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殺し屋のココロ。

作者: 万里
掲載日:2010/03/20

 銃口を男に向ける。

「許してくれー!」

男が膝をついて懇願するが、そんなことお構い無しに、ミカゲは引き金を引いた。赤い血が飛び散るのを見て、彼女はそっとほくそ笑んだ。

「完了・・・」

頬についた赤い血を、ミカゲは拭った。


 “殺し屋”と呼ばれる人間は、絶対に依頼人からの仕事を断ってはいけない。そして、絶対に実行しなければならない。

 それを破る者がいたら、即刻消す。

 人殺しの仕事は、相当の覚悟が要るのだ・・・。

「ミカゲ、このあいだもすごかったらしいじゃん」

「別に。たいしたこと無い」

すごいすごいと、ミカゲと同じ殺し屋のタケは感心する。

 殺し屋になって2年。ミカゲは、全ての依頼を完璧に実行した。そして、国会議員を暗殺するほどの腕前の持ち主だった。

 タケがため息をつく。

「ミカゲはすごいけどさ、知ってる?アツキ、消されたって」

アツキとタケとミカゲは同期だ。タケが残念そうな表情をする。

「寂しいね」

「・・・そう?」

ミカゲには、誰かを思う気持ちなんて無い。それは、殺し屋である限り、必要の無いものだ。むしろ、あることは邪魔なのだ・・・。


 暗い路地裏に呼び出される。

「ミカゲ。次の依頼だ」

そこに、ボスがいた。さっと差し出された紙をミカゲは受け取る。

 その資料を見て、ミカゲは愕然とした。

「これって・・・!」

「サカイ アサコ。次はこいつだ」

「アサコ・・・」

私の親友!どうして、どうして!

「知ってるだろう?国の政策、人口減少政策。無差別に選ばれた人間を殺す政策の、対象者だ」

手が振るえ、涙が出てきた・・・。

「どうした?依頼だぞ、ちゃんとやるんだ。・・・わかっているだろうな。やらなかったらどうなるか。お前もアツキのようになりたいのか?」

そういい残し、ボスは去っていってしまった。

 ミカゲは、立ち尽くした。頭は真っ白だった。


 駅前の時計台の前。ミカゲは待ち合わせをしていた。

「ミカゲー!」

向こうからアサコがやってきた。

「アサコ」

「久しぶりだね!もー、寂しかったんだよ!」

 その後、2人で遊びまわった。何年か前に戻った気がした。自分が殺し屋だということも忘れていた。

 夕暮れが近づく。

「楽しかった!よかったよ、ミカゲに逢えて!」

笑い合う。最高の思い出になった一瞬だった。

 いきなり、携帯の着信音が鳴る。ディスプレイには、あの名前が表示されていた。

「はい・・・」

「わかってるな」

「・・・わかっています」

「しっかりやれよ。さもないと、どうなるか」

電話が切れた。一気に現実に戻される。

 先を歩くアサコの背中を見る。ミカゲの心には、重苦しい雲がかかっている。

「ミカゲ?」

アサコが振り返り、笑って名前を呼ぶ。

「先言っちゃうよー!」

また、歩いていってしまう。

 腰に隠した銃に手をあてる。

 アサコ、私はとっても幸せだった。

 スッと銃を取り出した。


 ボスがタバコを吸っている。そこに、ミカゲがやってきた。

「よぉ。仕事終わったのか?」

 暗がりから現れた彼女の眼は、赤かった。

「どうした?」

「・・・できなかった」

「はぁ?」

「殺せなかった」

 ミカゲは、結局殺せなかった。そのまま、何も無いままアサコと別れた。

「ほう。わかってるんだろうな、どうなるのか」

「覚悟の上です」

「そうか、残念だ・・・」

ボスが言い終わらないうちに、銃声が鳴り響いた。

 ミカゲの身体が、ゆっくり崩れ落ちていった。


 タケは花束を手にし、1つの墓石の前に立っていた。

「ミカゲも、馬鹿だよなぁ・・・」

 ミカゲはボスの手で殺された。その後、アサコも殺された。依頼は実行しなければならない。

「運命ってものがあるんだよな。ここの世界に入ったことが、間違いだった。けれど、それがお前の運命なら仕方の無いことだな」

タケは空を見上げた。

「あのあと、殺し屋は解散させられたよ。ボスは捕まったし、これでみんな安心して暮らせる」

 風が音を立てる。

「ミカゲ?」

振り向くがそこには誰もいない。ただ、光が降り注いでいるだけ・・・。

「まぁ、お前もやっと解放されたんだ。絶対そっちの世界で幸せになれよ」

 もう一度吹いた風が、タケが持ってきた花の花びらを舞い上げた。

「じゃあな!」

タケは、空に向かって手を振った。

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