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打ち明け話


 風岡さんの話す過去。一言一句、聞き逃さないように全神経を集中させた。まるでその世界に入って追体験しているかのように胸が痛くなる。これまで彼女がどんな思いで生きてきたのか。他者ひとに対しても自分に対しても深い洞察を発揮し、分析している。

 やっぱり風岡さんは思っていた通りの人だと思った。

「ありがとうございます。全部正直に話してくれて」

「えっ?」

「言いにくいこともあったはずなのに」

「それはそうだけど、あの……。本気?」

 風岡さんはすっとんきょうな声を出した。きっと彼女にとっては壮絶な告白をしたつもりなのかもしれない。でも、俺からしたら何となく分かっていたことだった。風岡さんは苦しみを糧に生きてきたのだということを。

「風岡さんはやっぱり、超がつくくらい優しい人なんだと思います」

「どうしてそうなるの? 引くとこじゃないの?」

 俺の反応が予想外だったようで、風岡さんは疑問符だらけの顔をした。

「風岡さんがどういう思いで生きてきたのか。全部は知らないけど。分かったようなこと言えないけど。想像するとつらくて泣きそうです。でも、話してくれて嬉しいです」

 泣きそうなのをこらえて苦い顔で話す風岡さんは、怯えたように小さく震えている。抱きしめてなだめてあげたいけど、それは許されない。ただ、まだ付き合ってはいないけど、一気にそれ以上の関係になれた気がする。大切な話をしてもらえているような。こんな風に思ってしまうなんて楽観的すぎるだろうか。

「どうしてそういう反応になるの?」

「なんていうのか……。人ってそういうものだと思うんです。俺だってそうです。腹立つと仕事相手だろうか内心毒づくし、昨日も友達の結婚式でひどく落ち込んだばかりです」

「友達の結婚式だったの?」

「はい。おめでたいことのはずなのに心から喜べないでいました。そんな自分にも自己嫌悪して。普段もそう。街を歩いてるといかにも遊び人なチャラチャラした人が幸せそうに彼女連れだったり。世の中理不尽! って思うことばっかですよ。風岡さんが友達を避けてしまったことも、性格悪いとかじゃなくて状況が嫌でもそうさせたって部分が大きいと思うんです。もし理想の自分を生きれていたら、周りにも自分にも別の対応をしていたんじゃないですか?」

「たしかにそうかもしれないけど……」

「それに今は実質無職なので、働きたくない人の事をとやかく言えないし、そうでなくてもダメだとか言うつもりありません」

「え、いま無職!? でもこの部屋は? あ、やっぱり親の? 情報が多すぎて処理しきれない!」

 風岡さんは頭を抱えた。

「俺の実の親も、毒親ってやつなのかもしれないです」

「実の親って?」

 風岡さんは深刻な顔で前のめりになる。再会したばかりで、しかもまだ付き合ってすらいない不安定な関係でこんなことを話すのはいかがなものだろう。一瞬迷ったが、話すと決めた。風岡さんも正直に話してくれた。俺もその気持ちに応えたい。

 これは初めて人に話すことだった。

「このマンションは親から引き継いだ管理物件で、その空き部屋に住んでるのでタダ同然なんですよ。光熱費は当然かかりますけど、他にも管理物件がいくつかあって不労所得があるし親の残してくれた財もあるのでおかげでなんとかやり繰りできてます。でも、その親は俺の本当の両親じゃないんです。なので、風岡さんが子供を持つことに否定的なのもすごく理解できますよ」

 父さんと母さんは育ての親だ。あの人達は適齢期を過ぎても子供を授かれなかったが、どうしても子供がほしく諦められなかった。そこで、子沢山だった母の姉夫婦の家庭から生まれたばかりの俺を養子に迎えた。母の姉夫婦が俺の実の両親になる。その家庭ではすでに子供が五人いて、俺で六人目だった。収入もそこそこだったその家で五人の子供を育てるのは経済面できつかったらしく、それもあり、俺を養子にすることと引き換えにうちの財産を幾分か分け与えたという話だ。養子縁組が行われたのは生後すぐだったので俺に実の両親と過ごした記憶は全くないが、その人達はイトコの家庭として実はずっと付き合いがある家族だった。俺が十歳になった時、父さんからその話を聞いた。

「今まで内緒にしてたけど、本当はそういうことなんだ」

「そうだったんだ……」

 打ち明けられて驚きはしたものの、何の感慨もなかった。俺の両親は一緒に住む父さんと母さんの二人だけだと思ったし、実の親の元に戻りたいなども一切思わなかった。ただひとつ、長年の謎が解けただけだった。イトコのお兄ちゃんやお姉ちゃんはみんな俺のことを嫌いなようで、大人のいないところでは髪を引っ張って俺が痛がるのを見て喜んでいたり、親戚で泊まりの旅行をした時などは入浴中に俺の服を隠してきたりした。だからイトコの家には行きたくなかったし、正月や盆で親戚の集まりがあると憂鬱だった。表向き良い顔をしている裏でなぜそんなことをしてくるのか。嫌われる理由なども特に思い当たらずずっと悩んだものだが、あれは俺の実の兄と姉で、裕福な家に引き取られた俺のことが羨ましく憎たらしいので嫌がらせをして憂さ晴らしをしていたようだ。途中までは優しかった叔父(実父)も、ある時を境に人が変わった。

「お前のせいだ。お前さえいなきゃアイツはいなくなったりしなかった!」

 十二歳の時、親戚全員が集まる法事の場で叔父に怒鳴られ、力強くビンタされた。それは叔母(実母)失踪の直後だった。叔母は俺を養子に出さず自分の元で育てたかったらしいが経済的にも状況的にもそれが叶わず、泣く泣く手放したとのこと。それを悔やんで失踪したというのが叔父の推察だった。それまでは陰でコソコソ俺をいじめていた実の兄達も、その場でいっせいに堂々と俺を責め立てた。

「アンタなんて産まれてこなきゃ良かったのに!」

「私達のお母さんを返せ!!」

「お前が産まれたせいでうちはおかしくなったんだ!」

 父さんは俺をかばった。

「何てことを言うんだ! やめないか!」

 俺は父さんの腰にしがみついて涙を流した。浴びせられる嫌悪の言葉がこわかった。血の繋がった人達に憎まれるのもつらい。父さん達には言わずにきたが、これまでされた嫌がらせが脳裏をよぎった。

「あの話は姉さんと散々話し合って決めたこと。姉さんも納得してたし、ほまれとちょくちょく会って仲良くしてた。そちらも色々あるのでしょうけど、家庭内のゴタゴタを何でもかんでも誉のせいにしないでくれませんか。あなた達とはもう会いません。誉にも二度と近付かないで下さい」

 普段穏やかな母さんが俺をかばうように抱きよせ、叔父一家に向かって毅然と言った。それきりその家族は親戚の集まりに一切出入り禁止となった。うちとその家族は絶縁状態になり、それ以来父さんと母さんもその話をすることはなかった。その後、俺の下校中、通学路で叔父が待ち伏せしていたことがあった。一番年下の実の姉も一緒に。

「お前はいいよな。この家で一番遅く産まれたってだけで死ぬまでいい思いができる。感謝料くれよ」

「いっそ死んでくれれば、私がそこに行けるのに」

 人への不信感が明確に植え付けられたのはその時だったと思う。この人達は失踪した叔母のことなど微塵も心配していない。理由を色々こじつけてお金がほしいだけ。欲の塊みたいな人達。どこか他人事のように遠い気持ちになりつつ、財布を出した。おこづかい日はまだ先なので中身はそんなに入っていなかったが大切なお金には違いなかった。週末友達と遊ぶ約束をしていたけどこれは無理になるなと思い、悲しかった。

「なんだ、コレっぽっちかよ」

「しょっぼ!」

 吐き捨てるようにそう言い、実の父と姉はその場を後にした。財布は売ると高値がつくほど質の良い物だったらしく、財布ごと持っていかれた。

 絶縁以来その一家の動きを警戒していたのだろう、父さんは俺の異変に気付くと通学カバンの中を探った。

「財布はどうした? 誰にあげた? 怒らないから正直に言いなさい」

「……叔父さんとサキお姉ちゃん」

「いつ、どこで会った?」

「放課後、校門出てすぐのところで」

「そうか……。よく話してくれたな。ありがとう」

 普段から温厚でふざけてばかりの父さんが、その時初めて激怒した。それから父さんはすぐ叔父の元に出向き、二度と俺に近付くなと強く警告した。今後同じことがあれば通報すると強く言ったそうだ。そこからもうその一家との関わりは途絶え、接近されることもなくなったものの、俺の心の奥にそれまでにはない何か深く重たいものを刻む出来事となった。父さんと母さんに心配をかけたくなくて口にはしなかったが、失踪した実母の行方も気になった。その件で叔父はすぐに行方不明届を提出したらしいが、叔母はいっこうに見つかっていない。

「俺さえ産まれてこなければそんなことにはならなかったのかもしれない。叔父の家族は今でも普通に幸せだったのかもしれない。うちが地主じゃなかったら、その家族と普通の親戚付き合いができていたのかもしれない。実の母も失踪したりしなかったかもしれない。たまに、そう思う時があるんです」

「…………」

「だから、風岡さんの抱えている痛み、なんとなく分かる気がするんです。もちろん全てを知ったような顔するつもりはないんですが」

 付き合いの長い春海はるみですら知らないこと。口にすることでなんだか妙に落ち着いて、同時に、普段は意識しないようにしてきた心の穴を自覚させられるような、闇に飲まれそうな、おそろしさが胸に迫る。

 風岡さんの方を見ようとすると、ふと体があたたかくなった。それまで正面に座っていた風岡さんが自分の席を離れ、イスに座ったままの俺の肩を横から抱きしめていた。

「風岡さん……?」

 ドキッとした。風岡さんの胸が頭の上にある! それになんだか包まれている部分全てが柔らかい。いいのかこれは。早々に抜け出すべきか、でもそれはもったいないような。よろしくない思考に持ってかれそうになりつつ、気持ちを落ち着ける。これは変な意味ではない決して。風岡さんの腕の中はあたたかくていい匂いがしてとても落ち着く。なんだか幼い子供に戻ったような、とても大切にされているような、深い安心感に包まれた。俺の肩を抱く風岡さんの腕がかすかに震えていた。風岡さんは声を押し殺すように静かに泣いていた。

「すみません、変な話して」

「ううん。ごめん、泣いて」

「いえ、そんな、こっちこそ泣かせてごめんなさい」

 焦った。どうしよう。何かタオルかハンカチを! 探そうとするも、風岡さんの腕の中から抜け出したくなくて、ワタワタするに留まる。接したところを通して、心がほぐれていくような気がした。風岡さんは指先で涙を拭いながらポツポツと話した。

「私も近い経験したから、無意識に思い出して。その時の自分を重ねてつい」

「風岡さんも……?」

「親に何度も言われてた。産まなきゃ良かったって」

「風岡さんも?」

 痛みで心臓が重くなる。

「親はずっと私に無関心だったし、いま振り返ってみても理不尽な怒り方をしてた。私の存在があの人達には負担だったんだと思う。子供の頃はそういうのが理解できなくて好かれようと必死だった。結局伝わらなかったけど」

 唯一の親に愛されようと頑張っていたんだ。俺も実の親や兄姉きょうだいに嫌われてつらかったけど、父さんと母さんが全面的に味方をしてくれたから絶望せずにすんだ。だけど風岡さんは違う。産みの親にそんな言葉を投げかけられるなんて、いったいどんな気持ちで……。

「すみません、嫌なこと思い出させて」

 風岡さんを抱きしめ返した。この人が他人ひとの感情に敏感な理由がよくわかった。子供の頃から常に親の動向を意識して振る舞い方を変化させてきたからだ。

「つらかったですよね」

「それは可愛さんだよ。よくひねくれなかったね」

 失くしたものもあるけど、それ以上に与えてもらったものの方が大きいと思っている。だからこそ。親から受けた恩を、これまで注がれた愛情を、優しさを、今度は大切なこの人に与えられたら。

「風岡さんこそ。よく生きててくれましたね。死なないでくれて、本当によかった」

「そうかなぁ……。もう生きるのやめたいところなんだけど。頑張るのも頑張らないのもしんどい。人生もう疲れた」

「風岡さんは今までよく頑張ってきたんです。もう頑張ろうとしなくていいんです。つらくても悲しくても生きてきた。それだけで充分なんです。褒めてあげましょうよ、自分を」

 風岡さんの体があたたかくて、癒すつもりで抱きしめたはずのこっちが癒されていた。ずっとこうしていたい。

「褒められた人生じゃないんだよ、本当に。存在価値があるのか、本気で疑問持ってる」

 そう言いつつ、風岡さんはずっと俺を抱きしめてくれていた。励ましのつもりなのか、すがる心境からなのか、そのどれもなのか。

「そんな風に言われたら悲しいです」

「悲しい?」

「風岡さん。いてくれるだけでいいんです。それで救われてる人はきっとたくさんいます。目に見えないとしても、風岡さんに感謝をしてる人や癒されてる人は絶対います。これまでも、これからも。俺もそのうちの一人です」

 示すように、抱きしめる腕に力を込めた。やっと心からほしいものを手に入れた、そんな温もりが全身に広がる。もう二度と離したくない。絶対に失いたくない。そう、強く思った。

「これ、なんの抱擁ほうよう?」

「大好きの抱擁です」

「いやだから、それはさ。もうちょっと冷静になりなよ」

 ハッとして離れようとあがく風岡さんをやんわり抑えるように、強く抱きしめた。

「ますます好きになりました」

「えっ?」

 風岡さんはビックリしている。俺の気持ちが変わらないことを不思議に思っているのだろう。いろいろな話をして嫌われると思っていたのだろうか。惜しむ気持ちでいったん風岡さんから離れ床に正座し、俺のそばに立つ彼女を見上げた。

「そんな簡単になくなるほど軽い気持ちじゃないです。でも、風岡さんが俺を選べないことも分かりました。もう付き合ってほしいとは言いません」

 まずは信頼関係を結ぶところからだ。風岡さんはきっと色んなことに絶望して心にふたをしている。これ以上傷つきたくないと自分を守るために。そんな風岡さんにとって、俺はまだきっと信用に値する男ではないのだろう。以前職場で仲良くしていただけの知り合い、それだけだ。仕方がない。それなら、そこから変わっていけるよう努力したい。

「助けさせて下さい。放っておけないんです。恋人が無理なら親友寄りの友達として、仲良くするのはダメですか?」

「そんな、ダメとかそんなことは……」

 風岡さんは困ったようにうつむく。

「可愛さん他にも仲良さそうな女友達いたのに、何でそこまで私にこだわるの?」

 ドキッとする。そういえば以前、ラインのタイムラインで女友達の投稿に何度かイイネをしたんだった。あれは昔の仲間で、卒業直後はグループでよく遊んだりしていたが二人きりで遊んだことは一度もなく、今では全然関わりがない。向こうは何年か前に結婚してすでに子供もいると人伝に聞いた。

「すみません。風岡さんに振り向いてほしくて、あの頃はわざと女友達の存在をチラつかせてました」

「えっ」

「本当にすみませんっ。最低なことしてました。分かってます。でも、どうしても意識してほしくて、嫉妬してほしくて」

「そうだったの?」

 曇りがちだった風岡さんの顔が明らかに安堵あんどで満ちた。

「可愛さんがそういうことするの、意外」

「それこそ買いかぶりすぎですよ。小さいヤツなんです、本当に」

「仕事ではそんな風に見えなかったから」

「風岡さんのアイコンに妬いたんです」

 恥ずかしいけど、正直に話した。

「旦那さんと行ったっぽい水族館の写真をアイコンにしてたじゃないですか。あれ、すごく妬けました」

「違うよ、あれは……。あの時も言ったかもしれないけど、旦那とじゃなくて」

「友達と? それ本当ですか?」

 風岡さんは気まずそうにうなだれる。

「それも実はウソで……。一人で行ったの。水族館」

「えっ?」

 思ってもみなかった答えが返ってきた。

「周りがみんな家族や夫婦旅行の楽しそうなアイコンにしてた頃でね、自分だけ日常丸出しなアイコンが嫌だなって。変に見栄張りたかったんだと思う。私も旦那と仲良いんだって思われたくて、一人で水族館行ってそれっぽい写真撮って……。最初は本当に友達と行くことも考えたけど、友達はみんな夫婦仲良かったから、そんな子を誘うのもみじめな気持ちになりそうで、できなかった」

「そうだったんですか」

 知らなかった。風岡さんにそんな弱さがあったなんて。だからあの時、アイコンのことに触れたら微妙な顔をしていたのか。

「旦那さんとは旅行とか遠出とかしなかったんですか?」

「全然。新婚旅行も行ってないしね」

「本当に!? それは寂しいですよね」

「寂しいどころじゃないよ。恥ずかしさすら感じた。こっちはもらってるのに私だけ友達に新婚旅行のお土産配れないっていう気まずさったら。周りは当たり前に家族や夫婦で定期的に旅行や遠出をしてるのに、うちは一切そういう話が出なかった。水族館も行きたいって言ってみたことあるけど、旦那には遠いから運転疲れるし土日はゆっくりしたいって返されて、それきり。まあ、私はパート勤務で贅沢できる稼ぎもなかったし財布も別だったし、たしかにあの人は普段から残業多かったからそうなるのは仕方ないよ。夫婦生活も人それぞれで、他所よそと比べるものでもないのかもしれない。でも、やっぱりアイコンで人の幸福度が見えると自分との差が気になってさ……。私は旦那に大切にされていない女って公に証明されてるみたいでつらかったな」

 寂しげに風岡さんはうつむいた。一生懸命自分を納得させてきたのだろうけど、本当は休みの日には旦那さんと遊んだり旅行したりしたかったんだろうな。

「そうだ! 風岡さんの仕事のことが一段落ついたら気分転換に出かけませんか?」

「可愛さんと私で?」

「はい。もらい物なんですが、実は温泉の無料チケットがあって」

 株主優待の日帰り温泉チケット。いつもは一人旅に利用するか、そのうち行こうと先延ばしにしているうちに期限が過ぎて破棄してしまうのだけど、これなら風岡さんも変に遠慮とかせず来やすいかもしれない。

「ここから日帰りできる距離ですし、車も出すので、よかったら」

「でも……。付き合ってないのにそういうの、どうなんだろ」

「友達だからいいんじゃないですか?」

 強引だろうか。こじつけ感がすごいと自分でも思うけど、風岡さんの望みを叶え、寂しかった気持ちを少しでも癒せたら。そんな気持ちでいっぱいだった。結婚生活でついただろう傷。それを無くすことは無理でも、せめて心にっても痛くない程度にすることができたら。

「もうただの知り合いではないなって、俺は思ってます」

「たしかに。お互いにデリケートな話もたくさんしたよね。不思議と」

 いつかこうなる予感はしていたかもしれない。

 これまで出会ったどの女性とも違う、特別な関係性に成っていくような予感。出会った頃は曖昧だったその感覚は、今はっきり目に見える形となって現れた気がした。











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