第4話 遭遇
少年はサルから聞いた情報を基に貴族街に侵入し、四番運河沿いを歩いていた。
(最近雨も降ってないし、血痕くらい残ってるかと思ったが、よく考えたら、ばーさんがそんなヘマするわけないか)
物思いに耽っていると、足音が聞こえてきた。近くに隠れられる場所は無さそうだったので、仕方なく運河の縁に手を掛けて河岸に宙ぶらりんで足音をやり過ごすことにした。
(しゃあない。よっと!)
足音は1人分だった。
(軍人かな。規則正しい動きだし、無駄が無い)
そして、その足音は、とある特徴を教えてくれていた。
(なにか探し物をしているのか?)
近くで足音が止まった。そして、別の足音が駆けて来るのが聞こえた。
「閣下、探しましたぞ! 大変、大変です!」
「どうした? そんなに慌てて」
(閣下?)
「東の帝国が我が国との国境に向け、約20万の軍勢を出撃させたとの報告が!」
「なにっ?!」
(軍部の人間か?)
「急ぎ司令部に戻って下さい! 最近ずっとなにか探されておられる様ですが、それは誰か部下にお任せ下さい」
「む、むぅ。それは、いや、確かにそうだな。急ごう」
「はっ!」
二人の足音が去って行き、周囲に静けさが戻って来て、ようやく少年は岸から這い上がった。
(ふぅ。しんどかった。しかし、戦争が始まるのか? 今の王様になってからは、ほとんど無かったって話じゃなかったか?)
この国は50年以上戦争をしていないとか聞いた覚えがあった。なんでも、先代、先々代の将軍が強過ぎて、常勝無敗だったからとか?
(その功績で伯爵まで陞爵したんだっけ? ハインネル伯爵家だったかな? 今代の将軍も世襲ながら歴代最高の傑物とか言われてるんじゃなかったっけ? 名前は確か·····)
「オーギュスト・ハインネル将軍?」
そして、今の会話にひとつ気になる点があった。
(将軍自ら夜中に探し物? まさか、ばーさんの上客ってハインネル伯爵家?!)
少年は、迷わず、先程の二人を追いかけるのだった。