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第2話 美弥の異変

 総督府ではサンキン局長が定時報告に来ていた。リカード管理官は机の前に座り、その報告書にじっと目を通していた。


「ここのところ特に変わった様子もないようだな。」

「はい。自治要求運動もおとなしいですし、大きな犯罪も起きてはいません。」


サンキン局長はそう答えた。今日はリカード管理官に突っ込まれることがないと安心していた。


「それもムラス舞踏の地球大会のためかな?」

「まあ、それもあるでしょうが。」


 以前からこの大会は多くの人々の興味を引いていた。それが今年は例年以上に盛り上がった。優勝者が4年に1回の本大会に出られるというばかりでなく、その有力な選手が16歳の地球人の少女だったからだ。いつもはマコウ人だけが地球大会で上位を独占しているというのに。

 しかもその少女は素晴らしい演技で優勝をした。他を全く寄せ付けない得点で。それなら本大会での優勝も大いに期待できると誰もが思った。それで地球中で一大ブームが起き、皆がそれに熱狂していた。それも地球人だけでなく、地球にいるマコウ人たち異星人も。


「とにかくこの騒ぎが収まるまでは君は何も手につかないのだろう?」

「は・・・いや、そうでも・・・」


サンキン局長は慌てた。実は彼はムラス舞踏のブームが来てからそれに夢中になっていた。このことをリカード管理官は見抜いていた。


「まあ、いい。世間も浮かれているから仕方がない。ほどほどにな。」

「はあ・・・」


サンキン局長は額に汗をにじませながら管理官室を後にした。




 巷では美弥のことでもちきりだった。それは保護惑星になり暗くなった地球人の心を明るくした。これでもし本大会で優勝でもすれば、地球は保護惑星から抜け出せるかもしれないと期待を持つ者もあった。建物のあちこちに美弥を応援するポスターや横断幕が張られ、町中がお祭り騒ぎになっていた。

 飛鳥も美弥の活躍を楽しみにしていた。だがこの期待を一身に背負う美弥のことを思うと一抹の不安を感じていた。


(もし、本大会がうまくいかなかったら・・・。いやその前に彼女がこの重圧を受け止めることができるのかしら。まだ16なのに・・・。しっかりしているからと言っても・・・)




 美弥が大いに注目される中、彼女が「地球マコウ友好記念大会」に出ることが公表されていた。そのためその会場には多くの人が詰めかけ、すぐに満員になり外にまで多くの人であふれた。

 飛鳥と早紀は特別に美弥の控室に入れてもらった。美弥だけは事情を考慮されて特別扱いで広い個室を与えられていたのだった。大会前だというのに美弥に緊張の色は見えなかった。傍らにある自分の水筒からスポーツドリンクを飲んでいた。


「いいの? 私までこんなところに入れてくれて。」

「いいの。大勢でいる方が落ち着くもの。気を使って個室にしてくれたんだけど、みんなと一緒の方がよかったのになあ。」


美弥は飛鳥にそう言った。


「いつも通りね。安心した。じゃあ、席に行ってるわ。がんばって!」


早紀がそう声をかけた。


「これから練習時間があるから私も行く。」


美弥も早紀と飛鳥とともに控室を出ていった。その雰囲気は大会前とも思えない程、なごやかだった。この大会は顔見世みたいなもので、得点など気にせず楽しく踊れればいい・・・美弥はそう思っていた。

 だがそこに一つの異変があった。控室から出て行く3人の姿を廊下の陰から見送っている者があった。その者は辺りに人がいないのを確認するとその控室に入って行った。



 いよいよ大会が始まった。地球人やマコウ人がムラス舞踏の演技を次々に披露していった。それはそれで素晴らしかったがやはり美弥の演技とは比べ物にならなかった。

飛鳥と早紀は舞台近くの特別席に座っていた。演技を見ながら早紀がいつものように飛鳥に解説した。


「ムラス舞踏もやはり心技体なの。」

「なに? それ。」


飛鳥が面白がって聞いた。それは(相撲じゃないか。)と。


「体力もいるし回転などの技も必要。それ以上にメンタルが重要なのよ。その点、美弥は超一流よ。」


早紀は得意げに話した。確かにムラス舞踏は、心はともかく体はかなり消耗する。演技が終わった出場者を一人一人、医師が小型スキャン装置を使ってメディカルチェックをかけていた。こうでもしないとムラス舞踏の競技者の健康は保てないようだった。

 やがて最後の演技者、美弥の番が来た。飛鳥は美弥を見て(おやっ。)と思った。なぜか彼女はさっきより血色がよく、元気そうに見えた。


(控室でイメージトレーニングでもして、いいイメージでもつかんだのかしら。自信がみなぎっているように見えるけど。でもそんなに?)


飛鳥は何か引っかかるものを感じた。しかしそれは一瞬で吹っ飛んだ。美弥の演技が始まると、それはいつも通り素晴らしかった。ダイナミックで繊細で、豊かに感情を表現して・・・それはいつもより素晴らしかった。他の観客もその演技に魅了されて時間を忘れてうっとりと見入っていた。

 やがて美弥の演技が終わった。観客は現実の世界に引き戻され、我に返って割れんばかりの拍手を送った。美弥はそれに答えるように大きく手を振っていた。


(いつもより素晴らしかった。でも・・・)


飛鳥はまた何か嫌な予感を覚えた。美弥の演技がいつもより出来過ぎているような・・・いや何かの力が後押ししているかのような・・・


 美弥は舞台を下りて医師にメディカルチェックを受けていた。するとその医師は慌てて様々な機器を取り出して美弥の体を調べ始めた。その様子に会場がざわめいた。


「なに! 美弥の体に何かあったというの!」


早紀は席を飛び出して美弥のそばに向かった。その後ろに飛鳥も続いた。美弥の体のチェックはまだまだ続いていた。早紀は美弥のそばに寄ろうとしたが、関係者に制止されてしまった。早紀は大きな声で美弥に声をかけた。


「美弥! 大丈夫なの?」

「大丈夫。でもどうして? 何が悪いというの!」


美弥はそう答えた。彼女にも何が起こったかわからなかったようだった。やがて彼女は関係者に囲まれて美弥はそのまま奥に連れて行かれた。何か重大なことが起こっているのは確かだった。


「美弥が・・・美弥が・・・」


早紀はその場にしゃがみこんだ。あれほど本大会に出場できると喜んでいた美弥はどうなってしまったのだろうと不安でいっぱいになっていた。


「大丈夫よ。美弥ちゃん、元気だったじゃない。大したことないわよ。」


飛鳥はそう言って慰めるしかなかった。

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