第5章 犯人は
美弥はしばらくして地球取締局から解き放された。その顔はひどくやつれ、体はやせてかなり衰弱していた。かなりひどく取り調べを受けていたようだ。しかしその目の奥にはかすかな希望があった。
(私にはムラス舞踏がある。この踊りでみんなを喜ばせるはずよ。本大会に今回行けなくなったけど、まだ次回チャンスはある!)
美弥はムラス舞踏を続ける決心をしていた。そして次の日から練習を再開することにした。
疾風たちは美弥の水筒に薬を入れられる可能性のある者を絞り込んだ。それはマコウの選手のヤスミン、地球人の事務員の山田。そして美弥のコーチのマリカの3人だった。ヤスミンは美弥に代わり、ムラス舞踏の地球代表になっていた。山田は最近、事務局に入った者であり。マリカはカラジ星人だった。怪しい3人をそれぞれ翔、令二、健がマークした。彼らはムラス舞踏に関わっているので、当然、美弥が使っている練習場にもいた。
コーチのマリカは今回のことでひどく胸を痛めているようだった。
「私の教え子で美弥が一番だった。その子が本大会に出られないなんて・・・」
だが美弥の練習再開と聞いて他の教え子を放っておいてすぐに飛んできた。彼女は美弥を見るとすぐに抱きしめた。
「辛かったでしょう。でもあなたの舞踏は誰よりも素晴らしいのはみんな知っているわ。次回の大会に向けて頑張りましょう。」
「はい。先生。」
美弥はムラス舞踏を踊り始めた。しかしそれは以前のようなキレはなかった。動きがぎこちなく体が重かった。それを立て直そうと美弥は額に汗を浮かべて必死だった。だが激しい回転の技になると転倒した。
「美弥!」
練習を見に来ていた早紀と飛鳥が駆け寄った。だが美弥は笑顔を2人に顔を向けた。
「大丈夫よ。ちょっと足が滑っただけ・・・」
美弥は立ち上がった。その姿をマリカは厳しい目で見ていた。
「もう一度!」
「はい!」
美弥はまた踊り始めた。しかしその踊りがよくなったわけではなかった。すぐに息が切れ、回転では何度も転んだ。それでも立ち上がった。それが何度も続いた。美弥の目からは悔しさで涙がこぼれていた。その姿に早紀と飛鳥は見ていられなくなった。
「もうやめてください! これ以上続けると美弥は壊れてしまいます。」
早紀がマリカに言った。しかしマリカは首を横に振ると、転倒した美弥に駆け寄った。
「休んでいないで! いつまでこんなことをしているの! 遊びじゃないのよ! しっかりやりなさい!」
マリカの激しい怒声に美弥の涙はさらにこぼれた。しかしマリカは続けた。
「その涙は何! そんなことでムラス舞踏が踊れるの! みんなの期待に答えられるって言うの!」
「ちょっと待ってください!」
早紀がマリカを止めた。
「美弥も辛いんです。先生、お願いします。少しそっとしてやってください。」
早紀がそう言うとマリカはプイと後ろを向いて練習場を出て言った。後に残った早紀と飛鳥は涙が止まらない美弥をやさしく抱きしめていた。
控室のドアに人影がこっそりと近づいていた。そしてドアを音もたてずに開くと中に入った。辺りを見渡すと机の上に美弥の荷物があり、スポーツドリンクが入った水筒を見つけた。その者はニヤリと笑うとポケットから粉の入った袋を取り出した。そしてその水筒に手を伸ばした。その時、
「待て!」
と翔が入ってきた。彼の前にはマコウ人選手のヤスミンだった。彼女はあわててその場から逃げようとしたが、翔に腕をつかまれた。
「君だったのか! 美弥さんの水筒に薬物を入れたのは!」
「放して!」
ヤスミンは暴れたが、翔はその腕を離さなかった。
「いっしょに取締局に来てもらおう! ここの部屋は録画してある。美弥さんの無実を証明するんだ!」
「嫌よ! いや!」
ヤスミンは激しく翔の手を振り払うと、手に持った薬をそのまま口に入れた。
「あっ!」
翔がやめさせようとしたが遅かった。ヤスミンは胸を押さえて苦しがってその場に倒れた。
「しっかりするんだ!」
翔が抱き上げて声をかけるも、ヤスミンはもう虫の息だった。それでも何かをつぶやいていた。
「私ってバカね。本大会に出られると言われてあんなことして・・・。そしてまた毒薬を入れて殺そうとした・・・罰が当たったのね・・・」
「誰だ! 誰に言われたんだ!」
翔が声をかけたが、そこでヤスミンは目を開けたまま苦しそうにしてこと切れた。翔はため息をつくと、ヤスミンの目を閉じさせるとゆっくり床に下ろした。