闘い終わって(2)
「やれやれ、やっと終わったか・・・」
紅蓮坊は言葉を発しながら、どっかと席に座った。
巴、兵衛、遼河にかえで・・五人は一つの食台を囲んだ。そこに源三の姿は無かった。
「源三様の用とはなんなんでしょう。」
巴は兵衛に問いかけた。
「私にも解りません。
まあ、押っつけ源三様も参られるでしょう。」
ところで・・・紅蓮坊は食台の上にどんと金袋を置いた。
「この金はどうする。」
「私のもだよ・・・」
巴も同じ様に懐の金袋を叩いた。
「二人合わせて金貨七十・・皆で分けるか。」
紅蓮坊は豪快に笑う。
金貨七十・・・その声に店の中がざわついた。
「あんた・・軽々しく言うんじゃないよ。」
巴がそのざわつきを見、兵衛に目配せをした。
「怪しげな者達も居ます。
金額の話しは止しにしましょう。」
兵衛は小声で言った。
「今晩は一カ所に纏まったが良さそうね。」
巴が頷きながら言う。
ごめん・・・そこへ雉が金袋を持って入って来た。
「貴方達の給金だ。」
金袋は四つ。それにはそれぞれ名が記してあった。
随分丁寧だな・・・紅蓮坊は自分の名が認められた袋に手を伸ばした。
「紅蓮坊殿、手伝ってくれ。」
雉は金袋を懐に収めた紅蓮坊を店の外に誘った。
「あんた等随分と羽振りがいいようだな。」
紅蓮坊が店の外に出るとすぐに、何人かの柄の悪そうな男達が兵衛達の席に近づいてきた。
兵衛は背丈はあるが身体は細い。それに女と子供・・彼等はそれを嘗めてかかったのだろう。
「止したが良いよ・・怪我をしますよ。」
巴は静かに言った。
「おうおう・・おなごが偉そうに何か言っているぞ。」
男が一人巴の顔に酒焼けした顔を近づけた。
パン・・・その頬が強かに打たれた。
この女郎・・・男は後ろに下がり、巴を睨み付けた。
「これだけの金子を貰うと言う事は、それだけの力があるという事ですよ。」
兵衛が立ち上がり、巴に掴み掛かろうとするもう一人の男を投げ捨てた。
遼河はかえでを護って・・・巴も席を立った。
あのがき共を・・二人が遼河とかえでの元に迫った。
その手が遼河の木刀に打ち据えられる。
「おいみんな、こいつ等はとんでもない金子を持っている。
こいつ等を叩き伏せればそれを手に入れられるぞ。
奪えばみんなで山分けだ。」
ならず者の首領格なのか、男が一人店中に響く声を上げた。
その声に店中の金に飢えた男達が呼応した。
チッ・・・巴は舌打ちをした。
人は斬りたくない・・その思いは兵衛も遼河も同じだった。
あのがきを人質に取れ・・・数人の男がかえでに迫った。
かえでの横でげんたが唸る。
犬っころが・・・一人が拳を振るった。
その腕にげんたが噛みついた。
げんた、だめ・・それをかえでが止めた。
その時にはもう、殴り掛かった男は血を流し、悲鳴を上げていた。
もう容赦しねえ・・・首領格の男は匕首を抜き、他のならず者達もそれに倣った。
何をやっている・・・大きな革袋を担いで外から帰った紅蓮坊が、その大きな手で息巻いている男の頭をはたいた。
それだけで男は大きく弾き飛ばされ、気を失った。
その後ろには雉も居た。
「金狙いですか・・・
私も相手になりましょう。
但し、私はこの人達ほど優しくはありませんよ。」
雉は後ろ腰に差した二本の鎌を抜き、その革鞘を払った。
あっという間にそれに手を出した男の手首が床に落ちた。
「あなた方は源三様の宿所へ・・源三様にはここには来るなと伝えておきます。
それに後ほど分け前は頂きにあがります。」
一人で大丈夫か・・紅蓮坊が怒鳴る。
「私には部下がいます。」
紅蓮坊は雉が笑うのを初めて見た。