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見えているか、あの眩耀の空が  作者: ジャミゴンズ
本編 陽はまた昇る
12/21

第十二話 旭日昇天




      天 皇 賞 (秋) 



72: 2036/10/19 10:59:28 ID:2JlMJjgk1

出走表出たぞ


 1枠1番  クアザール

 1枠2番  フィルターフェイク

 2枠3番  ストップザデイ

 2枠4番  ディアクラシックス

 3枠5番  デイビショップ

 3枠6番  クェイサーキッス

 4枠7番  リーンナウ

 4枠8番  オーワッチャー

 5枠9番  トリフォッリオ

 5枠10番 ブックシェルフ

 6枠11番 アウターオブマシン

 6枠12番 リアルアーモンド

 7枠13番 ネイヨンゲオルグ

 7枠14番 マックスハイ

 8枠15番 ナゾパルプンテ

 8枠16番 ワイルドケープリ


75: 2036/10/19 11:00:03 ID:V4eQ9tQXP

ワイルドケープリ大外か

 

82: 2036/10/19 11:00:42 ID:2QkZwhW+F

何かと話題のワイルドケープリも流石にこれは無理だろ

 

88: 2036/10/19 11:01:06 ID:2h3oebP1I

てかクアザール内枠

 

94: 2036/10/19 11:01:35 ID:EFntPMyK2

クアザール勝ち、解散

 

96: 2036/10/19 11:02:18 ID:dPoTEWHa

大阪杯負けてるクアザール距離2000に弱い説あるんじゃないか? 陣営も大阪杯なんで負けたのか分からないって言ってるし

 

97: 2036/10/19 11:02:58 ID:dlF78Xv8I

謎の馬さえいなけりゃクアザールは勝つ

 

102: 2036/10/19 11:03:39 ID:neesW+z5o

謎の馬云々はオカルトすぎて同意できませんわ、実力で言えば飛びぬけてるのは明白だし

 

105: 2036/10/19 11:04:08 ID:42PImJjS2

コントレイル以来の三冠馬。 ここで天皇賞(秋)勝ったらマジもんのガチでクアザールが歴代最強馬、大阪杯は何かの間違いだった

 

106: 2036/10/19 11:04:30 ID:nJvZfgQb

対抗はデイビショップ、トリフォッリオ、アウターオブマシン、リーンナウあたりかな

 

108: 2036/10/19 11:04:56 ID:uk1sbXpIr

デイビショップもトリフォッリオも前哨戦のオールカマーでワイルドケープリに負けてるんだよなぁ

 

115: 2036/10/19 11:05:35 ID:dtRdr6BDq

ナゾパルプンテが隣だったらクアザール負けてただろうから、良かったわ

 

120: 2036/10/19 11:06:11 ID:l7/OmO8dt

オールカマーなんてただの叩きだし、あんなもんだ。 むしろワイルドケープリがフロックだよ

 

125: 2036/10/19 11:06:42 ID:xDDX67BPT

デイビショップこそフロック視するべき、ワイルドケープリに負けてるんだから

 

131: 2036/10/19 11:07:06 ID:l7/OmO8dt

>>125

逆だよ、あんた見る目ねぇから競馬やめろ

 

132: 2036/10/19 11:07:38 ID:xDDX67BPT

は? 殺すぞ

 

136: 2036/10/19 11:08:11 ID:5Y2ODQzjK

他所でやれ

 

142: 2036/10/19 11:08:43 ID:Y1SmTUETk

クアザールに勝てる訳ねぇだろ

 

143: 2036/10/19 11:09:14 ID:mgmwXeDR

デイビショップの大阪杯もなぁ、なんか展開が向いただけって感じだし

 

147: 2036/10/19 11:09:39 ID:pNAet0qLq

まぁ流石にクアザール勝つわ

 

152: 2036/10/19 11:10:20 ID:4StLClzEW

ワイルドケープリとかいう謎の馬が気になる ナゾパルプンテの隣なのが余計に気になる

 

156: 2036/10/19 11:10:43 ID:KEKS2h8Ot

園田のクソ雑魚ダート馬が三冠馬様に勝てるわけねぇだろ

 

158: 2036/10/19 11:11:17 ID:HM1/YsSDU

クソ雑魚ダート馬(南部杯勝利)

 

161: 2036/10/19 11:11:40 ID:vLE4gB2Fo

その物言いはオールカマー獲ってるワイルドケープリに失礼すぎんだろww

 

163: 2036/10/19 11:12:19 ID:o8i2bjpUF

ワイルドケープリがこれに勝ったら大事やで、陣営めっちゃ強気やん。 アグネスデジタルの再来かもしれんぞ

 

166: 2036/10/19 11:13:00 ID:kDf45DJp+

ないない

 

172: 2036/10/19 11:13:25 ID:5PEMuvwPW

今時代こんなクソローテで勝てるわけねぇだろ

 

175: 2036/10/19 11:14:04 ID:kbgzmfNoZ

オールカマーを下手に勝っちまったせいで天皇賞出る事になったダート馬かわいそう

 

176: 2036/10/19 11:14:44 ID:Otur2PtY3

馬主が悪い

 

177: 2036/10/19 11:15:17 ID:5TFysTTAv

ダークネスブライトとネビュラスターに襲い掛かるワイルドケープリの末脚えぐくて気持ち悪かったぞ

 

179: 2036/10/19 11:16:01 ID:6/RIDbSH2

クアザール居なかったら面白い存在だったろうけど、ローテーション考えても流石に無理やなぁ

 

181: 2036/10/19 11:16:33 ID:0usIBLVLd

なんで最強ローテを選んじまったんだ陣営は

 

187: 2036/10/19 11:16:57 ID:ti92hjq4Y

でも今のところ勝ってるから

 

189: 2036/10/19 11:17:20 ID:CsrLLDjOH

まぁ、クアザールがどんな勝ち方するのかを見るだけのレースになりそうだな

 

195: 2036/10/19 11:17:58 ID:r5SCnzYhJ

馬券固すぎてつまんね

 


………

……

 マイルチャンピオンシップ南部杯を終えて、勝利後の雑事に追われて幾日。 巌調教師は次の天皇賞(秋)に備えてワイルドケープリの輸送の準備を始めていた。

その顔色は優れているとは言えなかった。

自らの管理馬が、中央GⅡ競争と地方GⅠ競争を勝利した。 林田厩舎にとっては開業以来、立て続けに大きな栄冠を手にして、まさに意気衝天と言っても良い結果を掴み取れている。

馬を見る目に自信はある方だ。 伊達に続けていない40年間の蓄積、人生を捧げて関わってきた馬とその数。 そして実際に馬を走らせてきた経験に、林田 巌は自負がある。

重賞の栄誉を勝ち取った管理馬が少ないのはそうだし世間的に見れば無名である事も承知している。 調教師として大事なオーナーからの馬を預かるのは伝手や人脈によるものが殆どであった。

そんな自分が、天皇賞(秋)という格式高い中央GⅠ競争に、管理馬としてワイルドケープリを送ることが出来る。

駿に、散々口酸っぱくしながらその栄誉がどれほどの物かを子供の頃から語り続けてきた。

当然、ホースマンの一人として夢が叶ったと言っても良いだろう。

出走だけるだけでその誉は筆舌に尽くしがたいものがある。

柊オーナーが声を震わせて天皇賞に出たいと言うのも、共感こそすれ無謀と言って出ないなんて勿体ない事はしたくない。

日本ダービーやクラシックとは言わない。 中央の芝競争ですら贅沢だ。

そう考えていたからこそ、巌は思う。

素直な感情を吐露してしまえば、ワイルドケープリがマイルチャンピオンシップ南部杯を制したことに我を忘れて飛びあがりたいくらいに喜びたかった。


だが、その当の南部杯でレースを走った直後の光景が忘れられない。 駿が下馬をしたあの瞬間の、自らの魂ごと削ぎ落されるような感覚に胸が痛くなる。

いや、大丈夫なはずだ。 ワイルドケープリの心身は、今まさに絶頂を迎えている。

放牧出て戻ってからは馬っぷりが素晴らしいじゃないか。

時折入れ込むような様子を見せるが、気勢はまったく落ちずにフィジカル面に恐れる異常は全く無いのだ。

それは実際に馬の具合を見ても、データで見ても完全なる快調具合を示している。

南部杯では完全に仕上がったと思った。

厩舎を立ち上げてから今まで、あんなに強気にレースに向けて発言を繰り返していたのは自らの叱咤だけではなく、ワイルドケープリの強さを信じられたからだ。

しかもだ。

レコードを叩き出すほどの、あれだけ激しいレースを終えた後だというのに、むしろ状態はまだ上向いているのである。

世間で言われる酷いローテーションの中で、肉体面の負荷がまるで皆無であるかのように、ちょっとした乗り運動だけでも迫力が出てきている。

こんな馬がいるのか。

ワイルドケープリの底知れぬ才能を、若駒の頃から予感していた巌にとっても、それは想定を超えている事であった。

芝にはオールカマーで完全に適応できた。 精神面に目を向ければ、オールカマー後からかつてないほどの集中力を保ち続けているではないか。

これから東京競馬場に向かい、輸送を挟むが、そこで変調することなどまるで考えられないほど落ち着き、次のレースに備えている。

ワイルドケープリの好物であるりんごを与えても、その量を自らで調整するほどだ。

ハッキリ、天皇賞(秋)に向けて自身の調整すら行っているのが分かるほどだ。

何も心配などない。


―――本当か?


 林田巌は顔を顰めて口元を抑えるように手を覆った。

あまりに絶好調を維持している期間が長く無いか? むしろ見た目には上向き続けて天井知らずだ。 オールカマーで状態が良かったのは判る、放牧をした後だ。

南部杯でレコードを叩き出して勝利した。 帝王賞で目覚めた勝利の渇望。 競馬に勝利することの渇望を覚えたワイルドケープリだったから、その勝利によってメンタル面が充足し肉体に良い影響を与えたのかも知れない。

人だって、メンタルが肉体に影響を及ぼして、素晴らしい結果を残すアスリートは多い。

しかし得てして、そういった物は長続きはしないものだ。

天皇賞(秋)が行われるまで、その意気を保つことが果たして出来るのか。

眼鏡を外そうとしていた手が震えていた。

今までに実感した事の無いプレッシャーが、この老体に襲い掛かっている。

ほんの僅かな要素ですら、今では不安しか募らない。

GⅠ競争で何時も名を連ねる、有名厩舎では毎回こんなプレッシャーに襲われているのか。

喉を鳴らして水を飲み、息を吐き出して電話を取る。


「……ああ、もしもし。 俺だ」

『テキ? どうしたんですか、ファインの能力試験の結果なら、動画ファイルと一緒にPCに送ってますけど』

「ああ、それは確認してる。 そうじゃなくて、ラストファイン、こっちに呼べるか?」

『え、移動させるんですか? ちょっと前に関東の外厩から戻ってきて、能力試験受けたばっかりですけど』

「ラストファインに無理させてしまうかもだが、ワイルドケープリの為にこっちに呼んでおきたいんだ、日程を調整して後でメールを送るから準備しておいてくれ」


 そう言ってカレンダーを睨みながら電話を切る。

これは正解なのか? ラストファインは負担になるのではないか?

ワイルドケープリとラストファインの二頭はウマが合う。 だからこそ、天皇賞が開催されるまでに精神面にプラスになるよう呼んだが、果たして良かったのか。

ワイルドケープリはオールカマーからずっと、レースに集中してくれているじゃないか。

その集中の邪魔をしてしまうだけになってしまったらどうする。

すぐに電話をもう一度かけて、今の話を無かったことにするか?


「ああっ、くそ……」


受話器を置いて椅子の背もたれに深く凭れかかりながら、巌は首を振った。





 ―――ふん、イワオの奴は何を慌ててるんだか


ナンブハイを終えてからやたらと多くなったイワオの独り言に、耳を傾けつつ鼻を鳴らす。

バボウの中に居るから、何をしているのかはさっぱり見えないのだが、さっきから電話を掛けては唸り、一人でブツブツと誰も居ないのに話しかけている。

独り言にしても多すぎる。 壁に話しているのか? 

ジーワンを勝つと人間の方が慌ただしくなるんだな。

しかし、多少は俺もイワオの気持ちに共感できる。 ただ待つことが苦痛になることは、確かにあるから。


そうしてバウンシャが到着し、俺はまたカントーに乗り込んで借りている外厩に辿り着くと、なんかグッタリとしているちびが居た。

明らかな輸送疲れであるのが判って、俺は呆れてしまった。 まったく、せっかくちびがレースに向けて頑張ってるって所に水を差すもんじゃねぇだろうが。

と思っていたのだが、ちびはちびで、能力試験でゲートから出るのに苦戦―――話を聞いた限りでは発走直前に興奮してしまい、ゲートで暴れて馬具が引っかかったそうだ。

ようやく飛び出したと思ったら、出遅れに出遅れたせいでちびはその差を取り返そうと暴走。

騎手の指示に逆らい続けてそのままコーナーで逸走という、あまりに散々な結果で能力試験を終えてしまったらしい。

ちびの元気のない様子を確認してきたイワオが、目を覆って掌で顔を隠して盛大な溜息と共にちびに謝罪をしていた。

何やってんだ、本当に。


 天皇賞に向けて調整を続ける中、キシャは入れ替わり立ち代わり、俺の追切を追っていた。

走っているシャシンを取り、調教での良し悪しを、また多くのニンゲン達に報せる為にスマホなどを含む数多の道具を使って記録している。

その場で電話をして、遠くのニンゲンとも即座に通信でやり取りを行っていた。


手は抜かない。


ぐるぐるに勝つのが本質的な目的では無いとはいえ、命を揺らす場所に到達するには『走る』必要があるからだ。

誰よりも速く、光の先に到達する為に俺はレースに本気で挑む必要がある。

自分から背中に乗っけた物があるから、余計にそうだ。


2~3回も太陽が大空に上がれば、ちびも元気を取り戻して調教の馬場で出てくるようになった。

夜中、隣のバボウの中で最近は鳴りを潜めていた文句の渦を吐き出していたちびだ。

だから俺は少しだけイラついた。 愚痴を零して喧しくする、その位なら俺だって同じような事を経験してきた。

だから良い。

だが。

能力試験に失敗して不貞腐れていたんだろう。

ぐるぐるを走る為には、大事なことだ。

ニンゲンが定めた競馬というルールというのは根拠が添えられている事を俺は知っているし、ちびにだって教えてきた。

どれだけの期間、競馬が行われてきたのかは分からないが、ウマとニンゲンの関係を鑑みるにそう短い時間ではないだろう。

いよいよとなって興奮する感情を持て余すのだって分かるさ。

溢れだしそうになる激情を抑え込むのは中々に難しいもんだ。

だがな、ちび。

お前が到達するべく目指している場所には、お前以外のウマが無数に犇めいているんだ。 感情を理性で制御しろ。 競馬に勝ちたいのなら、競馬をしなくちゃいけない。

四の五の言うよりも、体感させた方が手っ取り早いだろう。


基本的にちびと共に調教馬場に出る時は、俺はちびに合わせるよう指示されてそれに従ってきた。

しかし今は、それじゃあダメだ。

ちっと無茶するから先に謝ってはおくぜ。

瞬時に意識を切り替える。

全身を漲らせ、後肢で芝生を抉り出すように力強く踏み出す。

秒に満たない時間で隣り合った馬体が引き延ばされ、秒を過ぎればちびを置き去りに緑の大地が迫って来るかのように前に動き出した。

風を切り裂き、音を鳴らし、前脚を叩きつけた大地を震わす。

予定されたゴールまで、俺はちびに大きな差をつけて駆け抜けてやった。

遠くで見守るキシャや、俺を見守っていたニンゲンたちのどよめきが俺の耳朶に響いてくる。

俺の走りはどうだったか、思い思いに文字に起こして記載することだろう。

これで今日の俺の調整は全て終わった。

後は天皇賞って奴に向かうだけだ。


鬣を揺らし、頭を下げる。

ちびが目指している場所は、俺よりも遥かにニンゲンの夢を背負う過酷な行程を経て行く。

だから、そうだろう。

ようやく追いついて、息を荒げるちびに俺は言った。



  足踏みしている暇なんかないぜ、おい



睨みつけるように俺を見据えて、整わない息に鼻を膨らませ。

そんなちびに力の差をみせつけてやれば、ほら。

スターのガキも大概だが、このちびも負けちゃいない。 突きつけられた敗北に決して膝を折ったりしないだろう馬鹿野郎だ。

どうせ忘れているんだろう。

馬鹿だから、誰の背を追っているのかしっかりと判らせてやらねぇといけない。


  ―――俺の背中を追っているって言ってたがよ、容易くはねぇんだよ


ブッチャーの背中を追い越した俺は、何処までもいける。

お前はまだ競馬の入り口にすら踏み出せてない、ただのちびのままだ。


  ―――気張って走りな、ちび


命を揺らす場所まで、昇ってこい。

とっとと能力試験を終えて、ぐるぐるを走る資格を、まずは手に入れてきな。

何も喋れないでいるちびに、俺は背を向けてニンゲン達を無視してバボウへと戻る道へと踵を返してやった。


 当然だが、予定を無視して全力でかっ飛ばした俺は怒られて調教後のリンゴを取り上げられお預けを食らった。

イワオは絶叫して、他のニンゲン達に怒鳴り散らしていて、俺のりんごの事をすっぱり忘れてやがる。

くそ、俺の一日一個と決めてる貴重なりんごタイムが……やっぱちびを焚きつける前に食べられるよう催促しときゃ良かったな。



 そうして夜を超えて、陽が昇っていく日々を重ねれば、俺のぐるぐるを走る日はまたすぐにやってくる。

園田のハヤシダキューシャに戻る為に手配されたバウンシャと、東京競馬場へと向かう為の俺のバウンシャが並んで、俺とちびは轡を並べて乗り込もうとしていた。

馬鹿に似合わない一丁前に引き締まった顔で、ちびが俺の横に立つ。

ハヤシダキューシャに戻れば、また能力試験へと向かう事を教えてやったからだろう。

一つだけ、この馬鹿ちびにもアドバイスを送ってやった。

ぐるぐるを勝つのには、頭を使う。 他のウマよりも先に 『競馬』 を理解し 『競馬』 をしなければ勝てないと。


 ―――俺は負けない。 誰にだって、何にだって、決して逃げない。 待っていろ、俺は必ず、その背中を追い抜かしてやる。 そして、俺はお前に言ってやる。 俺の勝ちだと。


うるせぇな、良いから早く行けよ。

何時まで待ってりゃいいんだよ。

とっとと走って結果を出してきやがれ。


 クソ、絶対勝ってやる!見てろ! などと不満を零しながらバウンシャに乗り込んでいく。

能力試験の結果は最下位でも、ちゃんと走れれば競馬を走れるようになるんだが、それはまぁ教えなくてもいいか。

ちびを送り出すと、イワオとウマヌシのヒイラギが俺の傍に寄って身体に触れてくる。

夜が明けて、太陽が出れば、俺はぐるぐるを走るから、その見送りに来ていたのだ。

イワオは普段よりも顔を青くして、口元を固く結んでいた。


ヒイラギが俺の身体に両手を当てながら、感謝を告げてきた。 ありがとう、と。


「ワイルドケープリ、お前のおかげで、俺はこの場所に来れた。 夢でしか無かった、中央GⅠの舞台に。

 それだけでもう、俺はお前に感謝をするべきだ。 いや、南部杯を勝ってくれただけでも、御釣りが出るくらいだ! だけど、だけど、頼む! 俺を、俺を中央GⅠホースのオーナーにさせてくれ!」

「ワイルドケープリ、怪我だけはしないでくれよ。 ……オーナー、そろそろ時間が押しているので行きましょう」

「ええ、ええ、すみません、興奮してしまって。 ああ、もう時計が一回りしてしまえば、天皇賞が始まるんですね。 今から、胸が苦しくてたまりませんよ」

「オーナー、私もです。 中央GⅠに挑むのが、こんなにも心苦しい物だとは思いませんでした。 しかし―――」


 ワイルドケープリは完璧です、これで負けたら、それはもう相手を讃えるべきでしょう。 さぁ、ワイルドケープリを信じて見送ろうじゃないですか。

イワオはそう言って、ヒイラギと共に離れて行った。

ウマヌシのヒイラギは、走る前だってのに既に涙を顔から流していた。


 バウンシャに、ハヤシダキューシャのキュームインと共に乗り込む。


「頑張れよ、ワイルドケープリ……俺、変なとこないよな? 中央のパドック回るの、初めてなんだよ、それもGⅠだぜ、天皇賞だ! あぁぁぁ、もう、緊張するなぁ」


 そんな事を言って、バウンシャに揺られている間に必要な水やカイバを用意し始めるキュームイン。

その手は僅かに震えていて、言葉の通り緊張しているようだった。

本当に。

どいつもこいつも、余計な荷物ばっかり勝手に乗せやがって。

何も知らない内に、殆どのウマはこうして勝手に背負わされていくんだろう。

ニンゲンの勝手に振り回されて、壊れてしまう奴だっているんだろう。

走れないウマがどうなるのか、想像できないほど甘い世界じゃない。

清濁といえば聞こえは良いが、やってる事はただの選別だ。

そのくらい、ニンゲンは分かってるし俺も分かっている。

経済動物などと揶揄される俺達ウマが、どういう存在でどう扱うかを分かっている。

まったく、勝手なヤツラだ。

付き合いきれねぇよ。


バウンシャから覗ける外が、彼方の空から白んでいく。

闇雲が広がる空に、くすんだ星を灯らせて、それらもやがて白く染まって行く姿を遠く眺めながら。

雲った夜を、照らしていた。

俺はそんな太陽を見上げて、目を細める。


付き合いきれねぇが、勝手に付いてくるのは好きにしろよ。

ちびに啖呵を切ったからには、背中を見せたからには、しょうがねぇからな。


ああ、そうだ。

仕方ねぇさ。


良いぜ、ついでだ。

ほら、ニンゲンよ。

俺の脚に振り落とされないよう、しっかりしがみついてな。


何処にでも連れて行ってやる。




   今度こそちゃんと―――まとめて面倒見てやるさ





その日。



15:45分に発走された天皇賞(秋)




東京競馬場は歓声と罵声に呑みこまれ、揺られていた。






    GⅠ / 天 皇 賞 (秋)

  

東京競馬場 芝2000m 曇り/良 全16頭 1:59:07  上がり3F 31.1 


1着 8枠16番  ワイルドケープリ   牡7 林田 駿  人気15  厩舎(園田・林田巌)


2着 1枠1番   クアザール     牡4 竹岡 遼  人気1   厩舎(美穂・藤原 次郎)  1/2馬身


3着 6枠11番  アウターオブマシン  牡4 レイモン  人気5  厩舎(美浦・富士野 遙) 4馬身


4着 3枠5番   デイビショップ    牡5 広山 應治 人気2  厩舎(栗東・満司 史朗)  クビ


4着 5枠8番   トリフォッリオ    牡5 田辺 勝治 人気4   厩舎(栗東・大迫 久司)  アタマ


   



 天皇賞秋 実況専用スレ 3



えっぐい

うわ、やべぇ

なんだその加速

くっそはええええ

クアザール負けたwwwwww

気持ち悪すぎる

うっそやん

三冠馬負けてるんですけど!!!

はぁ?なんだこれ

時計おかしいだろ!!

なんだこいつ……

おいwww

ワイルドケープリやべぇwwwww

魔物が出たぞ

15人気の馬wwww

7歳ってお前

wえwwwwwwwおいwwwwwww

wwwww草wwwwwwwwwwwww

おいおい

ワイルドケープリつええええええええええええ

三冠馬とはなんだったのか

クアザールwwwwwwwwwwwマジかよ……(真顔)

上がり3Fやばすぎる

バケモノかよ

なんだこいつ

林田最強きたな……

信じられねぇ

おい!!!! なんあんだよこの糞駄馬! クアザール様の邪魔をすんじゃねぇ!!!!

やっぱクアザールは謎の馬に弱い説が真実だった

わいの馬券が全部死んだ

わいも

なんなんだこの馬

ダート馬だったんじゃねぇのかよ

てか時計異常

俺も馬券ないなった

デジタルの再来をこの目にできるなんて

大阪杯でもそうだったけど、クアザール謎の条件馬とか謎のダート馬とかに絶対負けるやんけ、もう信じねぇぞ

ワイルドケープリおめでとう。 天皇賞(秋)獲った地方馬とか信じられねぇ

園田競馬からとんでもないのが出てきた

3Fやばすぎて草

勇者の帰還

上がり3F31.1? 何かの間違いだよな? 時計壊れてるんやろ?

なんやこいつ……

脚ぶっ壊れるやろこんなん

なんだこいつ……

天皇賞のスレ立ちすぎだろwww

驚天動地すぎるから仕方ない

嘘だろおい

スプリント戦の記録かな?

クアザール負けるのかよ……

何度も言うけど、信じられん

覚醒するにしても段階を踏めよ! いい加減にしろ!

スプリントでも早々出ねぇよ、こんなヤバイ3Fの記録

ありえねぇぇぇぇ、クアザール負かすとか本当にありえねぇよ

31.1はもう馬じゃなくてUMAなんよ

フロック視しててすみませんでした

ワイルドケープリかぁ、すげぇ馬が出てきちまったな

園田競馬で燻っていた頃から追いかけていたワイ、成長に咽び泣く……おめでとう! って成長しすぎだろ! なんだこいつ!

林田最強





【ワイルドケープリ】芝2000上がり3F31.1【ワールドレコード】 1000

三冠馬クアザール、ダート出身の伏兵ワイルドケープリとかいう謎の馬に差されてしまう 1000

クアザールwwwwwwwwwww 1000

天皇賞(秋)勝ち馬 ワイルドケープリ!!!!!! 1000

    地方馬のままワイルドケープリが天皇賞秋制覇 1000

ワイルドケープリが来るなんて判るわけねぇだろ死ね!!!! 893

クアザールとかいう謎の馬と一緒にレース走ると絶対負ける三冠馬 1000

ワイルドケープリって 543

ワイルドケープリとかいう園田の怪物 862

……




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