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見えているか、あの眩耀の空が  作者: ジャミゴンズ
本編 陽はまた昇る
3/21

第三話 ちび

 


 


            U 07


 


 羽田盃を終えて、林田 駿ジョッキーは自らの騎乗を振り返っていた。

 スタートから1000mを越えるまで、馬群の中ほどにつけたワイルドケープリは普段とそう変わらずに落ち着いていたのは間違いない。

 折り合いを欠かないよう、他馬とは前後1馬身程の距離を開けて追走し、800を切った段階で徐々に進出。

 手応えよく前目につけて、さぁスパートだという段階でワイルドケープリは己の意思に反した。

 何がいけなかったのか、好位にはしっかりつけたし、折り合いを欠いたわけでもない。

 殆ど歩くような形で馬群に混ざり、そのまま直線を向いた時にはもうどんな馬でも追いつけないほどの差が開いていて、そこで走るのを完全に止めている。

 中央から地方へ映って5年。 重賞競走は片手で足りるほどの数しか乗鞍が無かった駿にとっては大きなチャンスだった。

 ワイルドケープリは強い。

 前目であろうと、後ろに居ようと自在な脚質で直線向いて他馬を突き放す感覚は長い騎手人生の中でも稀だ。 鞍上の意思を感じ取り反応を返す速度もズバ抜けている。

 少なくとも同世代の有力馬と比べて劣っているということは無いはずで。 林田駿という騎手にとっては地方の重賞、もしかしたら中央でも大きなところを狙えるのでは。

 そう思えるほどの馬だったからだ。



 次走は南関クラシック路線を進むワイルドケープリは東京ダービーとなった。 3歳世代戦でありダート路線での頂点を競う重要なレースで、ダート三冠に指定されていて格式が高い。

 ダート路線の一冠目である羽田盃では不本意な結果に終わったが、次こそは、と林田駿は気合を入れて臨んだ。

 中央に所属していた頃も、地方競馬に籍を置いた今も、G1/jpn1グレードの競争で手綱を取るのはこれで3回目。 片手の指で足りてしまうレベルのレースだ。

 あいにくの雨、そして不良馬場に関わらずワイルドケープリは何時ものように変わらず、非常に落ち着いていた。

 緊張している駿をよそに、まるで何事も無く淡々とレースに備え、ゲートにおさまった。

 一頭だけ飛び出すように綺麗なスタート、駿の感じる手応えも抜群。

 そのまま逃げ態勢に入って足取り軽く、まごつく馬群を尻目に最後のコーナーを抜けて行くところで駿は勝利を確信した。 

 が、後続に5馬身の差をつけて軽快に走っていたワイルドケープリの行き脚は、そこで急激に止まった。

 スタミナが切れて手応えが無くなったという次元ではない、完全にレースから意識をそらし、走るのを止めたというレベルである。

 時間にして5秒も立たない間にゴール前で二頭の馬に抜かれ、結果は3着。


 駿は怒気を治めるのに暫くの時間を要することになった。


 怒りが過ぎ去れば疑問に代わり、疑問の答えは次走のジャパンダートダービーという大一番で2着を取ったことで示された。


 その後、戸塚記念で駿の出した答えは確信に変わる。 

 川崎で行われる重賞であり、ジャパンダートダービーでも走った事のある優駿たちも集う場で終始やる気を見せずに回って、それでも5着。

 


 ワイルドケープリは成績だけで見れば素晴らしいのだ。



 南関東クラシック路線を走り切り、中央からも参戦する、レベルの高い馬たちが集う中で掲示板を逃さずしっかりと入線し結果を残している。

 強敵が多い中でのレースで勝利はない、しかし惨敗もない。

 馬券を握る者たちからすれば複勝馬券や連を買える安定性を評価されることだろう。

 園田競馬の中だけに留まらず、世代ではダート競争能力においてトップクラスなのも間違いない。

 コツコツとグレードの高いレースで入賞賞金を稼いでくれているせいか、馬主の柊氏からは期待され、駿自身も頑張ってくれとちょくちょく声をかけられている。

 しかしワイルドケープリの上に跨る駿にとっては情けなさ、悔しさ、そして存在意義を考えるようになり、苦悩した。

 ワイルドケープリは好き勝手に気ままに走っているだけである。 

 どれだけ意思を伝えようとまるで駿の意思を考慮にいれてくれない。

 やる気さえ、勝つという意思さえ見せればワイルドケープリはダート王者にさえ成れると思っているのにだ。


 実際、乗り続ける中で時折やる気を見せて悠々と一着を取ってくることもある。


 重賞の時にそれをしてくれ、と駿は歯痒い思いに苛まれされた。


 思えば最初は素直に従ってくれていたのだ。

 なのに、レースを重ねるたびにワイルドケープリとの折り合いは傍目では分からないだろうが、非常に悪くなってしまった。

 当の馬は普段の生活の一部を、暮らしの中の一つの出来事として淡々とレースを走っているだけ。

 林田駿という存在は認識されず、歩み寄ろうとしても効果は出ず、悩み抜いて調教師である父に相談をしても謝罪を返されてそれで終わってしまった。

 中央在籍10年強、地方に映ってから5年以上、下手であることを自覚しながら、まがりなりにも騎手として自らの技術を磨いてきた自負があった。


 その経験がワイルドケープリに生かせず、力を引き出せない事。 


 それは林田厩舎が所属している他の馬、そして騎手として様々な所属馬に乗る際にも駿という騎手に影響を及ぼし始めた。

 勝てる競馬を取りこぼし、焦りを産み、焦りがお手馬との喧嘩を誘因し、また勝利が―――そして騎手としての手腕という評判が転げ落ちる。

 乗鞍は減る。 意地すら張れないほど困窮して、結果も比例して悲惨となる。


 ちんけな自信すらも打ち砕かれ、その精神状態は収入にも直結し、40間近となった林田駿は騎手の引退を検討するようになった。


 


 


            U 08


 


 


 冬を越え春の足音が近づいてきたころ、息子でありワイルドケープリの手綱を取る騎手である駿が話し合いの場を持ちたいと声を掛けてきた。

 林田巌は時間を取って、休みの日に駿を招き入れた。

 仕事でも顔を合わせているが、実家で時間を取って息子と過ごすのは久しぶりである。

 駿の嫁、そして5歳になる孫の顔を見て巌は普段崩さない顔を崩していた。

 そしてその夜、高い酒を珍しく開けてリビングで二人きりでお互いに向かい合うと、息子は滔々と語りだした。

 今、騎手を続けている事が辛い、と弱音を吐いたのだ。


「―――そうか」


 その思いに至った経緯を聞いて巌は静かに頷いていた。

 話を聞いていた最中でも、巌が考えていたことはワイルドケープリの事だった。

 林田という親子に取って区切りを告げに来た馬だったのかもしれない、と。


「俺もそろそろ厩舎を閉じようと思っていたんだ。 今預かっている馬たちはみんな高齢だから、丁度いいと。 一番若いワイルドケープリも、もう7歳だしな……」


 駿は驚いたように顔をあげ、巌はウイスキーを口に含むと自嘲するように笑みを浮かべた。

 現状、林田厩舎で預かっている馬たちは全盛期を過ぎた高齢馬ばかりで、全8頭の内、4頭が年内での引退が馬主の意向で決まっている。


 残りはワイルドケープリ除く3頭だがいずれも10歳以上、転厩が決まっている馬も2頭おり、そう遠くない内に厩舎の馬房に馬は居なくなるだろう。


 ワイルドケープリは林田厩舎にとっては恐ろしいほど賢く―――そして間違いなく強い馬だったはずであった。

 調教師にとってはある意味で、手の掛けどころが無かったつまらない馬だったかもしれない。


「ワイルドケープリは頭が良すぎて見切ってしまったんだ。 競馬というものを理解した時、最初の調教の時に見えていたギラついた物が無くなっちまった」


「いや……それは……」


 駿は違うと意見を口にした。 騎手として馬に『レース』を教える事を怠った、いやその実力が無かったからそうなったと。


 巌は首を振って息子の言葉を否定した。

 ワイルドケープリはこの場所に来た時からレースを知っていた。 少なくとも、最初から全力で勝ちに行くことを目的としていた。

 競馬を教えなくても既に理解しており、競馬そのものから興味を失ったのが、巌にとって忘れられない悔恨の 羽田盃 であった。

 巌は最初は分からなかった、どうしてワイルドケープリのスイッチが切れてしまったのかを。

 


「この前な、一人で飲みに行ったんだ。 どうにも後悔が拭えないままで、性に無い事をしようとした」


「珍しいな、親父が一人で飲みにいくなんて」


「若い頃は珍しくもなんともなかったさ。 とにかく、そこで競馬の話をしてる人たちが居て、つい聞き耳を立ててしまったんだよ」

 


―――嫌な事があれば、馬も人間も逃げたくなるさ。 人間は酒で逃げれるから馬よりマシかな?



 競馬で大損をしてしまった者が話していたようで、浴びるように酒を飲んでいたのを覚えている。

 駿は父親の話に、その者の言葉に思わず顔を伏せてしまった。

 逃げたくなる、馬も人もそれは変わらない。


 


「俺も呑んでたから余計に印象に残ってな。 ああ、そうか、逃避してるのか、逃避したいのかとな……意外と俺やお前と同じく、ワイルドケープリも燻ったままスネているのかも知れんなぁ」


「そうかもな……親父」


 

 多分なんてことない、酔っ払いの戯言が頭の中に残り続けてしまったから出てきた戯言の一つだ。

 実際に走ってみて何が嫌になったのかは巌には分からない。

 しかし勝つ、負けるという事に興味を抱かなくなったのは確かで、競走馬として闘争心に繋がるものが失われたのだ。

 何とかしようと対策を凝らし園田でも屈指の馬と併走させたりなど、四苦八苦するも成果は実らず、時間だけが過ぎて行って、ワイルドケープリの全盛期を無駄にしてしまった。


 巌は今だから思う。

 ワイルドケープリは強く賢いことを知った時、大事に扱うべきではなかったのだ。

 地道に身体を作ったり、賞金を積み上げたり、レースでの実績を積むよりも、レースの間隔が広くなろうと最初から厳しい場所で挑戦をさせ続けるべきだった。

 『レース』を知っていたからこそ、その闘志を燃やせる場所を目指さなくてはいけなかったのだと。

 林田厩舎にとって珠玉となりうる馬を殺したと言っても過言ではない。 

 少なくとも巌は酒を呑んでそう考えた。

 ワイルドケープリに関わる話がひと段落つくと、今面倒を見ている管理馬が掃けたら厩舎をたたむ事を巌は改めて告げた。



「ただ、一つだけ困ったことがあってなぁ」



 ほどよく酔いが回ったことで、巌は話すつもりの無かった事をぽつりと零してしまった。

 まだワイルドケープリを受け入れたばかりの頃、とある筋から競走馬の受け入れの約束をしてしまった案件があったのだ。

 その馬はワイルドケープリと同じく育成そのものが順調すぎて、年明けから林田厩舎にという話が先ごろに来てしまっていた。

 受け入れの約束そのものは2~3年前に交わしたもので、巌はすっかりその事を忘れてしまっていたのだ。

 困った事に付き合いの長い組合馬主の所有馬であり、更に当馬はクラウドファンディングなどで公募して競走馬になった背景があった為、問題が大きくなりかねない。

 トラブルとは付き合いたくない為、悩みに悩んでいる直近の話を聞いて駿は肩を竦めてしまった。



「どうしても辞めるってなら断るしかないんじゃないか? じゃなきゃその子を最後にしてあげるしかないだろ」


「そうさなぁ、やっぱそうか」


「他の厩舎に頼んでみた?」


「いや、流石に急すぎるからそれはな……このタイミングだと他に預ける先にも迷惑がかかるし……」


「じゃあしょうがないよ。 それにしても、ルドルフとテイオーの血がまだ繋がってるんだな……よくもまぁ、今時こんな馬を走らせるもんだ」


「ロマンを求めるのは馬主の役割さ。 俺達はそいつを走らせてやるのが仕事だろう」


「分かってるよ。 まぁ……それなら俺も親父に最後まで付き合うか。 嫁にもそれは言っとくよ」


「はは、悪いな、出来の悪い親父が最後まで振り回しちまってよ」


 


 林田厩舎はそれから冬まで、淡々と流れゆき予定通り高齢馬が引退して、空いた馬房に林田厩舎最後の一頭となる栗毛で体躯の小さな若駒を迎え入れたのである。


 


 


            U 09


 


 


 珍しく水ではなくユキが降っている。

 俺はバボウの中から空を見上げて、チラチラと降ってくる物に思いを馳せていた。

 レースと呼ばれている物を何度となく経験し、その全てがニンゲンの都合で作られていることを理解した俺は色の無い世界に長く留まっている。

 俺にとって何の意味もない場所だった。 それは俺がウマだから当然の事だった。

 それでもブッチャーが言っていた命を揺らす場所だと信じていたから、この場所に来た。

 分かった事は何処まで行ってもウマはニンゲンの道具だということで、命を揺らすというのがどういう意味なのかは結局、理解することすら出来なかった。

 だから、此処は俺が求めている場所ではないことが分かった時、俺はガムシャラに走ることを止めることにした。


 もし走らせようとするウマが走らなくなったらニンゲンはどうする? 


 何時の間にか一緒の場所に居たハヤシダキューシャのウマの奴らがバウンシャに乗せられて消えて行くことがある。

 戻ってくることもあれば、そのまま居なくなってしまうこともある。

 戻ってきた奴は別のレースを走らされてきた奴だろう。 戻ってこなかった奴はボクジョウに戻ったか、それともニンゲンの都合で何かに利用されたか、あまり考えたくはないが命がなくなったか。

 レースで怪我をして、歩けなくなったウマを見たことがある。


 そいつはもう見ることが無くなった。 何度か一緒に走った奴なんだが、二度と見る事は無かった。 もしかしたらそう言う事なのかもしれない。


 走る意味を求めているのはニンゲンだ、カネの話が良く出るから、カネにこだわるニンゲンも多い。

 カネはニンゲンにとって大事な物だ。 だからカネが無くなったらニンゲンはウマをどうするか、ネガティブな推測が立つ。

 ウマにカネが関わっていることは、もう十分に聞いてきたからだ。

 だから時折ニンゲンには付き合ってやる。

 どこまで言っても俺はウマでしかない、『分かっているから』 ほどほどにニンゲンに意味を与えている。

 消える奴が少なくなるかも知れないと、レースではゴール前を他のウマになるべく譲ってやった。

 レースの結果がニンゲンにとって大事なら、1着を取るウマは大事にされるだろうからだ。


 この考えは俺の勝手な推測だが、そう間違っている訳でも無いだろう。


 だが、それで何が変わる訳でも無く、俺の次のレースは平然とまたやってくる。

 バウンシャに揺られたり、何処かのグルグルで、ちょびっとだけ地形が変わったり、小さいグルグルだったりする特に代わり映えの無いコースを回り、バボウに戻ってくる。

 顔も知らない奴か、それとも知っている奴か、それすらも分からないでぐるぐると走る。

 何も変わらない、何も意味がない。

 ただ生きてること、適度に走ることが命を揺らすことなのか?

 それだけで良いなら、俺はあの空に居る眩しい奴に生まれ変わりたい。

 俺はこの彩の無い世界が嫌いだ。 

 バボウの中でぐるりぐるりと回り、時折外を覗いてユキがちらつく様子を見上げる。


 何時までこんな場所に居なければいけないのだろう、と思うと同時に此処にしか居場所がない事を俺は知っていた。


 変わり映えの無い世界は無限に続いている。


 糞ったれた狭い世界の中、俺は沈んだ気持ちを誤魔化すように嘶いた。


 


 ある時、隣に居たくたびれたウマが何時の間にか消え、代わりに小さな若々しいチビが入ってきた。

 くたびれたウマは脚があまりよく無さそうだったから、恐らくニンゲンたちによって何か別の役割を与えられたのか、それとも消えたのか、消されたのか。

 入れ替わる様にニンゲンたちがチビを連れてきて、色々と言っていたが要約するとニンゲンもウマも嫌いな奴らしい。

 基本的にウマはイクセイボクジョウという場所でニンゲンに従うように躾けられることを俺は経験から知っているから、ニンゲンから 『ニンゲンを嫌う』 と改めて口に出されるチビに興味が湧いた。


 バボウから首を出して隣を覗き見る。


 隣のバボウからガンガンと何かに当たっている音がする。 ハヤシダキューシャに来て馴れていないのか、それとも感情が昂っているのか。

 しばらく放っておいたが、あまりにしつこく音を出すものだから思わず声をあげて注意してしまった。


 


―――おい、うるせぇぞ


 


 ウマに意思を伝える時、殆どのウマは俺の言葉を理解をしてくれない。

 もしくは、理解していても従う必要がないと判断される。 だがそのチビは俺の声を聴いて音を鳴らすのを止めた。

 静かになったか、とため息ひとつ。 今度はチビの方からバボウの外に顔を出して俺の方を覗き込んできた。

 そいつは目から何かを流していた。

 なんだこいつ、怪我でもしたのか? とも思ったが、どうせこの場所じゃ知らない間にウマは出たり入ったりしている。

 特に気にせず俺はとりあえず、あまり騒がしくしないで静かにしていろと優しく教えてやった。


 珍しくウマに話すことをしてから満足してチビから目をそらすと、その方向からニンゲンが寄ってきて、俺とチビを見比べて騒ぎ始めた。

 どんどんニンゲンが寄ってきて、見知った顔のイワオとシュンも集まって、泣かしたとか意味の分からん事を言ってきた。

 最初から泣いてたんだが、俺が悪いのか?

 そして俺に対して多くのニンゲンがわーわーと騒ぐ。 こうなるともう誰が何を話しているのか分からない事を学んでいた俺はすぐさまバボウの奥に引っ込んで空を見上げる事にした。


 ニンゲンは小さなことでもすぐ騒ぐ。 こういう喧しい時の奴らは俺も嫌いだ。


 今日はクモに覆われた空で、眩しい奴は居ない。 こういう時は結構な確率でアメが降ってくる。 

 晴れてタイヨウの光をただただ浴びるのも好きだが、トントンと建物を叩く水の音をただただ聞いているのも割と好きだ。

 俺はアメが降ってくることを期待しながら、ニンゲンに対して暴れ始めたチビを尻目に、周囲の喧噪から目をそらして空を見上げ続けた。


 


 


 バボウで過ごす以外はチョウキョウババと呼ばれる、レースを走る為の練習場に出される。

 走る場所や相手、その他もろもろ条件を変えて色々なコースが用意されているが、主に使うのはトラックと呼ばれる、ぐるぐる回れる場所だ。

 ここにはハヤシダキューシャの奴も、それ以外に所属してるウマも時間をずらしてニンゲン達に連れてこられる。

 中には逃げ出すウマも居るが、気分が乗らない時は本当に面倒だからな、気持ちはわかるし俺も何度もやっている。

 今日は俺のバボウの隣に入ったチビも一緒にこの調教を受けるようだ。

 まぁ初日から大騒ぎしていたニンゲンの事だ、何かしら思惑がある事くらいは透けて見える。


 準備を始めたニンゲン達を尻目に、俺はチビに近寄った。


 コイツはイクセイボクジョウからこの場所に来たばかりだ、少しばかり緊張をほぐしてやろうと親切心から身体を寄せると、チビは唸った。

 ウマ嫌いとも言っていたがなるほど、慣れていないこの場所に、それなりに他のウマと比べてもデカイ俺へ物怖じせず突っかかってくるとは大した根性だ。

 その余裕の無い姿に思わず笑う。 チビは馬鹿にされたと思ったのか、ますます敵意をむき出しにした。

 まぁ俺の方がどう見ても年上だ、ここは少しばかり引いてやって優しくしてやろう。

 なんかもう、ハヤシダキューシャには俺とチビしかおらんしな。

 警戒されすぎないように距離を話して、俺はハヤシダキューシャの日々についてチビへと向けて話してやることにした。


 ほんの気紛れにすぎない、無視しても良かった。 

 そもそも、俺の言葉が通じないウマだろう、意味がない事なのかもしれない。 

 日々の事、調教の目的、レースの事、そしてニンゲン、ウマのこと、そして―――自分の事を。

 それはため込んでいた自分のストレスの掃け口でもあったのを言葉の裏で実感する。 言葉を交わすということが殆ど成立しない相手に対して、気ままに愚痴を零していたのだろう。

 そう言う意味で俺はこのチビを意外に気に入っていた事に気が付いた。


 一頻り喋り終え、調教を始めようとニンゲン達が近づいたころにチビは声を出した。


 


―――格好の悪い奴だ


 


 俺はニンゲンに近づこうとしていた脚を止めて振り返った。

 空耳か、それとも幻聴か。

 そう思い込もうとした矢先に、目の前に居たチビからまた声が聞こえる。


 


―――逃げてるだけの年だけ取った情けない奴


 


 侮辱に等しい言葉に怒りを覚えるよりも、俺は驚きの方が勝った。 コイツ、俺の話を理解して俺と意思を交換できるウマだ。

 ニンゲンが俺に乗ろうとするが、そんなものは無視だ。 それよりもチビが話を出来ることが重要だった。

 おい、お前は分かったのか、俺の言っていることが。

 返ってきた返答は、俺の根幹にある―――この場所に俺が居る理由を罵倒するものだった。


 


―――どうせ、話に出てきたブッチャーってのも大したことない奴だ


 


 気付けば俺は激昂した。

 ニンゲンの静止を振り切り、チビへと食ってかかって、そこで初めて"キレた事"に気付いた。

 大騒ぎになってその日の調教はロクに走らずに終わった。 もちろん、俺も、チビも。

 俺はブッチャーに対して大きな感情を持っていたことをその日、初めて自覚した。

 大した繋がりなんて無かったはずなのに、血を受け継いだ親のことよりも気にかけていたようだ。

 最初から、きっと、ずっと、ブッチャーの面影を追いかけていたんだろう。

 チビは隣のバボウから、時折言葉を漏らしている。

 チョウキョウできない、違う、とか何で、とか、理解の及ばないことばかりを口にする。 聞いているだけでも鬱陶しい。

 俺は何度かバボウを蹴り上げ、延々ぶつぶつと煩いチビの言葉を止める羽目になったし、ニンゲンに怒られる事にもなった。 クソが。


 


 翌日、俺はまたチビと共にチョウキョウババに連れてこられた。


 幾分か冷静になった夜、思考に耽った朝を経て、俺はチビがますます気になっていった。


 漏らしている言葉を聞いて、今までの情報を整理し、そして最終的にコイツは何でそんなやる気になってるんだ?という疑問が立ったからだ。

 今すぐにも疑問を解消したい誘惑を振り切り、俺はチビの走りに注目した。

 ニンゲンにとって、そしてウマにとって早い遅いは、そこそこ意味がある。 レースはまた色々と条件が変わるから別としても、本質的に速い方が好ましい。

 俺は自分の調教が始まってもチビへと視線をチラチラと送り、そしてようやくチビの調教が始まって。


 


      俺は、途轍もない衝撃を受けた。


 


 なんだアイツは、呪詛のようにバボウでイキッていたのに、今まで見たウマの中で最高に遅い。

 そもそも身体が小さすぎてパワーが足りない。 ニンゲンを乗せた時の走り方に無駄が多すぎる。 脚の使い方が下手だ。

 不細工によろけながらコーナーを回り、落ち着きなく直線に入る―――前にテマエを代え忘れてるのか逸走しかける。

 ニンゲンが落ちそうなほどヨレるし、真っすぐ走らずシャコウしていく。

 必死さは傍から見ていてもハッキリと分かる。 誰がどう見てもチビは己の限界を越えようと全力だった。


 ああ……なんて。


 なんて走るのが下手な野郎なんだ! 


 見ているこっちが怒りを覚えるくらいに不器用だ!


 俺は夜中から朝にかけて疑問を晴らすよりも先に、チョウキョウを終えてバボウに戻った時にチビへとその事を口うるさく指摘してやった。

 ちびが反論してくるがそんなものは一刀両断だ。 論ずる前の問題なのである。

 こんな遅いチビが俺やブッチャーを馬鹿にするなんて、やっぱり腹が立つが、それよりもウマとして遅すぎる走りにもっと腹が立った。

 チビはまたバボウの中でうじうじと声を上げ、音を鳴らすようになった。

 なんならぐずぐず泣いている。


 コイツ、もしかして悔しいのか。


 それとも苦しいのか。


 チョウキョウを受ければレースを走ることになる事をコイツは分かっている。 俺も教えたし、最初からそんな事は分かっているような態度だった。

 次の日も、その次の日も、俺はチビと一緒に調教を受ける日々が続いた。

 遅すぎるチビを尻目に、俺はとにかく苛立ちを募らせた。

 せっかく教えてやった事をすぐに忘れて、不格好に走ってしまう。 少しだけマシになったと思ったら、次の日にはまたすぐに戻ってしまう。

 ニンゲンが乗っている事を頭に入れて、俺達がバランスを取らなきゃいけない所があるのに、そのニンゲンを無視するから余計に遅くなる。

 そうした走り方をしないと速く走れない。 逆にニンゲンを乗せて速く走るコツは覚えてしまえば簡単なのだ。 少なくとも現状アイツは酷い。


 走法一つとっても無限に文句が湧き出てくる。


 


 酷い走りだ。 本当に、どうしようもなくそう思う。


 


 だから――――周囲の目と声が一層俺には鬱陶しい。


 


 チビはどこまで言っても本気だ。 どれだけ上手く出来なくても必死に前脚を地面に叩きつけている。

 疲労困憊であっても続けるから、無駄だ、止めろと俺が声を掛けても、どれだけ他のウマから、そして調教をつけているニンゲン達からも馬鹿にされた雰囲気を出されても、決して脚を止めることはなかった。

 ムカつくチビだ。

 だってそうだろう。

 スピードもパワーもスタミナも無い。

 だけどコイツは他の誰よりも本気で駆けている。

 速くなろうと、力を得ようと足掻いて、レースに勝つ為に全力だ。

 自分の限界を乗り越える為に、何時かくるレースの為に、走る事に意味が無いと教えても、格好悪い俺とは違うと言って。

 もどかしさ、そして不快な感情を吐き出すように、調教中に俺はチビの方へと勝手に進路を変えて、チビに併せた。

 そして馬鹿でアホでクソ遅いチビに、俺は全力でかっ飛ばしてチビを突き放して置き去りにしてやった。


 俺の上にまたがっていたニンゲンは落ちた。 その日はコズミってのが出るくらい本気でかっ飛ばしたからニンゲンにも怒られた。 そしてチビはその後また隣で喧しく泣いていた。


 くそがよ、ニンゲンもウマも、どいつもこいつも、あほったれめ、なんてイラつく野郎共だ。


 


 空気が澄んで星が煌めく空をバボウの中で眺めた。

 隣じゃまた音を鳴らして、顔からジワリと水を流す馬鹿が居る。

 俺がちびを超余裕でぶっちぎってやったのが余程応えたのか、たまに鼻を鳴らすだけで妙な呪詛を吐いたりはしなくなった。

 幾分、俺の言う事も素直に聞き入れるようにもなった気がする。

 ツキとかいう暗い光を見上げ、俺はチビのことだけを考えていた。

 一晩中、気が付けばいつもの眩しいアイツが空に浮かびはじめ、薄暗い俺のバボウを照らし始めた。


 カイバを食うことすら忘れていた。


 チビと調教を受け続け、どうしようもない苛立ちに放り込まれて。


 


 どいつもこいつも腑抜けてやがるんだ。 俺を含めてそうだった。

 だからムカついたぜ、知らなきゃ良いのにそういうのに気付いちまう、俺はムカつくんだぜ、なぁチビ。

 お前は本当にバカだ。今まで出会ったウマの中でも一等バカだ。ムキになって食らいつく姿が無様なんだよ。

 その癖、口だけ一丁前なのが余計に腹が立つ。

 チビ、お前の事をみんなそう思ってるぜ、お前の周りにいるニンゲンもハヤシダキューシャの連中も他の奴らもな。

 口にはしなくたって、雰囲気や仕草でそういうのが分かるんだ俺はよ。

 周りに合わせてやりゃ良い話だったんだ、地道に速くなりゃ良かったじゃねぇか。


 でもよ、ああ―――超ムカつくぜ、必死な奴をバカにしてるのはよ。


 俺達ウマもニンゲンも、本当に気に入らねぇ。

 決めたぜ、ちくしょう、クソチビめ。 俺を本気にさせやがって、だから嫌だったんだ、バカが隣に居るのは。

 何の話か分からねぇって顔だな。 まぁお前はバカで遅いカスみたいなウマだからな、別に気にしなくていい。

 何処に行くかって? テメエはチョウキョウでも受けて少しでも速くなってろよ、また俺にぶっちぎられたいのか?


 


 逃げるのは止めてやるよ。



 テメェがその気にさせたんだ。


 


 


ブッチャー、あんたの言葉の意味を、今更だが……遅くはねぇよな


 


 決意の朝に、覚悟を決めた。


 


「……お、おい、ワイルドケープリ、お前」


 


 姫路へと輸送前。

 最後の確認に顔を出した林田巌は驚愕に目を剥いた。

 バボウの中で佇む姿は、陽に照らされて何時もの様に太陽に向かって首を伸ばし、時に前脚を掻いた。

 初めて顔を合わせた時に見せていたギラギラした目をしていた。 身体に発汗すら見られて、普段とはまったく違う落ち着きの無さを見せていた。


 思わず息を呑み、無意識に震えた手で口元を覆い隠す。

 様子が変わったような気はしていた。 

 隣の馬房に最後の一頭―――ラストファイン号を受け入れてからは調教の様子・普段の生活まで、今までと何か違う事に気付いてはいた。

 間違いなく隣の子に影響を受けたのだろう。

 それも劇的に、素晴らしく良い方向に。


 ワイルドケープリのスイッチが再び入ったと巌はすぐに分かった。


 その後の行動は速かった。 強く残した後悔を払拭する最後のチャンスを馬がくれたのだ。 

 愚者となるのは一度で十分だった。

 巌は息子の駿に連絡を取ると、馬主の柊氏に直接会いに行き、それまで計画していたローテーションの変更を申し出た。


 


 


            U 10


 


 


 一言で言えば何処にでも居そうな、特に特徴のない鹿毛の牡馬。


 額の天辺に僅か垣間見える白い流星も長く伸びた鬣に隠れて目立たず、ソックスも履いていない、イラストで見かけるような一色の馬だ。


 馬格は大きいが毛艶は光を浴びてもあまり良く見えず、お世辞にも見た目が良いと言えない。 


 どちらかと言われれば映えない方だろう。

 誰も知らないだろうが、ワイルドケープリの瞳の虹彩は他の馬と変わらないものの、その視力は人を超えていた。

 幼駒の頃にはセントサイモンの逸話を思い出させる猫殺しに、暴走事件。

 馬とは思えない賢さこそがワイルドケープリを愚かな馬に見せていた。

 荒々しさすら納得できるほどの雄々しい長い鬣は馬体を揺らすほど映え、躍動している時の方が馬の力強さを感じさせた。


 地方にて競走馬として登録され、能力試験の頃には幼駒の頃の気性の荒さが嘘のように成りを潜め、淡々と続く競走馬生活に劇的の無いレースと取り巻く人たちの感情を眺める日々。


 それは灰色の景色の中に現れる、血にロマンを詰め込んだ馬鹿なチビが来るまでだった。   


 小さなそいつは紛れもない愚直な馬鹿だったが、賢くて愚かな馬をやる気にさせるのは特段に上手かった。


 


 


ワイルドケープリ 7歳 牡馬。 初の重賞勝利に向けて久々の挑戦か。 ダイオライト記念 7番人気


 


 


 どうなんだい。 詰まらなそうな顔してシンブンに顔を落として。

 そこのあんたは? 隣のニンゲンと話だけして、特に何も考えて無さそうじゃないか。

 ここはパドックっていうところだろう? ニンゲンがウマを見る場所だってのに、熱心に見ている奴なんてそう多くねぇ。

 まぁ、いつものグルグルするところよりかは、多少見ている奴が多いか?

 どいつもこいつも、俺たちの走りを見ているわけじゃねぇからな。 殆どのニンゲンは結果とカネの方を大事にしている。

 このぐるぐるを開催しているソシキって奴そのものが、カネを賭けさせて居るみたいだから、仕方ねぇかもな。

 俺達もそれはうすうす気づいているんだぜ。 それはウマの俺達には何か特別な意味があるわけじゃないことも。

 一等取りゃせいぜいカイバが豪華になったかなってくらいだ。


 笑わせるぜ、ニンゲンを喜ばせたり怒らせたりする為に走ってるなんてな。

 だから今までは適当に走っていた。 ニンゲンがほどほどに満足してニンゲンが想定する『ウマとして生きるというタスク』をこなしてきた。

 ウマたちはぐるぐると、ニンゲンに連れられて今日もまわっている。

 外に居る奴らに時折声を投げられたり、近くにいるニンゲンに触られたりしながら。

 どいつもこいつも、今日走る。 ぼんやりと見えない何かを理解したりしなかったりしながら、他のウマと一緒に走る。

 今まで一緒に走ってきたやつも居るし、見てない奴もいる。

 まったく、俺も結局こいつらと一緒で、チビのほうがよっぽどキチガイ染みたおかしな野郎に見える。 

 だがまぁ、そりゃあそうだろう。

 ここは適当に決められたルールの中、狭い世界で一等二等を競ってるだけの変な場所なんだ。


 でも、そこに命を懸けようとしている馬鹿が来ようとしてんだ。 


 小さい身体を揺らそうと藻搔いている。


 空の飛輪を見上げる。


 


 憎たらしいほど眩しい空のアイツは、今日も輝いていてニンゲンもウマも、この世界も照らしている。


 アンタは常に燃えてんな。 もしかして命を燃やして命を与えているのかい。


 


―――近づいてくる、いつもの背に乗るニンゲン、シュンがすぐに乗ってこなかった。


 じっと俺を見つめていた。


 今までにない行動に、俺は一つ鼻息を吐く。


 シュンに向かって俺は今、命を揺らそうとしてるぜと一声掛ける。


 


 


         やり方は、分からないけどな


 


 


「船橋競馬、メインレースです。 第11競走……農林水産大臣賞典、指定交流第××回となりました、ダイオライト記念G2です。


 2400mとダート競争としては最長の重賞レースとなります。


 出走馬は15頭、JRAからは4頭、地方他地区からも4頭迎えております。


 各馬ゲートに収まろうかと言うところです。 馬場状態は先日雨の影響か……稍重となっております。 これが影響するのかどうか。


 気になる一番人気はネイヨングレートです。 二番人気はパラソルサン……どちらも中央所属。 三番人気はウッチャリイッポン、四番人気にネコグンダン、五番人気が姫路から参戦したパカパカとなっています。


 さぁ、全15頭……まもなく枠入り完了しまして……さぁ……ダイオライト記念GⅡ、ただいまスタートしました!


 バラバラっとしたスタートです、一番人気14番ネイヨングレート躓いたか、同じく出遅れた2番ワイルドケープリ、ゲートにぶつかった様にも見えました、共に最後方からのスタート。 


 好スタートは10番パラソルサン出足よく前に立ちそうです。


 そのパラソルサンに並びかけるのか、内に2頭1番のティアマトリックス、おっと5番のアスカロードがパラソルサンと並びました。 鞍上の高遠学は前を譲らない作戦でしょうか。


 3頭ならんだ先行争いですが、その後ろ4番手に6番ミッドナイトエラー、外に13番ニアウィルクライ、ほとんど並んで4番ネコグンダン8番のネイヨンヒットマンがここ。 一馬身空いて7番タイラントショー、内に3番カッセイオー、その後ろに11番ウッチャリイッポンが続きます。


 後方は馬群詰まりまして9番パカパカ、外12番ポットホール、その外から15番ワロスボンバー、最後方二頭ワイルドケープリとネイヨングレートとなりました。


 縦長になってスタンド前に入ります。 パラソルサン先頭でペースを作っています。 アスカロード・ティアマトリックス少し下げたか。 先頭、最後方とはおおよそ15馬身ほどでしょうか、やや縦長の展開です。


 さぁ、パラソルサンがハナを譲らず、2馬身程リードを取って2番手以下はぐぅーっと馬群が固まり始めたぞ。


 1番ティアマトリックス、ミッドナイトエラー、外から上がってきたタイラントショー、内々つけてるのはアスカロード、後ろにニアウィルクライ、カッセイオーと並んでネイヨンヒットマン。


 ウッチャリイッポンも上がっていきたそうだ、カッセイオーの外から上がってアスカロードを交わしていくのか。 


 後ろにポットホールですが、それを交わしてネイヨングレート。


 馬群はここまでです、その4馬身後ろに2番ワイルドケープリ追走しています。


 更に5馬身ほど空いて最後方ワロスボンバー、これはやや離された。


 向こう正面に出て行きますが、前12頭殆ど差がない塊になりつつある。 


 馬群を引っ張る形になったパラソルサン、ペースはどうか、少し遅そうだ、これは前残りになるかもしれません。


 2番手めまぐるしく変わって各馬慌ただしくなってきたぞ、ニアウィルクライすっと上がって6番ミッドナイトエラー、ネコグンダンがこれを交わす、いやタイラントショー下がっていってカッセイオー、ここで並んだのがパカパカとネイヨンヒットマン。


 ネイヨングレートそれを追う、鞍上三島ウッチャリイッポンを押している。 12番ポットホールも後退してそれを交わしたワイルドケープリがここ。 最後方ワロスボンバーは完全に遅れています。


 3角入ってパラソルサンがまだ先頭。


 前目ニアウィルクライ、ミッドナイトエラーとネコグンダンがそれを追っている。アスカロードずるずる下がって4番手に8番ネイヨンヒットマン、隣14番ネイヨングレートとネイヨン軍団固まって追い越すぞ。


 すぐ後ろには9番パカパカ。


 4コーナ流れて前は6.7頭、固まって直線入る。 その後ろは離された、前が残りそうだが大混戦! 大混戦だ、7頭並んでいる!


 まだ先頭パラソルサン、ネコグンダン捉えられるか、外ミッドナイトエラー、ネイヨングレート、ウッチャリイッポン外々からパカパカが鋭く上がって残り300!


 横並んだ、完全に並んで誰が突き抜ける、どこが突き抜けるのか! 内パラソルサン差し返している!


 パラソルサン差し返しているが5頭並んでいる、大外からパカパカが追いつけるか。


 パカパカが並びかけて、あ、その外、一番外から凄い脚だ! 2番のワイルドケープリか、ワイルドケープリが最後方から飛んで来た!


 ネコグンダン、パラソルサン一杯になったか、直線突き抜けたのはウッチャリイッポンとパカパカだ! しかしこれは前に届くのか、ネイヨングレートを交わしてちぎったワイルドケープリ!


 残り100を切った! 


 ウッチャリイッポンがパカパカより体半分突き抜けたがワイルドケープリ大外から差し切れるか! 届いたか! 突き出たか! ワイルドケープリだ!


 完全に突き抜けたワイルドケープリ、最後は1馬身差つけて今ゴール! ワイルドケープリだ!


 最後方から前での熾烈な争いを嘲笑うかのように豪快に差し切って文句なし! 7歳にして嬉しい重賞初制覇となりました!


 ダイオライト記念を制したのは日の出を冠するこの馬です、鞍上林田ちいさく腕を振ってガッツポーズ。 凄まじい豪脚一閃、ワイルドケープリです――――――」


 


 


 船橋 ダイオライト記念 ダ2400 稍重 全15頭 勝ち時計2:32.2


 


1着 1枠2番  ワイルドケープリ 牡7 林田駿 人気7 厩舎(園田・林田巌)  531kg


2着 6枠11番 ウッチャリイッポン 牡5 内藤隆 人気3 厩舎(船橋・御堂寛)  483kg 2馬身半


3着 5枠9番  パカパカ       牡7 宍道健二 人気5 厩舎(姫路・安藤次嗣) 477kg 半馬身


4着 7枠14番  ネイヨングレート  牡5 伊藤浩 人気1 厩舎(東京・志島立児) 503kg ハナ


5着 5枠10番  パラソルサン  牝4 武藤孝弘 人気2 厩舎(東京・吉岡健洋) 449kg ハナ


 


 

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