第11話 まずは旧ハーレムに謝罪 しかし十二年の流れた月日は戻ってこない
「みんな……すまない」
まずはテーブルに手をつけたまま、
深々と頭を下げる……そしてそのまま、言葉を続ける。
「まずは何から謝ろうか、そうだな、まず……
戻ってくるのに十二年もかかってしまって申し訳ない」「そんな!!」
間髪をいれず声をかけてきたのはヨランだった、そして続いて……
「待てなかった私が悪いの、お願い、抱きしめさせて!」
「ラスロサマ、ラスロサマのネリィは、ネリィは今日までお待ちしておりましたぁ」
エミリ、ネリィと続き、最後にアリナが。
「ずっと、ずっと祈っていました、しかしそれは……いえ、言い訳はしません、
ただ、これだけは改めて言わせて下さい、ラスロ様……おかえりなさぃ……まっ……せっ……ううっ」
泣いている……アリナが泣いている……
俺が無事に帰ったら聖女の称号を貰えたはずだが、
それを言ったらヨランもか、剣聖を……そのあたりも聞きたいが、今は謝罪を続けなければ。
「そして何より俺が『魔王を道連れに溶岩へ落ちる』という行動を取った事だ、
結果としてこうして戻って来られはしたが、自分の事しか考えてないと言われても」
「違う! ラスロは私の、私達のために、みんなを護るためにっ!!」
ヨランの声も涙混じりのようだ、続いて……
「私達がそうさせてしまったようなもの、力不足、私の弓矢の熟練度不足です」
「ラスロサマがなさるコトは、何もかも正しいのですぅ、謝る必要なんてありませんっ!」
「……私の光魔法による縄が、もうあと少し早ければ……責任は私にあります、どうか、どうか私に罰を……うぅぅっ」
そうは言っても、
いくら悔やんでも結果は覆らない、
そう、俺がどれだけ謝罪しても、十二年の月日は戻ってはこない。
(だからこそ……謝りたい)
俺は目を潤ませつつも、顔を上げる。
「そして俺の重い罪は、みんなに待たせられなかった事だ、
最初に、いやせめて俺が魔王と落ちる前に、どのような事があっても必ず戻る、
俺は絶対に死なない、死んだように見えても生きて戻ってくると誓い、信じて貰えていれば……」
その俺の頬を、そっと触るヨラン。
「……やめてくれ、その言葉は、私をえぐる」
「しかし、俺は」「むしろ待てなかった私達を、いっそなじってくれ」
「そんな事、できるはずが」「十二年間、辛かっただろう、苦しかっただろう……すまないっ」
涙を流しながら頭を深く、深く下げるヨラン。
「……正直言うと俺は、全ての魔王を倒す事、そしてみんなの元へ戻る事で精一杯で、
きっとみんな待ってくれ……いや、とにかく無我夢中で、苦しいとかいう気持ちは……」
無いと言ったら嘘になる、
会いたくて苦しい、会えなくて悲しい、
だからこそ十二年間、必死に魔王を倒し続けてこられた。
(むしろ、その想いがなければ、とっくに死んでいただろう)
そう、これも俺の罪だ。
「すまない、俺が勝手に『みんなが待ってくれている』と思いこんで」
「これ以上、私達を責めないでくれ」「いや、そういうつもりではなく」
「……まずは私から言わせて貰おう、十二年間……私は、私ではなかった」
そうか、俺の居ない十二年、
俺が死んだと思っていて、みんな苦しんでいたのか。
「それなら、なおさら」「私も謝ろう、ラスロ、裏切ってすまない」
「いや、でも後になった今、客観的に考えて俺が」「剣士は結果がすべてだっ!!」
鞘に納まったままの『豪剣』を抱きしめて泣くヨラン。
「ううぅっ……私は、ラスロが亡くなったと思い、完全に自我を無くしてしまっていた……」
「俺のせいだ」「だったとしてもっ!! アリナのように、ずっと、ずっと想い続けるべきだった……」
そこへ涙を拭きながら、
俺とヨランの間に入るアリナ。
「その件につきましては私の責任です、ハーレム解散にあたり、ラスロ様を亡くした罪は、
正妻である私が全て背負うと……修道院に入り一生、ラスロ様の冥福を祈り続けるので、
皆は忘れろとは言いませんが、ラスロ様の分まで幸せに生きて欲しい、と……三人の結婚は、全て私のせいです」
アリナはこういう時にまで、
全て責任を背負おうとするのか。
「いやちがう、私の心の弱さだ」
ヨランも涙を腕でぬぐっている、
どれだけ自分が悪い、いや誰が悪い、と言った所で、
十二年間を取り戻す事は出来ないのだが、それでも……
(何があったかは、聞く必要がある)
そして、その全てを受け入れる事が俺に出来れば……!!
「とにかく現状の把握をしよう、ヨラン、本当に良いのか、結婚した相手の所は」
「ああ、決闘の申し込みすら受けられなかった情けない男だ、捨てられて当然だろう」
「……ヨラン、冷静になれ、そこは悪口を言う所じゃない」「すっ、すまない、私は今、冷静では無い」
うん、ここはまずヨランから、丁寧に聞こう。
「教えて貰えるだろうか、俺が魔王と一緒に魔界に落ちてから、それからの事を」
「わかった、改めて話そう、あの瞬間から今日まで、いや、ラスロと再会するまで……」
俺の知らなかった、
流れ去って行った十二年間が、
今、ヨランによって……明かされる。




