第105話 とりあえずは落ち着いたものの やはりここは、家庭内で解決して貰おう
「……熱は下がりました」
「このポーションを明日の朝に」
「よかったわねエルノ、もう大丈夫よ」
マザーツリーからかなり離れた家、
エルフ区画の端っこらしいここに寝かされた少年、
エミリの息子、ハーフエルフのエルノが息を落ち着かせた。
「助かりました、ありがとうございます」
「ハルラさんでしたか、聖女アリナと申します」
「助手の、賢者ミオスです」「こんな夜中に申し訳ない」
もう聖女なんだアリナは、
あといつのまにミオスは助手に、
というのは今は良い、とにかく現状確認だ。
(呼びに来た少女は疲れてグッタリしているな)
俺も礼を言わないと。
「アリナ、ミオス、ナタリ、ありがとう」
「いえ、仲間のお子さんですから、それよりも」
「応急処置は出来ましたが、根本治療は難しいですね」
ナタリは少女のララルちゃんだっけ、に水を飲ませている。
「根本というと、どういうことだ」
「はい、やはり王都は、幼い少年には空気が合わなかったようです」
「長期間滞在すると、やはり必要なマザーツリーの精気が足りなくなるようですね」
ミオスの言った『精気』というのは、
おそらくエルフに必要なものなのだろう。
「それはやはり、幼いからか」
「そうですね、ですので治療法としては」
「もう少し成長するまで、エルフの森に帰っていただくことかと」
これに神妙な面持ちのエミリ。
「……ハルラ、帰って頂戴」
「し、しかし、私はエミリを連れ戻すまでは」
「そういう問題では無いでしょう? 今、一番大切なのは何か、誰かっていう話よ!!」
シーンと静まり返る室内、そして……
「おとうさまとおかあさまが、けんかしてる、はじめてみた……」
「エルノ! あぁエルノ!!」「エルノ、無理をしちゃあ、いけないよ」
「ねえおかーさま、かえってきて、いっしょにまた、ゆみやのしょうぶ、しよ?」
まだ体調が戻り切ってないのか、
喋り方がたどたどしい、見た目より幼い……
そんなエルノを抱きしめるエミリ、やはり母親か。
「ごめんね、無理させて……私が悪かったわ」
「じゃあ、いっしょに、おうち、かえ……ろ?」
「駄目なの、私は、世界を救わなくちゃいけないのよ」
うん、ここでエミリが抜けるのは、
封印に直接関係なくても痛手になる、
魔界へ再び潜り込む事になったら尚更だ。
「それがおわったら、かえってきて、くれるー?」
「手紙ならいくつも……ううん、違うわね、わかったわ、
きちんとお話してあげる、私がどうして居なくなったか、直接、言葉で」「エミリ!」
強い口調のハルラを見るエミリの目は……鋭かった。
「私を、子供達と私だけにして頂戴」
「いや、そういう話なら私だって、私も」
「余計な事、変な事は言わないわ、お願いだから」
とりあえずエルフの家を出る俺とアリナ、ミオス、ナタリ、
ふうっ、と大きく息を吐く……少し、いやそこそこ離れて俺は話す。
「後はエルフの、家庭内で解決して貰うしか無いな」
「エミリ、睨んでいたわね」「やはり子供をあんな風にしたからでしょう」
「えっ、ハルラさんのせいってこと?!」「無理に連れてきたのであればですが……」
ナタリはそう言うが、
子供たちも望んでやってきたのだろう、
それを置いて、というのはやはり酷な気もするが。
(……エルノさん、出て来ないな)
やはり家庭内で揉めているのだろうか。
「アリナ、アリナが治し続ければ、というのは」
「私が治せるのは人間の部分、言うなれば半分だけです」
「もちろんアリナ様の治療は完璧ですが、やはりもっと成長したマザーツリーが無いと」
ここのじゃ駄目かぁ。
「俺に出来る事は」
「エミリさんの味方になる事では?」
「あとは、やはり一刻も早く封印または魔王退治を」
まあ、そうなるか。
「ラスロ様、エミリ様に対してだけ、先に、いち早く結論を告げるというのは」
「ナタリ、それはつまり」「ラスロ様がどうしたい、いえ、どうするかという事です」
俺がエミリと復縁するか、
するにしても子供をどうするか、
そして、しないのであれば……か。
(魔界ゲート封印の作業に、支障が出なければ良いのだが)
平和最優先で行きたいのに。




