第6話 襲撃
その控室を陰からうかがっている者があった。それは事務員の山田だった。彼はヤスミンが失敗して毒をあおる一部始終を見ていた。
「失敗したか! これはまずい! 美弥を確実に始末せねば!」
山田は慌てて練習場に出た。そこには美弥と早紀、そして飛鳥だけがいた。このまま全員をすぐに始末できそうだった。彼はそこで言い放った。
「かわいそうだが、お前たちには消えてもらう!」
「えっ! 一体、どうして!」
飛鳥が振り返って山田を見た。事務員の山田がどうして?と疑問に思った。
「冥土の土産に聞かせてやろう。俺は『星間友好会』から命令されて様々な工作を行っていたのだ。ムラス舞踏をあれほどまでに躍る美弥が邪魔なのだ。まず代表の座が手に入ると言って、ヤスミンに美弥の水筒にゴーヤクと言う薬物を入れさせた。それはうまくいったが、美弥は釈放されてしまった。だから今度は確実に消してやる。」
山田はポケットから数個のカプセルを取り出した。そしてそのカプセルを地面に投げつけた。すると、
「ボン!」
と音がして数体のバイオノイドが出現した。
「皆殺しにしろ!」
山田の命令でバイオノイドが剣を抜いて向かって来た。早紀と美弥はあまりのことに呆然と立ち尽くしていた。飛鳥はその前に出て、バイオノイドたちの前に立ちはだかった。
「早紀、美弥ちゃん。逃げて!」
美弥たちがいるため忍びの姿にはなれない。飛鳥はこのまま素手で立ち向かうしかなかった。バイオノイドが剣を振り下ろしてきたが、それを避けてキックやパンチを食らわせていった。1体や2体はそれで足を止められるが、敵の数が多くて飛鳥一人ではどうしても防ぎきれない。驚いて逃げ出せない早紀と美弥に、バイオノイドが剣を振り上げて迫ってきた。
「バーン!」
バイオノイドの1体が倒れた。背中に電子手裏剣が刺さっていた。そして3つの人影が風を切るように空中を飛んで現れた。それは忍び装束に変わった疾風、児雷也、佐助だった。彼らはすぐに刀を抜いてバイオノイドの前に立ちふさがった。
「俺たちが相手だ!」
バイオノイドたちは一団となって3人に剣を振りかざして襲ってきた。疾風たちは刀でその剣を受け止め、斬り倒していった。バイオノイドたちが次々に床に倒れて消えていく・・・。
「うぬぬぬ・・・」
山田はあまりのバイオノイドの不甲斐なさに地団太踏んで苛立っていた。
「役立たずどもめ!それなら俺が!」
山田はそばに落ちていた剣を拾った。そして美弥の方にいきなり駆け寄っていった。飛鳥には山田が美弥を斬ろうとしているのが見えた。だが彼女や疾風たちはバイオノイドと戦っていてすぐに助けに行くことができなかった。
「美弥ちゃん!」
飛鳥が叫んだ。美弥はおびえてそこから動けず、山田は右手の剣を振り下ろした
「バサリ!」
辺りに血が飛び散った。それは美弥の前に飛び出したマリカのものだった。騒ぎを聞きつけて練習場に戻り、美弥の危機に身を挺したのだった。
「先生!」
美弥が叫んだ。マリカは彼女に微笑みかけるとその場に倒れた。
「邪魔が入ったか! 今度こそ!」
山田はまた美弥に剣を振り下ろそうとした。しかしその前に風を切る鋭い音がした。遠くから電子手裏剣が飛んできたのだ。
「ぐおー!」
電子手裏剣を左胸に受けた山田は、断末魔の叫びを残してその場に倒れて動かなくなった。それが飛んできた方向を見ると、そこに手裏剣を投げた姿勢の半蔵がいた。
「先生! 先生!」
美弥がマリカを抱き起して声をかけた。マリカは優しく微笑んだ。
「み、美弥・・・。厳しいことを言ってごめんなさい。でもあなたなら乗り越えて来てくれると思ったの。あなたにはできる。きっと一番になれる・・・」
そう言い残して目を閉じた。その死顔は優しかった。美弥はその体にすがっていつまでも泣いていた。疾風や児雷也や健、そして飛鳥は彼女にかける言葉が見つからなかった。しかしこのようなことを引き起こした者に対する憎しみが沸き上がってきていた。
(決して許さない! この報いを受けさせる!)
飛鳥はそう思って両手の拳をぐっと握っていた。半蔵は遠くからその光景を静かに見守っていた。




