第129話 観念して睡眠 しかし、言わなきゃいけない事はきちんと言おう。
「……俺、温泉臭くないか?!」
「何を言っているのよ、ラスロはラスロよ」
「むしろ人間臭さが減って、アタシとしては嬉しいね」
夜を駆け抜ける移動屋敷、
温泉に浸かって考えた結果、
俺の中では『ドリアード号』と呼ぶ事にした。
「それにしても夕食は美味しかった」
「他の人間にも評判が良かったわね」
「アタシも腹いっぱい食べられて満足さ」
こうして俺は三階の、
アストのベッドでナルガにも挟まれごろごろと、
寝返り打っても何ともないくらい、相変わらず揺れないなここ。
(新旧ハーレムは下でぐっすりですよ!)
もちろんナルガを避けて温泉&夕食を済ませたダンジュくんも。
「それにしても、再びこうやって挟まれて眠れる日が来るとは」
「あら、ひょっとして、もしかして逃げるつもりだったのかしら?」
「アタシは許さないよ、少なくともする事をやってから」「わかっているよ!」
というか、
寝る前にきちんと言わなければならない事がある、
それが、相手が魔物だったとしてもだ、ここは勇者として。
「アスト、ナルガ、本当にありがとう」
「何を言っているの、ラスロのためだもの」
「まだあの魔界での、一緒に戦ったその延長さね」
……ということは、
いつかは終わらせなければならない、
つまり決断を下さなければ、いけないってことだ。
「まずはアスト、改めて再封印の協力、感謝するよ」
「それは良いけど、もう一方の封印の時はどうするつもりかしら?」
「えっ、どうするって」「一緒に魔界へ帰る? なら再々封印まで婚姻について詰めましょう」
やはりそこは詰めにかかるか、
そもそもが俺が逃げたから追って来たんだもんな、
さすがにこれを誤魔化し続けるのは心苦しくなってくるが……。
「とりあえず、まだ時間が色々とかかる、先にやらなければいけない事が多い」
「その前に詰めて」「それだと集中できないし、状況が状況だ、いま決めて後で変わる事もありうる」
「ラスロ、とりあえずアストを安心させてやってくれ」「ナルガ、すまない、今はそこまで余裕が無い」
そしてナルガにも感謝を。
「ナルガも俺を助けに来てくれたんだろう、ありがとう」
「本当に逃げたのなら捕まえてやろうと思ってね、けど事情は大体掴めたよ」
「それで、どうすれば良いと思う」「……こっち側の意見になるけど良いかい?」「もちろん」
まあ想像はつくが。
「やはりラスロはアタシたちの所へ戻るべきさね、
婚姻とか子作りとか別にしても、もちろん譲る気は無いけど、
人間界への穴が開きそうな手前で潰し続けるのは人間のためではある」
つまり俺に魔界で見張れ、と。
「申し訳ないが俺はやはり人間として人間界に」
「そんなことを言っていたら、また次々と穴が空くよ?」
「俺たちがこっちで、人間側で対処する、だから」「アタシ達が毎回、協力するとでも?」
まあ確かに俺の我儘だ、
人間界で生きていきたいから魔界から人間界に出そうになったら、
それを潰してくれとか知らせてくれとか、一緒になって潰してくれとか……
(利害が一致してこそだ)
もちろん魔物同士の対立というのがあったとしてもだ、
ドリアード族の長は本来、人間なんてどうでも良いという立場、
それを無理して助けてくれているんだ、それこそ平和の対価が俺ひとりなら、安いくらいだ。
(でもなぁ)
俺も俺で、
やっぱり変な話、犠牲にはなりたくない。
「俺の意思としては、もしまた魔界へ行って新しい魔王を倒す事になったとしても、
またこっちの世界へ戻りたいと思う、それは逃げるとかいう話ではなくてだ、そこはすまないが、はっきりさせておく」
「ではラスロ、私との婚姻は」「それはまた別で詰める」「アタシは逃がさないよ」「そういう意味では逃げないから!」
まずい、これ以上話をしていても、
変にこんがらがるだけのような気がする、
ここは観念して、とりあえずは……もう寝るか。
「ラスロ、わかっていると思うけど」
「ああ、リムリア達の件も、もちろん考えている」
「先に言っておくけど、ラスロとはアタシ、戦いたくないからね」「それは無い」
両側から俺を抱き挟むアストとナルガ、
魔界ではこうやって護ってくれて、それで安心して眠れた事も多かった、
俺が一生、墓まで持っていこうと考えていた秘密……そう、言うなれば、それは……
「……アスト、おやすみ」「ええ、良い夢を」
「ナルガ……おやすみ」「しっかり抱いてあげるさ」
「お城へ着いたら、大森林の方の再封印、その打ち合わせだ」
こうして俺は目を閉じた、
そう、まるで魔界に居た頃のように。




