第106話 子供最優先 それが解決するまでは、しばらくお休みも止むを得ないか
「ではラスロ、すぐ戻ってくるわ」
「ああ、ラグラジュ大森林では本当に助かったよ」
「……最後に、いえ最後なんて縁起が悪いわね……抱きしめさせて」
あれから数日、話し合いの結果は一旦の帰国で落ち着いた、
俺をぎゅううっと包み込むエミリ、うん、離してくれない、
もうそれだけで、離れたく無いという気持ちが伝わってくる。
「お母様、そろそろ」
「ははうえー、いっしょにかえろー」
「ええ、ではハルラさん」「皆さん、妻が世話になった、ありがとう」
その言葉を遮るかのように……
「再封印には必ず戻ってくるわ、何があっても、必ず」
「お、おうっ、待って、いるぞ」「だから計画通り、アリナ」
「もちろんよ、エミリが居ないと成り立たない作戦を考えているわ」
なんとなくの雰囲気だが、
ハルラさんとその子供達は、
もうすっかりエミリを取り戻した気でいる。
(だが、エミリは……)
「勇者様、聖女様、弟をありがとう!」
「あーりーがーとーー、おかーさま、かえろかえろー」
「ラスロ! 何かあったら、緊急の時はすぐに教えてね?!」「エミリ、身を乗り出さないで」
ハルラさんに馬車の奥へ追い込められるも、
窓から必死に俺の方を、まるで助けを求めているかのようだ、
連れ去られるってこういう事か、まさに寝取られ、いやエミリは嫌がっているが。
(平和最優先の前に、子供最優先、かぁ)
走り出した馬車を見送る旧ハーレムの面々、
アリナはまだしもヨランとネリィは心配そうだ、
一方で新ハーレムはミオスとロズリが笑顔で見送っている、ハミィは……ネリィの暴走に注意している感じか。
「ラスロ、必ずエミリは期日通りに戻ってくるから安心して」
「だがラスロ、やはり実の娘と息子だ、私と違い一時は、いや十一年以上も愛があった家庭がそう易々と」
「んほほぉ、ラスロサマァ、それよりこのネリィと、エミリの居ない間、その分、このネリィとぉ」「叔母さんは黙って」「んもゥ」
さて、どうなることやら、
率直な意見を新ハーレムにも聞こう。
「ミオス、大きな戦力が抜けてしまった、すぐ戻るとは言ってはいたが」
「止むを得ませんね、大丈夫です、代わりを探すか我々でカバー、フォローしましょう」
「王宮騎士団の弓矢部隊に知り合いが居ます、現役で私と齢も近いので喜んでいただけるかと」
いやロズリのその言い方だと目的が。
「弓矢も魔法もあまり変わりません、いざとなったら叔母ではなく、このハミィが」
「そうだな、みんなありがとう、ってナタリはどこへ行ったんだ?! 最初居たよな」
「ラスロ様、あちらです」「えっミオスどこだ……あっ、マザーツリーか、何をやっているんだ」
俺たちが行くと、
神聖とされる幹をまじまじと眺めている。
「ラスロ様、さっき他のエルフに聞いたのですが」「どうした」
「やはり半月ほど前から、マザーツリーからの祝福が弱まっているそうです」
「祝福って」「オーラ、エルフのための空気というか、エルノくんが高熱を出したのも、きっとそれが足りなくて」
この樹が弱まっていたからか。
「じゃあ、この樹が治れば、あの子達はまた」
「それはどうでしょう、子供ですから、もう王都はこりごりと」
「でもエミリは来るぞ」「本当に来られるのでしょうか」「それだよなあ」
ナタリがいう事は、わかる。
(いくら本人が戻ると言った所で、あの子らに全力で引き留められたら……)
最初は俺に再会したい一心で来られた、
しかしやはり今度は、実の母親としての意識も強く出るだろう、
その時、夫のハルラさんはともかく、ふたりの子供を捨てられるのかどうか……
「ラスロ、安心して」「アリナ」
「もし戻ってこないようであれば、陛下がエルフの国と話をつけるそうよ」
「そんな手配まで!」「いざとなったら、私達で迎えに行きましょう」「そうは言っても、なぁ」
俺はマザーツリーをまじまじと見る。
「ラスロ様、いかがなさいましたか」
「ミオス、さすがにミオスやアリナでも、この樹を回復させる事は」
「無理ですね、エルフが精霊魔法で治癒するしかないようですが、そのような者はごくまれだそうです」
アリナはそこまでも調べているのか。
「じゃあ、弱って行くばかりか」
「エルフの森の王と上手く交渉すれば、
魔界ゲートの再封印もしくは新魔王討伐を条件にすれば、あるいは」
まさにエルフ界の聖女が必要かあ。
「それしかもう、方法は無いか」
「ナンダ、コノキ、ビョウキニカカッテイルゾ」
「「「「「「「?!?!?!?!?!?!?!」」」」」」」
後ろから聞こえた魔物の声!
ドリアード隊が沢山来ていやがる、
いつのまに……相変わらず気配なしで、怖えぇ。
(ナタリだけは先に気付いていたようだな)
よく王都に入ってこられたな、
陛下に報告しておいて良かった、
いや遅れて衛兵が沢山追ってきているが。
「あー、大丈夫だ、問題ない」
俺が一応、声をかける、
それでも警戒は解かない、
まあそうか、相手は魔物なのだから。
「ていうかお前たち、何かあったのか」
「何も連絡が無いから、私から来たのですよ」
「そ、そっ、その声はあああああっっっ?!?!?!」
ドリアード達の集団、
その中央からした声に俺は聞き覚えが!
姿を現したのは、そう間違いなく……アルラウネ族の、お姫様だ!!
「ラスロ、迎えに来たわ」
「いやいやいやアスト、俺は」
「そうね、その話なんだけれども……新たな魔王が、こちらへ来るわ」
(やはり……か)




