【短編】スコッパーは妖精となり 〜民からの感謝で日々暮らせるようになったのじゃった〜
「あれ、ここは……」
直美は目を開けて、その空間のあまりの白さに目を瞬いた。
「目覚めたか、人の子。我は神じゃ。そなたを好きな世界に行かせてやろう」
なんですと。気合いで目を開けると、目の前に薄く光る白い物体が見える。でも眩しくてやっぱりよく見えない。
「私……死んだんですね……」
なんでだろう。トラックに轢かれた記憶はないんだけどな。
「そなた、風呂の中で小説を読んでいたであろう? 眠ってそのまま……」
「溺死ー?」
ええー、そんなのって……。
「そなたのあちらの世界での善行が認められた。よってそなたの好きな異世界に送ってやるぞよ」
善行? なんだろか。
「あ、この前落ちてたスマホ、交番に届けました!」
「違う」
「課長に嫌味言われて泣いてた後輩と、給湯室で来客用のお茶菓子やけ食いしたやつ……?」
「違う」
「分かった。コンビニでお釣りが百円多かったのを、ちゃんと返したアレ?」
「違う……そなた、小さな善行を積んでおるな。感心感心。あれじゃ、そなたが死ぬ前していたことじゃ」
「ええ、まさかー……風呂場のカビ取り!?」
「違うわ。違う違う。あれじゃあれ。新着欄から投稿小説読んでポイントつけてブクマするあれじゃ。そなた、スコッパーさまなんじゃろ?」
「…………?」
「わしも詳しくは知らぬが、そなたへの感謝が数多くのなろう作者から届いておる。書いても書いても誰にも読まれない、そんな虚無感に筆を折ろうとした作者が、そなたのポイントとブクマでやる気を取り戻したのじゃ。そして今では細々と印税を得ている者もおるの」
「え、えええええ、本当にー?」
「うむ。よくやった、スコッパー直美。誰に求められた訳でもなしに、膨大な新着小説から、よき作品を掬い上げたこと、見上げた行いじゃ。多くの底辺作者から、祈りを捧げられておるぞ。ささ、どんな世界に行ってみたい?」
ええ、ちょっと、信じらんない。確かに毎日ポチポチしてたけど。無料で読ませてもらってるんだからせめてと思って、ポイントいいねブクマはなるべく押してたけど。うそー、どうしよう、ええー。
「そなた、悪役令嬢ものが好きじゃったようだが、なってみるか? やはり縦ロールがよいかのう。なるべくバッドエンドが穏便な世界がよいよのう?」
「詳しい」
「まあのう。我は物語の神じゃからのう。そなたのいた国はよいところじゃったの。民は貧しいながらも健気に幅広い創作活動をしておったの」
「はあ」
「冒険者になって魔法を使って魔物と戦うか? それとも領主の子となって内政に励むのもよいのう。無能だとパーティー追放されたけど本当はすごいスキルだった俺はハーレム作ってウハウハ、昔の仲間に頭下げられたけどもう遅い、が最近のはやりじゃの」
「細かい」
「妹に婚約者奪われたけど無理矢理嫁がされた氷の辺境伯に溺愛されてみるか?」
「溺愛系は読むのはいいけどやるのはちょっと」
「TS転生でもよいぞ。もしくはループでやり直し系は何度も楽しめてよいぞ」
直美は決めた。
「私、活字中毒なんです。読んでないと退屈で死んじゃう。本をたくさん読める世界がいいです。そしてできればもう働きたくない。本だけ読んで過ごしたい。恋愛もめんどくさいんで、結構です。あ、でもモフモフとおいしいごはんは外せないですよね。ほのぼのまったり、モフモフに埋もれながら本を読める、そんな世界がいいです」
「ヨシ」
「スコッパーさま、本日のお供えでございます。こたびは拙著に感想をいただき誠にありがとうございます」
「うむ。序盤がややダラダラしておったが、主人公がかわいいからヨシ。お、この芋団子もちもちしておいしい。よきかな。また書き終わったら持ってきなさい。祝福を与えるぞ。次回作を思いつきますように〜シャララン」
男は何度も頭を下げながら、森を出ていった。
「スコッパーさま〜、お供えでもらった新しいクシ、使ってみてくださいよ」
寝転がってるモフモフから声をかけられた。
「む、フェンリルのフェンちゃん。そうね、今日はまだだったね。よしよし、なかなかいいではないか。ひっかかることなくスルスルと。おお、フワフワになった。ちょっとお昼寝するね」
んんーよく寝た。おや、もうあんなに本が積まれておるな。お、原稿用紙の束もあるな。どれどれ、出版されないものこそ、読んでやらんといかん。誰にも読まれない、承認されないというのは、心をえぐる日々らしいからの。
皆の未来に幸多からんことを。
<完>