殺し屋のココロ。
銃口を男に向ける。
「許してくれー!」
男が膝をついて懇願するが、そんなことお構い無しに、ミカゲは引き金を引いた。赤い血が飛び散るのを見て、彼女はそっとほくそ笑んだ。
「完了・・・」
頬についた赤い血を、ミカゲは拭った。
“殺し屋”と呼ばれる人間は、絶対に依頼人からの仕事を断ってはいけない。そして、絶対に実行しなければならない。
それを破る者がいたら、即刻消す。
人殺しの仕事は、相当の覚悟が要るのだ・・・。
「ミカゲ、このあいだもすごかったらしいじゃん」
「別に。たいしたこと無い」
すごいすごいと、ミカゲと同じ殺し屋のタケは感心する。
殺し屋になって2年。ミカゲは、全ての依頼を完璧に実行した。そして、国会議員を暗殺するほどの腕前の持ち主だった。
タケがため息をつく。
「ミカゲはすごいけどさ、知ってる?アツキ、消されたって」
アツキとタケとミカゲは同期だ。タケが残念そうな表情をする。
「寂しいね」
「・・・そう?」
ミカゲには、誰かを思う気持ちなんて無い。それは、殺し屋である限り、必要の無いものだ。むしろ、あることは邪魔なのだ・・・。
暗い路地裏に呼び出される。
「ミカゲ。次の依頼だ」
そこに、ボスがいた。さっと差し出された紙をミカゲは受け取る。
その資料を見て、ミカゲは愕然とした。
「これって・・・!」
「サカイ アサコ。次はこいつだ」
「アサコ・・・」
私の親友!どうして、どうして!
「知ってるだろう?国の政策、人口減少政策。無差別に選ばれた人間を殺す政策の、対象者だ」
手が振るえ、涙が出てきた・・・。
「どうした?依頼だぞ、ちゃんとやるんだ。・・・わかっているだろうな。やらなかったらどうなるか。お前もアツキのようになりたいのか?」
そういい残し、ボスは去っていってしまった。
ミカゲは、立ち尽くした。頭は真っ白だった。
駅前の時計台の前。ミカゲは待ち合わせをしていた。
「ミカゲー!」
向こうからアサコがやってきた。
「アサコ」
「久しぶりだね!もー、寂しかったんだよ!」
その後、2人で遊びまわった。何年か前に戻った気がした。自分が殺し屋だということも忘れていた。
夕暮れが近づく。
「楽しかった!よかったよ、ミカゲに逢えて!」
笑い合う。最高の思い出になった一瞬だった。
いきなり、携帯の着信音が鳴る。ディスプレイには、あの名前が表示されていた。
「はい・・・」
「わかってるな」
「・・・わかっています」
「しっかりやれよ。さもないと、どうなるか」
電話が切れた。一気に現実に戻される。
先を歩くアサコの背中を見る。ミカゲの心には、重苦しい雲がかかっている。
「ミカゲ?」
アサコが振り返り、笑って名前を呼ぶ。
「先言っちゃうよー!」
また、歩いていってしまう。
腰に隠した銃に手をあてる。
アサコ、私はとっても幸せだった。
スッと銃を取り出した。
ボスがタバコを吸っている。そこに、ミカゲがやってきた。
「よぉ。仕事終わったのか?」
暗がりから現れた彼女の眼は、赤かった。
「どうした?」
「・・・できなかった」
「はぁ?」
「殺せなかった」
ミカゲは、結局殺せなかった。そのまま、何も無いままアサコと別れた。
「ほう。わかってるんだろうな、どうなるのか」
「覚悟の上です」
「そうか、残念だ・・・」
ボスが言い終わらないうちに、銃声が鳴り響いた。
ミカゲの身体が、ゆっくり崩れ落ちていった。
タケは花束を手にし、1つの墓石の前に立っていた。
「ミカゲも、馬鹿だよなぁ・・・」
ミカゲはボスの手で殺された。その後、アサコも殺された。依頼は実行しなければならない。
「運命ってものがあるんだよな。ここの世界に入ったことが、間違いだった。けれど、それがお前の運命なら仕方の無いことだな」
タケは空を見上げた。
「あのあと、殺し屋は解散させられたよ。ボスは捕まったし、これでみんな安心して暮らせる」
風が音を立てる。
「ミカゲ?」
振り向くがそこには誰もいない。ただ、光が降り注いでいるだけ・・・。
「まぁ、お前もやっと解放されたんだ。絶対そっちの世界で幸せになれよ」
もう一度吹いた風が、タケが持ってきた花の花びらを舞い上げた。
「じゃあな!」
タケは、空に向かって手を振った。




