闘い終わって(6)
たまに山中で音がする。遼河はそれを無視して道を急いだ。
「おい、俺が見てくるぞ。」
「必要ない。」
小太郎の声にも同意せず、先を急ぐ事を選んだ。
道はある・・だが山中では四方の見晴らしが悪い。
早く平地に降りなければ・・・遼河の胸には焦りがあった。
その焦りが隙を生み、その隙を突かれたか平地に降りた時には、既に包囲されていた。
荷車の上ではかえでが泣いている。
「鬼だ。
小太郎、逃げるぞ。」
「戦わないのか。金が取られるぞ。」
「源三様に言われている。
金よりもまずかえでだと。
相手の数が多すぎる。」
遼河はかえでを背に負い、その身体を荒縄で自分の身体に括りつけた。
「小太郎、前を開けられるか。」
任せておけ・・小太郎は数の薄い前方にすっ飛んでいった。
「巴、行くぞ。」
紅蓮坊が駆け出し、巴がその後に続いた。
「困りますなあ。」
その二人の前に雉が立ち塞がった
「鬼に襲われておる。」
紅蓮坊が遠くを指さし、大声を上げる。
「私の部下です。
これは策どおりの行動。」
「部下・・お前の部下は鬼か。」
紅蓮坊は怒鳴り声を上げ、身構えた。
「とんでもない。」
雉はピュッと指笛を一つ鳴らした。
一匹の鬼がこちらに駆け寄ってくる。
「顔を見せろ。」
雉はその鬼に命じた。
命じられた鬼は後頭部に手をやり、そして自分の顔を掴んだ。
鬼の顔が剥がれ、人の顔が現れた。
「鬼の面です。
但し革で造ってあるため、生々しく見えましょう。」
雉は微かに笑った。
「これは源三様と示し合わせた策です。
あなた方にここで手を出して貰っては困ります。
ここであなた方が戦えば、私の部下達は多分・・全滅するでしょう。
鬼に襲われ、金を奪われた・・との噂は霧散します。」
「そう言うことね。」
巴はすぐに納得した。
「どう言うことだ。」
紅蓮坊がまた怒鳴った。
「作戦よ・・金の話しを消し、金を無事に東野の兵衛の屋敷まで運ぶための。」
「後ほど金は分散して山科の東野まで運びます。」
と、言う事だ・・・巴は紅蓮坊の顔を見、
帰ろう・・と続けた。
「明日には兵衛殿の屋敷にご参集頂くようお願いいたします。」
雉は深々と頭を下げた。
遼河がかえでと小太郎を連れて逃げていった後、鬼の仮面を着けた者達は牛の牽く荷車を取り囲み、それを山に牽いていった。