第10話 聖女様にご挨拶 焦る両ハーレムをクールダウンさせる事に成功する
「まあまあ、こんなに沢山いらして」
夕食後、俺の荷物はとりあえず邪魔にならない廊下の突き当たりに置かせて貰い、
どっちのハーレム部屋に泊まるかを先送りして、以前借りたお金を返しにルバーク教会へ、
離れで余生を過ごし、たまーに出てはありがたいお話をして寄付金を稼ぐというご老人、聖女ハンナさんに会いに来た。
「すみません、ようやくお金を返しに来られました」
「まあ勇者ラスロ様、急がなくても良いのに」
「別にこのためだけに来たと言う訳では無いのですが」
ロズリがお金を多めに渡す。
「ありがとうございました、ラスロ様が無事、王城へ来られたのもハンナ様のおかげです」
「私は当然の事をしたまでですよ、たった十二年で皆、勇者ラスロ様の顔を忘れるだなんて」
「お久しぶりです」「まあ懐かしい、ヨランね……ということは、ラスロ様」「はい、再会は……できました」
が、寝取られていました、とは言い辛い。
「御無沙汰しております聖女ハンナ様」
「あらまあアリナまで! マベルス修道院にその身を封じたと」
「はい、しかしながらラスロ様復活の報を聞き、自ら解放して参りました!」
ゆっくり頷くハンナさん。
「……正直、ラスロに伝えなかったのを内心、心配していましたよ」
「じゃあ、知っていたんですか」「ええ、でもまずは王城へ、との事でしたから」
「秘密にしていただいていて、その、良かったのだか悪かったのだか」「……複雑そうね」
その複雑の原因にもなっているミオスが。
「お初にお目にかかります、グレナダ公爵家の賢者ミオスと申します」
「まあ、魔力の強い子ね」「お褒めいただき恐縮です、ラスロ様と婚約致しました」
「そうですの? では正妻はどちらに」「「私です」」「……なるほどねえ」
さすが聖女様、もう呑み込めたらしい。
「その、ハンナさん」
「そうですね、皆さんにひとつ教えを伝えるとすれば、
自分の主張を押し通そうとするのではなく、一緒になって考える事をしなさい」
その声でおおかたみんな、ハッとなっている。
(ネリィだけは、ずーーーっと俺を見ているが!)
そして話を続ける聖女ハンナさん。
「皆が皆、思い通りになろうとしても必ず相反する意見は出ます、
その場合、一番大切な人が困らない選択をするべきです、客観的に見て……
わかりましたね、アリナ、ミオス」「「……はい」」「ヨランも、他のみんなもよ」
あっ、ネリィが睨まれて『あわわっ』てなった!
なんだかみんな空気的に大人しくなったな、うん、
クールダウンは成功だ、これでまた揉めないで欲しいけど。
「それで勇者様はどうなさるのかしら?」
「はい、魔界との出入り口を塞いで、結婚式を挙げます!」
「それは、どなたと?」「ええっと……婚約者、とですが」
どっちの、とはまだ言えない。
「よく話し合いなさい」
「はい、でも今夜はとりあえず、俺だけ教会に泊めていただくという訳には」
「教会は様々なものから逃げる信徒の、安息の場です」「そ、それじゃあ」
今夜だけでも助けて貰える?!
「かといって、逃げていいものと、そうでないものもあります」
「あっ、じゃあ俺は」「早く解決した方が良いでしょう?」
「まあ、そ、そう言われれば、そうですが」「とりあえずはラスロの、素直な気持ちを打ち明けると良いでしょう」
……いつのまにか俺まで説教されているような気分!
「わ、わかりました、じゃあまずアリナ」「はいラスロ様!」
「みんなで話を、みんなっていうのはアリナとヨランとエミリとネリィとで」
「それでは私達の部屋で!」「いや、押し倒す気だろう」「再会を、喜びたいだけです!」
とりあえずは、きちんと真面目に話がしたい。
「そういう事でしたら、教会をお使いなさい」
「えっ、いいんですかハンナさん?!」
「奥の祈祷室が空いているでしょう、隣にシスターも居るので話以外の変な事は出来ないでしょうし」
逆に言えば話は聞かれるのか、
でもシスターは厳格な守秘義務があったはず、
それに聞かれて恥ずかしい話と言う訳では……あるな。
「では私達は」「ミオスやみんなとも話すよ、アリナ達の後で」
「それまではこちらで私と話しましょう、ラスロの若い頃の話とか」
「ちょっとハンナさん!」「それ、興味ありますわ!」「是非、お聞かせ願いたい」
ミオスもロズリも、喰いつくなあ。
「では勇者ラスロ様」「はいハンナさん、ありがとうございます、
アリナ、ヨラン、エミリ、ネリィ、行こうか」「「「「はいっっっっ」」」」
こうしてとりあえずハンナさんに一礼して、
旧ハーレムのみんなと教会の奥へ……うん、やっとだ、
やっと俺が魔界に消えてからの話が……聞ける。
(俺も、心して聞かないと)
そうして入った奥の特別祈祷室、
鍵はかけられず隣の部屋にシスターは普通に居るが、
入ったとたんにみんながみんな、俺に抱きついてくる!
「ラスロ様!」「やっとだ」
「邪魔者は居ないわ、抱きしめてあげる」
「ラスロサマラスロサマラスロサマラスロサマ」「ちょ、落ち着いて……落ち着けって!!」
張り倒す訳にもいかないのでテーブルを強くバンッ! と叩く。
(さあ、まずは俺から……謝ろう)




