第107話 ついに追いかけてきたアスト そして、魔界での秘密が明かされようとしている
「……話はわかった、アストはわざわざそれを教えに来てくれたのか」
「いいえ、私がチョロいとか話していたようなので」「いやいやそんな」
「これでも私ひとりで来ただけ良心的よ?」「ドリアードもいっぱい来てるが」「私兵よ」
あっ、そうでした。
「ええっと、みんなに改めて説明すると、
俺が魔界で世話になった魔物、アルラウネ族のお姫様、アストだ」
「ラスロの妻のアストです、以後、お見知りおきを」「えっ」「えっ」「えっ」
アストと顔を見合わせる俺。
「ねえラスロ、相手は魔物よね?」
「だが良い魔物、味方だ、経緯は聞いたよな」
「魔物と本気で夫婦に」「いやそれはだな」「もう夫婦よ」
言い切るアスト、
これまたややこしい話に……
墓まで持って行くつもりの話が、入る前に墓荒らしにあった気分だよ!
(よし、ここは話を変えよう!)
ドリアードのリーダーに身体を向ける。
「さっき、マザーツリーが病気だと言っていなかったか?!」
「アア、マカイカラノカゼニ、ヤラレタノダロウ、ビンカンダカラナ」
「十二年前は何もなかったと思うのだが」「ソコマデハ、シラナイゾ」
まあ、病気にかかるかからないは、運もあるのだろう。
「治せるのか」
「アストサマナラ、スグニ」
「ええそうね、私の治癒魔法なら」
精霊魔法じゃなく魔物魔法だと思うのだがイケるか?
俺がさんざん治して貰ったんだ、行けないはずは無いだろう。
「では頼めるか」
「それはラスロのため?」
「俺のためなら、やってくれるのか」「むしろラスロのためでなければ、やらないわ」
一応はここ王都のためになる事か、
働いてくれているエルフのためだからな。
「頼むアスト、俺のためにやってくれ」
「わかったわ、任せて」「すみません、ちょっと待っていただけますか」
「アリナどうした、あっ」「エルフの方々が不安そうに見ているので」「私も」
急いでアリナとミオスが説明に行った、
魔物が来て自分たちの、生命の源とも言えるような、
マザーツリーをどうこうしようっていうんだから不安だろう。
(この隙に……)
アストにこっそり話す。
「こっちには来るなと言っただろう、中から封印して閉じる作業は」
「そんなことしたらラスロが戻って来れなくなるわ、戻ったら閉じようと」
「つまりアレだ、俺が出たゲートをあえて閉じなかったと」「ラスロ以外を出入りさえさせなければ、のはずだったのだけれど」
新魔王のせいで、って感じか、
あれだけの数が一気に来たらさすがにドリアード達も、
なんとなくだが相当、抵抗はしてくれたのだとは思う。
「それでアスト以外の連中は」
「連中って、私もナルガも、リムリアもカミラも待ってたのよ」
「と、いうことは」「私が戻らなければ順番に来るでしょうね」
まずい、それはまずい。
「ええっと、人間の女性にナルガ達の話は刺激が強すぎる」
「説明してないの?」「できるか! 魔物は基本、敵って認識だ」
「あんなに利用したのに? 私達の事を!」「圧が強い! 圧が強いって!!」
後ずさりすると背中には!!
「ナンダ、ヒメトモメルナラ、ユルサナイゾ」
「モチカエルカ」「ヒメガナイタラナ」「コレダカラニンゲンハ」
「そこ、差別的な言葉は許しませんよ?」「ハハッ、アストサマッ!」
……あっ、ドリアードの更に後ろにナタリが!!
「ナタリ」「後で詳細を、まだ話していただいてない事が」
「ま、まだもうちょっと秘密で」「もう明かしていただきたいのですが」
「小出しで! 一気に話すと、その」「不味い事でも?」「あっ、アリナ、ミオス、話は終わったかっ!!」
一通り話してくれたようだ。
「エルフの皆さんも、マザーツリーと会話できなくなって困っていたようです」
「会話?!」「はい、あくまでもそういう『感覚』だそうです、エルフ族独自の」
「ニンゲンデイウト、ノドガ、ツブレテイルカラナ」「そうなんだ」「クルシソウダゾ」
マザーツリーの方へ歩みを進めるアスト、
エルフの皆さんがすんげえ不安そうなのは、
樹に対してよりも、おそらく魔物であるアストに対してか。
「では、少し時間はかかりますが……」
マザーツリーに抱きつくアスト、
そのまま体が……吸い込まれるようにくっついた、
じわりじわりと一体化するような、うん、俺もされた回復法だ。
(あれ、気持ち良いんだよなぁ……)
ドリアード達は、
そんなアストを警備している、
相変わらず忠誠心が半端ないな。
「あの、ラスロ様」
「ロズリか、どうした」
「このアストさんでは、戦力的にエミリさんの代わりには、なりませんか?!」
……その発想は、無かった。




