第133話 真夜中に窓から訪問 夜這いかと思ったらお前かよ!
コン、コン
(……ん? なんだなんだ)
おそらく真夜中のグレナダ公爵家、
三階の客間で寝ていた俺の、ベッド横の窓から音が……!!
コンコン、コンコンコン
「んっ……鳥か? って夜なら虫か?」
もしくは夜這い、ってそんな高さじゃないな、
眠気まなこで部屋の夜光魔石を少しだけつけ、
カーテンを開くとそこには……いかつい魔物の顔が!!
「うわあああっっ!!」
「ラスロ、ハナシガアル」
「お前かよドリアード、ってここ三階だぞ」
窓を開けて下を見ると、
地上からドリアードの上にドリアードが乗って、
更にドリアードが乗っている、そして頂上の顔が丁度、三階の窓に。
「心臓に悪いなぁ、なんだよ」
「スコシキニナッテナ、アストサマノハナシダ」
「なんだ、何か問題でもあるのか」「ラスロハ、ドウスルツモリダ」
どうするって、
何をどうするっていうんだよ。
「どうするもなにも、再び平和にするっていうか、
魔界ゲートをきちんと閉じてだな」「トジタラドウスル」
「そりゃあ、まあ、結婚する事になるだろうな」「ダレトダ」
……あっ、これは、
そうか、ドリアードの方も探りを入れに来たのか、
いやこれはもう探りというより答えを聞きにきたようなもんだな。
(俺が考えてたような事は、アストも考えるってことか)
直接聞いても逃げてたもんな。
「アストはむしろ、どう話を詰めたいんだか」
「ソレハイエナイナ」「じゃあ俺も言えない」
「トウジシャデハナイカラ、イエナイ」「じゃあ俺も当事者じゃないドリアードには……って悲しそうな顔するなよ」
いつもは怖い魔物の顔が、
泣きそうになるとむしろこれもこれで怖い。
「アストサマヲ、カナシマセルナ」
「……悲しんでいるのか?!」「ソウゾウニ、マカセル」
「感謝はしている、これまでも、これからも、だからこそ……話は詰めるよ」
俺はこっちの、元の世界に戻れた事で魔界での話は終わったことにしたかったが、
こうしてまた助けて貰う以上は……だが、今更だがもうワンクッション置きたいというか、
その前に、旧ハーレムのアドバイスを改めて聞きたい、その後にアスト、そしてナルガとも。
「明後日はアスト城に泊まる、その時に詰めるって伝えてくれ」
「……ソレハ、ラスロカラ、ハナシテクレ」「わかった、すまない」
「イイッテコトヨ、ココニキタノハ、ナイショダ」「ああ、ドリアードから聞いたとか余計な事は言わねえ」
安心したのか、
元のいかつい顔に戻って降りて行った、
いやほんとネリィの子供達よく泣かないな、最初は泣いたかも、特に女の子。
(魔物だからなあ)
そして窓の外、
今度は上から降りてくる人が。
「よろしいのですか」
「ああナタリ、なるようになるさ」
「……実は私も聞いて参りました」「アストにか?!」「はい」「もうかよ」
まあお互い様か。
「それでアストは何と」
「幅があるそうです」「幅?!」
「はい、最大で『五百年間、私の中に取り込まれる婚姻』だそうです」
なんだその牢獄は!
「俺はどうなるんだ」
「幸せにするそうです」
「……最大でそれだと最小は」「それが『ラスロ次第』と言っていました」
すなわち交渉次第か。
「まあわかった、ありがとう、他に何かあるか」
「……他の事も、よろしいのでしょうか」「当然」
「では……夜這いに来ました、と言ったら」「誰が?」「私が」「ナタリが?!」「はい」
本物の夜這いが来た!!
「……すまない、今夜は一人で考えたい」
「わかりました、それでは失礼致します」
「ああ、落ち着いたら、本当の意味で平和になったら、また改めて」
きっちり対策を練らないとな、
魔物相手に婚前交渉、って変な意味じゃないぞ!
まったくもう、人間相手でも迷っているというのに俺は……
(ほんっと、身体がみっつ欲しいよ)
それを言ったら人数分、
魔物も合わせて十体、いや十二体か。
窓を閉め、仰向けになって俺は考える。
「そもそも勇者として、魔王退治に旅立った時、誓ったはずだろう……」
そう呟きながら思い出す、
俺は魔王を倒して平和に出来るなら、
本当にそれしか選択肢がなければ、自分の命と引き換えでも構わない、と。
(でもなあ、さすがに生贄はなあ)
ふと、考えてはいけない事が頭をよぎったが、
それを振り払うように俺は首を激しく振ったあと、
水を一杯飲んで、夜光魔石を消して目を閉じたのであった。
「明日、アリナ達との相談で、活路を見出そう」




