここをどこだと」「私の城よ」「えっ」
起き上がって見回すと、
うん、確かにアスト城の最上階、
城主であるアストの寝室だ、って俺いつのまにここへ?!
「ふふ、今日はこっちのはずよ」
「そ、そうだが、いつの間に?!」
「秘密よ、内緒、人間のお城に入ったかどうかも含めてね」
恐ろしいなあ、
どんな手を使って俺を連れてきたのか、
ふと第三の仲魔、サキュバスのリムリアが飛んできたのでは? と頭によぎった。
(……まだそれは無いはず、アイツが現れたなら、独特の匂いが残るはずだ)
そう、男を酔わせる妖しい匂いが。
「さあ、朝食にしましょう」
「お、おう、また木の実か」
「それもあるけど、みんなで食べましょ」
アストに抱きかかえられたまま、
でかい魔物サイズの廊下に出て階段も降りる、
普通にドリアードが掃除していやがるな、エプロンつけてら。
「オハヨウゴザイマス」
「あら、おはよう」「おう、おはよう」
(魔界だと、ここまで人間臭くはなかったな)
おそらくこっちに適応しようとしているのか。
「食堂はここよ」
入ると大きく広いテーブルでは……!!
「おいしーい」「ホラホラコボスナ」
「お水とってー」「ハイハイ、コオリヲイレルカ?」
「もうちょっと、低く」「コウカ?」「そうそう、ありがとう」
ネリィの子供達が、
ドリアードを椅子にしつつ朝食をいただいていた!
いやほんと丁寧に世話しているな魔物なのに、頭が下がるよ。
「「「「「「アストサマ!!!!!!!」」」」」」」
「おはよう、みんなも」「「「「「「「おはようございます」」」」」」」
子供達ちゃんと挨拶しいてる、
さささっと子供達の反対側中央のテーブルに、
豪華な朝食が並べられる、いや量が多いなこれ。
「さあラスロ」「えっ?!」
気が付くとアストが椅子になって、
俺が座らされていた、これ俺の朝飯か。
「はい、いただきますは?」
「お、おう、いただきます」
「じゃあ、あ~ん」「いやいやいや」
新婚かよ!
いやほんとアストが母で俺が父で、
目の前の子供たちを養っているみたいだ、ネリィどこ行った。
(俺が王城から忽然と姿を消して、びっくりしているかも)
かといってドリアードに伝言とか頼む訳にもいかないしな。
「ふふ、ラスロ懐かしいわね、魔界でみんなで暮らしていた頃」
「あれはあれでカオスだったが、そういえばナルガは」「外よ、ほら」
両腕の枝で窓まで運ばれる、
庭で王城から貰ったであろう牛一頭を喰ってやがる、
あれ生きたままだよな恐ろしい、ある程度は弱らせてあるのだろうが。
(そして元の席へ、アストの膝上へ戻されて朝食っと)
普通に肉も多いな、
ドリアードが大森林との行き来で獲ってくるらしい。
「さあラスロ、朝食が終わったら、わかっているわね?」
「ああ、食後の運動で決闘だ、昨日ナルガともやったぞ、模擬戦な」
「もう、そんなの後でいくらでもしてあげるから、話を詰めるわよ!」
……考える暇も与えてくれないか、今更だが。
(いや、この朝食の時間に考えよう)
ええっとアストの希望は俺と一体化して、
何百年も捕らえておきたいっていう感じだったよな、
永遠の命が欲しい奴とか喜びそうだが俺なら途中で絶対飽きる。
(老人になって、死に際に助けてくれって感じで縋る事も俺なら無いだろう)
そもそも婚姻を結んだ所で、
子供って産まれるんだろうか?
魔界じゃ『全ての魔王を倒すまで』って事で頑なに話から逃げてたからなあ。
「あらラスト、食事が止まっているわね」
「その、なんだな、ひとつ疑問なんだが」「何かしら?」
「俺とアスト、人間とアルラウネの間に子供は生まれるのか?」
その問いに、
思いもよらない答えが返ってきた!
「ええ、生まれてくるのはエルフよ」「えっ」
「まったく新しいエルフの一族が誕生するわ」
「えええ……」「その時は、エルフの里でラスロは樹になるのよ」
うん、それは全力で、逃げ切ろう!
(なぜかドリアードになった俺が、全力疾走する姿が浮かんだ)
……一気に朝食の味がしなくなったな、おい!




