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ハーレム崩壊、十二年後  作者: 風祭 憲悟@元放送作家
第一章 伝説の女剣士のやり直し 錆びついた剣と言われても愛で研ぎ澄ますのみ!

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第13話 悔いは尽きない だが間違った後悔は許せない

「……という訳で、私は全てを投げ出し、それまでの十二年の私をキャンセルして、ラスロの元へ戻ったのだ」


 ヨランの回想が終わった、

 自分を殺してただ生きる人形としての十二年間……

 その独白に声をかけたのは、かつての俺の正妻、アリナだった。


「そう、ヨラン……辛かったでしょう」

「正直、辛いとか苦しいとか悲しいとか、そういう感情さえ無かった、

 いや、無いというよりも考えなかった、もはやそこに至る前の思考を停止していた」


 あの身も心も強かったヨランが、

 俺が死んだとなったら、こんなにも壊れてしまうのか……

 いや、壊れた方がまだマシだったかもしれない、心が丈夫だっただけに、生きる屍として……


(俺からも声をかけないと……だが、何と言おうか)


 やはりここは謝罪の言葉か、

 いや違う、ここで気になるのは……


「いいのかヨラン、その、家庭を捨ててきて」

「元々は愛などない結婚だ、向こうの希望、注文は全て答えた、

 健康な男児を産めと言うので従って四人も産んだ、もちろん狙ってだ」


 いや、狙って男女は産み分けられないだろう、

 だがそう念じて実際に生まれたのであれば、それはそれで正解か。


「子供に愛情は」「過ぎた事だ、私は元の居るべき場所へ戻って来た、それだけだ」

「……後で後悔するような事は」「後悔ならラスロが落ちた時にもう死ぬほどした!

 今になって思う、あの時、私も一緒に落ちていれば、一緒に戦えたと……」「それは違う」


 俺はヨランを真っ直ぐに見る。


「しかしそうしていれば」「結果的にそうなったかもだが、死のうとした行動は間違っている」

「……後を追えなかった」「それで俺は喜ばない、だから追わなかった事は、間違っていない」

「でも、それでラスロは」「……現にこうして会えたじゃないか」「だったら戻して! 私をラスロの元へ!!」


 ……物理的にはもう戻ってきている、

 しかし……ハーレムは崩壊した、その事実は戻らない、

 ヨランの取った行動はある意味、十二年間生き延びた方法と、言えなくもない。


(しかし、過ぎた時間は戻らない……)


 悔いは尽きないかもしれない、

 でも、だがこれだけは言える、

 自ら死のうとするのは間違っていると。


「ヨラン……」「元に、戻して、十二年前の、あの時に……ううっ……」


 大粒の涙を流して、

 俺にすがるヨラン……

 そっと抱きしめる、肩が、背が震えている……


(俺の生存を聞いて、何もかも捨てて真っ直ぐ、会いに来てくれた……)


 その想いは十二年経っても健在だった、

 ただ、その間に違う男と結婚して、子を四人も儲けた……

 それで『想いは不変だった』と言えるのだろうか? 寝取られた事実は変わらない。


(茫然自失だったとしても、だ)


 だからといって、俺が死んだと思った以上、

 それを忘れて違う男と『俺の分まで』幸せになろうとした行動は責められない、

 しかもそれが結果的に、もはや義務的な、ただ生きながらえるためだけの結婚になったとしたら……


(やはり、俺が悪いのか)


 俺はヨランの涙をぬぐう。


「ごめん、俺はまだ、気持ちの整理がつかない」

「私の答えはひとつ、ラスロを愛する、それだけだ」

「でも、もう」「剣は取り戻した、ラスロも取り戻す!」


 ……俺はヨランから、あえて離れた。


「確かに俺はみんなの所へ戻るために十二年間、生き抜いてきた……

 そしてようやく戻って来られた、みんなに再会できた、それはそうだが……

 やっと会えた仲間が、婚約者が、ハーレムが、他の男と結婚して子供を産んでいたら……ショックでしか、ない」


 それが俺の、正直な気持ちだ。


「ラスロ……私はもう、汚れてしまったという事か」

「気持ちの整理をつけさせて欲しい、結論がまだ出ない」

「……わかった、ラスロがそう言うのであれば、私も今一度、自分を見つめ直そう」


 うん、互いに冷静になって、きちんと結論を出さないと。


「……もう、よろしいかしら」

「あっ、エミリ」「次は私のば……」「お待ちなさい」


 止めたのはアリナだった。


「でもアリナ」「エミリ、ここで重い話を重ねると、ラスロが混乱するわ、

 それこそ冷静に判断する事が出来なくなって、全てを投げ出しかねない」

「そんな、私だって同じように」「まずは順番に整理しましょう? ヨランの件が終わるまで待って」


 と、俺の前に来るアリナ。


「ラスロ、まずはヨランの件のみを考えて、私は最後でいいから」

「アリナ……ありがとう、正直言って、ありがたいよ、助かった」

「ネリィもよ、いいわね?」「はいですうううぅぅぅ……ううっ」


 よい、まずはヨランに集中だ。


「じゃあとりあえず……次はロズリと、ミオス達と話すよ」

「わかりました、ではお呼びしてきますね、私達は宿で待っておりますから」

「ラスロ、私はもうラスロから離れるつもりは、無い」「ではのちほど」「ラスロサマァ……スキィ……」


 アリナに見えない力で引っ張られるように出て行った旧ハーレムの四人、

 いやまずヨランだけで激重な話になったな、旦那さん可哀想、とも言い切れないか、

 あの話だとちゃんとヨランを愛していたとは思えない。


(でも、そんな男に身を預ける程、追い詰められていたとも言えるのか……)


 さあ、次は今の、いや、新しいハーレムと向き合おう。

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