第8話 笑顔の舞踏
練習場で美弥は今日もムラス舞踏の練習に取り組んでいた。かつてのような回転の技の激しさはなかったが、その表現力は以前にも増しており、見る者に感動を与えていた。それは悲しみを乗り越えた美弥にできた踊りでもあった。
「美弥ちゃん。よかったわ。前よりもよく見えるわ。」
飛鳥が声をかけた。すると美弥は笑顔で答えた。
「私、少しムラス舞踏のことが分かったと思うの。これは人々に感動をあたえるものよ。競技じゃないのよ。踊る人も見ている人にも悲しみや苦しみを与えるものであってはいけない。悲しい涙を流させてはいけない。みんなを笑顔にさせなくちゃ。」
「そうね。その通りよ。」
飛鳥はそう言った。横で早紀は「うんうん。」とうなずいていた。
総督府ではまたサンキン局長が報告に来ていた。
「ムラス舞踏の練習場でマコウ人のヤスミン選手が毒を飲んで死亡。その現場で地球人の化けたカラジ星人の事務員が死んでおりました。2人はどうも先日のゴーヤクを選手に飲ませた事件に関係しているようです。その現場にはバイオノイドが倒された形跡があり、何らかの戦闘があったように思います。」
「やはり例の忍者の仕業かね?」
リカード管理官の目が光った。サンキン局長はそれにびくびくしながらも答えた。
「それは・・・多分。その場にいた者たちが、その忍者たちがその事務員とバイオノイドが襲って来たのを助けてくれたと証言しています。」
「とにかく被害は最小限ということだな。」
「いろいろあったので各方面と検討した結果、今年はムラス舞踏の地球代表は本大会に送らないことになりました。残念ですが・・・。まあ、『星間友好会』が陰で動いていたのでそうならざるを得ないでしょう。」
サンキン局長はそう言った。それを聞いたリカード管理官は、引き出しから別の報告書を出して机の上に置いた。
「例の『星間友好会』のカラジ星人たちは地球を離れた。真っ青な顔をして怯えるようにしていたそうだ。しかも彼らはムラス舞踏に関する利権を手放すようだ。」
「まさか・・・」
サンキン局長は信じられなかった。誰も星間友好会には手出しできなかったのに、一体、何があったのか・・・もしかすると・・・。
「あの忍者たちが?」
「そこまでわからん。しかしこれでムラス舞踏を純粋に楽しめるようになるだろう。」
リカード管理官は立ち上がってまた窓の外を見た。そこからはあの中央ドームスタジアムが見えた。サンキン局長も頭を下げて管理官室を出ようとした。
「そうだ。今年はムラス舞踏の地球代表は送らないことだったが、あの藤山美弥の演技のことは本部で話題になったらしい。彼女は本大会に特別招待され、ムラス舞踏を踊る。」
リカード管理官は窓の外を見たまま、そう言った。サンキン局長は振り返ってまた頭を下げてから出ていった。リカード管理官はじっと窓の外を見て何かを考えながら、
「地球人め。」
とつぶやいた。その顔はなぜかうれしさが混じっていた。
1か月後の本大会に美弥の姿があった。彼女は競技とは関係のないエキジビションで踊った。しかしその踊りは見ている者の心をとらえ、感動を巻き起こした。そしてその美弥の表情は喜びと楽しさの笑顔で満たされていた。