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テルの双子  作者: ハルカナ
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第1話 双子

筆が乗ってるうちに出来るだけ進めたい。

少年は悩んでいた。

親が1週間前から行方不明なのだ。

朝起きると、大金が入った血塗れの皮の袋と、すまないと書かれた書き置きだけが、残されていた。



少女は焦っていた。

親が1週間前から帰って来ないのだ。

朝起きると、自分の弟が、血塗れの皮の袋と書き置きの紙を持って佇んでいた。



「「どうしたものか」」

2人でハモリながら、今日も朝を迎えた双子。

一応、三日前に冒険者ギルドに捜索依頼は出したが、スラム街の人間が居なくなったところで、真剣に探してもらえるとは思えない。


「妹よ、今日は貴族街に行ってみないか?」

「は? なんで、貴族街になんて居るわけないじゃん、ばーちゃん、貴族嫌いなのに」

「ばーさんが自分の意思で行ったんじゃなくて、攫われたとしたら?」

「なら、どうやって書き置き残すのよ、愚弟」

「その書き置きが、そもそもばーさんが書き残したんじゃないとしたら?」

「じゃあ、誰が書いたのよ?」

「貴族の使いっ走り?」

「あほじゃない?」

「何をぅ!」

「何よ!」

この2人、互いを妹、弟と呼び、自らが兄、姉であると、毎日のように言い争っているのだ。

育ての親のばーちゃんあるいは、ばーさんは実の親ではない。

産まれたての赤ん坊の頃に揃って捨てられていたところを拾って来たらしい。

だから、どちらが兄か姉かは、わからないのである。

「おーい、ガキども、生きてるか?」

言い争う2人に外から野太い声が聞こえてきた。

「お。セザールのオヤジだ」

「開いてるよ」

そもそもスラム街の廃墟のような家だ。鍵なんて初めから無い。

「おう、生きてやがったか!」

野太い声と裏腹に小柄で腹の出た中年オヤジがズカズカと入って来た。

「相変わらず、ばーさんは帰ってきてねーようだな」

「見ての通りだよ」

少年が中年オヤジ――セザールの相手をするが、いつの間にか少女は消えていた。しかし、すぐ戻ってくる。

「はいよ、おっさん。いつもの薬1週間分だ。いつも言ってるが、あくまでも、こいつは痛み止めだから、痛みが引いたからって無理はするんじゃないよ!」

奥の部屋から薬を取ってきたらしかった。

「おう、いつもありがとな! で、お代は……」

「要らないって、いつもばーちゃんが言ってただろ」

そう、居なくなった親と少女は、スラム街の薬師なのだ。

「だが、ばーさんも居なくなって、お前らガキども2人じゃ何かと大変だろう。いいから、受け取っておけ!」

そう言って、少女の手に銅貨を10枚握らせる。

「だから、要らないって……!」

突き返そうとする少女に、セザールは真剣な顔で

「いいか、この辺一体の住人達は、みんなばーさんに恩がある。だから、お前らに危害を加えようなんて奴は居ない! だが、ここはスラムだ。昨日も新しい奴が入ってきた。いつまでもお前らが安全に暮らせる場所じゃない! お前らは今すぐにでも教会の施設に駆け込んで、保護してもらうべきだ。まだ15にもなってないガキなんだから」

この世界では15歳で成人と認められ、仕事に着く事が出来る。それまでは大人の庇護下で育てられるべきとされ、一般的な仕事には就けない。

少女の薬師も、所謂モグリの薬師だ。

親に拾われ12年。まだ2人は子供なのだ。

「でも、みんなの薬が……」

少女は不安そうに瞳を揺らす。

「何言ってやがる! ここはスラムだぜ! みんなてめぇのことしか考えてねぇよ! お前らみたいなお人好しが生きていける場所じゃない!」

少女は、どうしたものかと、弟に目を向ける。

少年は迷いなく頷いた。

「大丈夫だよ、オヤジ」

「あ?」

「ばーさんは帰って来るから」

「だが、もう1週間も経つんだぞ! ギルドに依頼したところで、スラムの人間を探すなんて真似、誰もしねぇよ」

「うん、知ってる」

妹には言ってないが、毎日ギルドに顔を出して依頼書が、そのままなのは、確認していた。そもそも依頼を出したのも妹があまりに心配するから、少しでも安心させる為にやったことだ。

「ばーさんは大丈夫。それに俺達も大丈夫さ。心配要らないさ」



少年は悩んでいた。

ばーさんの書き置きの意味は、自分の助けが必要なのか、そうでないのか、わからなかったから。



少女は焦っていた。

ばーちゃんが帰って来ないのに、弟が全然慌てた様子も無く、毎日うーんと唸っているだけで、現実が見えていないように見えたから。

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