闘い終わって(7)
翌朝、空荷の、牛が牽く荷車だけが雉の手で、今は道場となっている兵衛の家に運ばれてきた。
「あんまりでございましょう。」
雉は落胆したような目で兵衛を見た。
「袋の中身は小石・・それ程私は信用できませんか。」
「済まぬ・・だがそなたを信用していないわけでは無い。
“敵を欺くには、まず味方から。”
これは私と源三殿が考えた策でござる。
これから先、ポツポツと見知らぬ者達がここを訪れては、やはり目立ち申そう・・そこで芝居を打った。
あなたは金を小分けにと仰った・・・そうすれば当然解る。
済まぬが中身は変えさせてもらい、金は昨日のうちに私がここへ運び入れた。
そうすれば、ここに戻ってくるのは空の荷車だけ・・・
これを知っていたのは拙者と遼河だけでござる。」
「なぜ遼河に教えた。」
紅蓮が口を挟む。
「教えなければ、遼河は金を護るため、最後まで戦う・・あいつはそう言う奴だ。」
「そう言う訳かい・・まあ良い俺は帰る。」
雉はくるっと背を向けた。
「礼はいつか必ず・・・」
要らないよ・・・雉は後ろも見ずにその場から去った。
それから暫く、巴と紅蓮坊が駆けつけてきた。
「怪我はなかったか。」
紅蓮坊はまずかえでのところに向かい、
かえでは、ウンと頷く。
その身体を抱え上げ、
良かった・・とそれを空中に放り上げた。
「無茶するんじゃ無いよ。」
巴はそれを叱った。
だがかえでは巴の声には頓着せず、きゃっきゃと喜んでいた。
「かえで、小太郎や小平次と遊んできなさい。」
床の上に立ったかえでに兵衛が優しい声を掛け、かえでは庭に駆けていった。
「さて・・・・」
兵衛は話を始め、委細を説明した。
巧い・・・紅蓮坊は大声を上げ、
なるほど・・・巴はそれに頷いた。
「金貨百枚は地下蔵へ。」
「これもあるぞ。」
紅蓮坊は自分の恩賞、金二十枚を机に置いた。
私のもよ・・・巴も金貨五十枚を出した。
「全部で百七十枚か。
これだけあればいざという時に動くにも、窮する事は無い。」
兵衛は大きく頷いた。
「後は皆の供出金だな。」
紅蓮坊の声が響く。
「金五ずつ・・去年と同じ。
但し、遼河は金二。」
「俺も金五を出します。」
「それでは、かえでと二人、苦しいでしょう。」
「俺は今も働いている。
木こりの手伝いをしたり、田や畑の手伝いをしたり・・何もない時はお金持ちのお屋敷の庭掃除やら何やら・・かえでと生きていくには充分な金を稼いでいます。
だから金貨二枚もあれば充分です。」
「旅に出る事もあるんだよ。それでも大丈夫かい。」
それは・・・遼河は答えに窮した。
「遼河は金二で決まりだな。」
紅蓮坊がすぐに横から念を押し、
解りました・・・と仕方なしに遼河が頷いた。