第1話「異世界転生のはじまり」
放課後の教室で一人机に頬杖をついていた僕、丸山タロウ。今日も特にやることもない平凡な一日が過ぎようとしていた。
「はぁ...」
溜息が出る。僕はいつもより少しだけ疲れているようだ。教室をぼんやり眺めていると、一人の女生徒が目に入った。
「あ、葉月さんか」
同じクラスの葉月あやめだ。物静かな性格でいつも一人で本を読んでいる。僕は以前から彼女のことが少し気になっていた。
「かわいいな」
小さな声でつぶやくと、葉月さんが僕のほうを見た。ひとこと会話したこともないのに、なぜ見つめているんだろう。恥ずかしくなり、僕はすぐに視線を外した。
「はぁ...また平凡な一日か」
昼食のお弁当を片付け、かばんに入れると、僕は教室を出た。いつも通りの帰り道だ。情けない話だが、友達というものがいない。毎日一人で帰宅する日々が続いている。
そんなある日のことだった。いつもの道を家路についていると、突然車のタイヤのスリーピング音が聞こえた。振り返ると、大型トラックが制御を失って僕のほうに向かってくる。
「あ、危ない!」
思わず悲鳴と共に身体が動いた。だが遅かった。トラックは僕に激突したのだ。激しい痛みと衝撃。意識が遠のいていく。
「これが、死ぬってことか...」
そう思いながら、僕の意識は完全に消えた。
「ん...」
眼を開けると、そこは明るい森の中だった。頭がぼーっとする。どうして森の中にいるんだろう。言葉が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
振り返ると、長い緑色の髪を持ったら剣士風の格好をした少女が立っている。耳は尖っていて、目の色は紫のように見える。
「ここは...」
「フォレスタルの森です。私はアリス。旅の途中、倒れているあなたを見つけたとき、モンスターに狙われているのかと思って駆け寄りました」
アリスは丁寧に話しかけてくる。でも内容がまるで理解できない。フォレスタル? モンスター? 一体何が起きているんだ。
「うーん...事故で死んだはずなのに...」
「事故? 死んだ?それは何のことでしょう」
アリスは首をかしげる。僕の言葉が通じないようだ。
「ねえ、あなた。あなたは転生したのでしょう」
「転生?」
「そう、この世界ソレインに転生したのです。前の世界の記憶はあいまいになり、この世界の常識が身に付いていくことになるでしょう」
思い出した。トラックにはねられた時の痛み。あの時死んで、異世界に転生したのだと思えた。
「名前を聞かせてもらえますか?」
「あ、丸山タロウです」
「タロウ君か。よく聞いて、タロウ君。この世界には魔法が存在するの。タロウ君にもきっと魔法の才能が備わっているわ」
アリスは励ましの言葉をかける。そうか、俺は死んで異世界に転生し、魔法の世界で新しい人生を歩むことになったんだ。不安はあるが、それよりもわくわくする。
「少し歩いてみましょう。体の動きを確かめるために」
「あ、はい」
アリスに促され、森の中を少し歩く。案の定、身体の動きに違和感がある。アリスの話では魔力が体を動かすことになるらしい。
新しい世界での生活が始まった。異世界転生者として、俺はこれからどんな力を手に入れ、どんな物語を紡いでいくのだろうか。胸膨らむ思いで、希望に満ちた一歩を踏み出した。