序章
ツインレイをテーマにしたファンタジー要素ありの恋愛小説になります。
数年前から少しずつ考え、ようやく形にできました。
ぜひご一読ください!
ああ、まただ。
この手にあった温もりが、この耳に聞こえていた声が、そこにたしかにあった存在が、まぶたを開けた瞬間、嘘のように霧散する。
再び目を開けると同時に胸を染めるのは喪失による深い悲しみと世界への絶望。もう二度と人を愛さないという、覚悟にも似た揺るがぬ決意。
私には、
俺には、
自分以上に大切で愛おしい、そんな存在がいた。ほんの少し前まで一一。
たまに見る不思議な夢。
明確で、鮮明で、まるで映画の中の登場人物にでもなったような臨場感と現実味。激しい心音。睡眠から覚めると大量の汗をかき、呼吸も乱れている。ひどい時は涙を流していることすらあった。夢現でしばらくぼんやりしていると、それは実際に起きた事ではなく夢の中の出来事なんだと気付き、じょじょに落ち着きを取り戻す。
……またか。
子供の頃から見るこの夢は、大人になるにつれて頻度を増やし、ささくれだった心をさらに疲弊させてくる。
俺は、
私は、
そんな恋愛、したことないし。
それなりに男女交際はしてきた方だと思う。思春期から青年期、数々の出会いがあった。けれど、それは気付くと一瞬にして終わってしまう夏の花火のようにあっけなく終わるものばかりだった。多様性を謳われる現代、結婚は絶対的なものではなく、昔に比べ人々は生涯独身を貫きやすくなったと聞く。様々な生き方が可能になったはずなのに、一定数以上の人が結婚して幸せそうな家族の在り方を実現させている。周りにもわりとそういう人が多い。
人それぞれなんだろうけど。大人になった自分は職場と家の往復で精一杯だ。たまに友達と遊ぶけど、無味乾燥な日常は良くも悪くも穏やかで、夢の中で感じた〝自分〟みたいに、恋愛による熱情や苦悩とは無縁の暮らしだ。それはある意味幸せなことなのかもしれない。ただ、心震わす幸福を感じることもなかった。
本当の愛ってなんだろう。人を好きになるのは簡単なのに、熱を持ったはずの気持ちはとても浅く脆く。持続的に愛する方法とか、死ぬまで関係を続ける術とか、最も知りたい答えが見つけられないでいる。いや、見つけられないことに安心していたのかもしれない。知りたいけど知るのがこわくもある。未知の自分をあぶりだされそうで。
運命の人なんて、本当にこの世に存在するのだろうか。いまだに会えないそれに、本当に会いたいのか、会いたくないのか。