第103話 真夜中の呼び出し やはり俺が思っていた事は、エミリも考えていたようで。
コツンッ!!
(……ん? なんだなんだ??)
コツン、コツンッッ
(何かが当たる音がする……)
ベッドから降りる俺、
なんだこれ、雹でも降ってきたか?
窓を見ると……あっ、先が丸めてある矢がぶつかっている!
(と、いうことは)
見下ろすと、うん、エミリだ、
俺は手を振って外へ出る支度をする、
何だろう、あまり長時間は出ないよな?
(衛兵に、一応は言っておかないとな)
ちょっと外の空気を吸ってくること、
庭に先の丸い矢が落ちているが気にしないで良いこと、
警備を付けるか言ってきたが大丈夫と断って外へ……遅い時間だ。
「……居た居た、エミリどうした」
「この時間なら大丈夫よ」「何がだ?」
「とりあえず道から外れましょう」「お、おう」
どこへ行くのかわからないが、
前に出て誘導してくる……少し強引だな、
腕まで引っ張って、でかい弓が目立つから早く着いて欲しい。
(……かなり歩くな、いや駆け足か)
そしてやはりエミリは夜目が利く、
そういえば魔物の山で真夜中に迷い、
雨まで降って来たのに的確に脱出ルートを導いてくれたのはエミリだった。
(俺の迷いも、導いてくれるのだろうか……?)
そうこうしてたどり着いたのは、
大きな大きな樹の下だった、ここはひょっとして。
「エミリ、これが」
「ええ、マザーツリーよ」
「やはりでかいな」「まだまだ若木よ」
そして待っていたのは……エルフの男だ。
「勇者ラスロ殿、十二年前にちらっとお会いしたのは」
「憶えていない、会話した記憶も、よって名前も……すまない」
「いえ良いんですよ、では改めて、エルフのハルラと申します」
深々と頭を下げてきた。
「お、おう、それでエミリ、これは」
「まずは私から、ひとつお願いがあります」
「俺にか」「はい、大切なお願いです、こんな時間で申し訳ありませんが」
暗い中、
はっきりとはわからないが、
真剣な表情のようだ、俺へのお願いとは……
(まあ、考えれば予想はつくが、この場は素直に聞こう)
しばしの静寂ののち、
ハルラが俺に静かに告げた『お願い』は……!!
「どうか、エミリを譲っては貰えないだろうか」
「……まず、エミリは物じゃない」「それはわかっています」
「譲るとか、その言葉が出た時点で違うだろう」「しかし、しかしっ」
いや、気持ちはわかる、
新しいハーレムを宛がって貰った俺、
そうなるともはや、旧ハーレムを取引しても良い立場かも知れない。
(でも、捨てる捨てないにしても、エミリは道具じゃない)
わかって言っているのであれば、
もっと言い方というのがあるだろう、
例えば『身を引いてくれ』とか『私達を祝福してくれ』とか……
「エルフには、無理か」
思わず声に出して言ってしまった。
「娘のララルにも、息子のエルノにも、
母のエミリと父の私が必要なんですっ!」
「……まあ子供にとっては、そうだろうな」「だから、ですからっ!」
俺の身体に縋り付こうとするハルラさん、
しかし間にエミリが割って入る、表情は……
あまり見ないでおこう、こう暗いと正確にはわからないからな。
「ねえハルラ、私からひとつ質問なんだけれども」
「エミリどうした、エミリからも言ってくれないのか」
「……ハルラは、最初に私を口説いた時に、本当に、ちゃんと、愛してくれていたかしら?」
うお、遠まわしのようで直接的な問い!
真意を知っていると、結構怖いなこの質問は。
「それは、つまり」
「もうこうなったから言うわ、私が気付いてなかったとでも?!」
「うっ……何の事だ」「そう、はっきり私が言うまで、自分からは言わないつもりね」
と、急に俺を抱きしめるエミリ!
「ちょ、何を」「あぁ、こうしてラスロを再び抱きしめるのが、本当に夢だったわ」
「エミリ、俺と、俺とエルフの森へ」「ハルラさん、エルフに連戦連勝の私を、エルフ側に引き入れたかったんでしょう?」
「それは……」「エルフにする事で、エルフ側の勝ちにしたかったんでしょう? そこに、愛は……あったの?」
俯いたのち、
ハルラの語った答えは……!!




