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はかりどき

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんは、ときどき時計が遅れているのを経験したことはないかい?

 世の時計で時報に正確なものばかりではないだろう。とくに家や個人が所有しているものは、時間単位ほどはめったになくとも、分単位や秒単位のずれが生じることはままある。

 自分で調整してそうなっているなら、特に問題にはならない。しかし、もし自分のうかがい知らないところで発生しているとしたら、少し気を配った方がいいかもしれないな。

 その時計が狂っているのは、時計自身が原因なのか? あるいは……。

 私が昔に体験したことなのだけど、耳に入れてみないかい?


 腕時計というものを身に着け始めたのは、大学生になる手前くらいだった……というと遅い方になるのだろうか?

 これまでは腕時計をアクセサリーの一種と認識していた私。アクセサリーというのは大人が着飾るために身に着けるものと思っていて、私自身はその必要性を特に感じていなかったんだ。

 お店や街中に存在している時計たちでも、十分に時間を知ることができる。遠足や修学旅行といった、時間厳守が求められる場面では一時的につける――とはいっても、親に強制されたんだが――ことはあったけれどね。個人的には要らないものだったんだ。


 それがいざ、大学受験を控えて腕時計はつけておいたほうがいいといわれて、受験の少し前あたりから身に着けるようになった。

 これまでがこれまでだから、あまり腕時計に頼らない私。それでもふと、時間を気にすることが増えていた年ごろなので、近くに時計がないときにヒョイと見られるのは、少し便利だなとは思い始めていた。

 そこに、「狂い」が生じない限りはね。


 はじめての狂いは、とある移動の際にバスを待つ時だった。

 バス停には5分前に着いていて、バスを待っていた私だったが、そこから10分待ってもバスが姿を見せない。

 公共機関が必ずしも時間通りに動くとは限らない。頭では分かっていても、いざ自分が被害に遭う側となると、面白くないものだ。

 結局、15分遅れてバスがやってきたのだけど、そのバス内の時計を見て、私は首をかしげてしまう。バスは定刻通りに到着していて、私の時計がずれているらしいことが発覚したんだ。


 15分の先走り。

 そうなると、どこかしらで時計の調子が狂ったときがあるのだろうけれど、時計を見てからバス停に行くまでそれほど長い時間は歩いていないはずだ。

 いったいどこで……無性に気になった私は、用事を済ませて戻ってくると、バス停までの道を逆走してみる。


 普通、ただ反対に通っただけでは何も起こらず、そのままだろう。

 しかし、私は家へ帰り着くまでの間で、再び時計が15分進んでしまうことを確かめることができたんだ。

 単なる偶然じゃない、と分かると、いったん荷物を下ろしてから、三度その道を行く。

 先の2回と違い、今度は腕時計とにらめっこしながら、事故に遭わない程度に慎重に歩みを進めていったよ。

 そして自宅とバス停の、ちょうど中間地点あたりへ来たとき。


 時計の針が回転したんだ。

 それも1回転なんてものじゃない。本来の何千、いやことによると何万倍にも及ぶ、各針の回転。それが瞬きの間に行われたんだ。

 そして、回転が終わった時には針が15分だけ先んじている。

 もしデジタルだったら確認できていない動き出し、アナログでも日付などが一緒に確かめられるものだったら、すぐに違和感に気づけたと思う。

 この純粋に針と時計盤のみの腕時計だからこそ、だろうね。


 そして、場所を絞り込んだ私は、その場所に立つ。

 そこは人が住んでいるかどうかも怪しい、あばら家の前だった。あたりの一軒家に挟まれて建つそれは、平屋ゆえよけいに小兵な印象を受ける板張りだった。

 黒々とした見た目は、その身に重ねた経年を物語っている。その戸口の前に立つと、私の時計が急激にぐるぐると回転を始めることが分かったんだ。

 戸口前へ立ち続けていると、針は回り続ける。立ち位置はけっこう繊細で、わずかでもずれると回転は止んでしまうが、そのたびに時計は15分先を指すんだ。タイムラグをものともしない高速の動きだった。


 そして私はその効果も、身をもって知ることになった。

 時計が激しい回転をはじめて、しばし経つと、平屋の一角がぐすりと崩れ落ちたんだ。

 それだけなら、劣化によって支える力が衰えたがための落下、と思えなくもないが、問題はその一部が地面に落ちてしまった後。

 転がった破片が、たちまち形を崩して、どんどんと灰へ変わっていったのだから。まさに見る間のことで、ここまで数秒程度しか経っていないだろう。


 ――これ、時計が進むと建物の寿命が縮むんじゃないか?


 察した私が、その場を少し外れると、破片の灰化はぴたりとやんだよ。本当、見計らったようなタイミングでね。

 それから私はくだんのあばら家へ近づかないようにしたのだが、どうやら寿命を奪うのは私の時計ばかりじゃなかったようで。半月ほどすると、例の家はきれいさっぱりなくなってしまったんだ。

 工事があった様子もなく、近隣の家へ迷惑をかけたわけでもない。その消失はみんなにとって疑問の的だったさ。

 なにせその建物の後にはただ空き地が残され、家の中にあっただろういっさいがっさいが見当たらなかったのだから。

 私はあれが、何者かの仕組んだ証拠隠滅手段じゃないかと思っているんだよ。

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