第1話 地球大会優勝
新東京の中心部にひときわ大きな建物がある。ここが中央ドームスタジアムであり、今日はムラス舞踊の地球大会が行われていた。多くの観客が見守る中、演技者が次々に激しくも美しい踊りを披露していた。
その観客席に飛鳥の姿があった。彼女は隣に座る友達の早紀に話しかけた。
「すごいわね。美祢ちゃん。まだ16歳なのに。」
「ええ。美弥はもっと小さい頃から頑張っていたから。」
早紀の妹の美弥はその演技者の一人だった。美弥は舞台で今、そのムラス舞踊を踊っていた。その踊りは力強くも可憐で多くの観客を魅了していた。
ムラス舞踊とは銀河帝圏のほとんどの星に伝わった踊りで、古くからそれぞれの星々で競技会が催されていた。それは優雅さと回転などのくり出される技により評価される。そしてその星で優れた成績を残した者は銀河帝圏主催の4年に1回の本大会に出られた。そこで優勝すれば多額な賞金だけでなく、この上ない名誉を与えられ、その者だけでなくその出身星までも敬意が払われた。
やがて美弥の舞踏の演技が終了した。それはミスもなく、完璧に仕上げられていた。この大会には地球人以外にも異星人、特にマコウ人が多く参加していたが、彼女の踊りは他の演技者の誰をも凌駕しているのは明らかだった。
「これなら優勝ね。」
飛鳥にはすでに結果がわかっていた。美弥の得点は史上最高点を叩き出していた。その美弥の後にも演技が続いていたが、その得点を見てあきらめるものも少なくなかった。そしてすべての演技者の踊りが終わった。
「第28回地球大会。優勝者は藤山美弥選手です!」
会場にアナウンスが流れた。すると歓声と拍手が沸き起こった。その中を美弥が舞台に昇った。彼女はあふれんばかりの笑顔をしていた。
「おめでとう! 本大会でも期待している。」
大会委員長が美弥にメダルをかけた。また大きな歓声と拍手が鳴り響いた。美弥は渾身の笑みで両手を振ってそれに答えていた。
観客席の飛鳥と早紀は美弥を迎えるために控室前の通路に下りた。そこに両手いっぱいに花束を抱えた美弥が戻ってきた。ムラス舞踏の演技で疲れているにもかかわらず、明るく元気いっぱいに見えた。胸のメダルがキラキラと輝いていた。
美弥に飛鳥が真っ先に声をかけた。
「おめでとう。これならきっと本大会でも優勝よ。」
「ありがとう。飛鳥さん。がんばるわ。」
美弥は嬉しそうに答えた。飛鳥はもう少し彼女と話そうとしたが、報道記者がすぐに彼女を取り囲んでそばに寄ることができなかった。
「これから大変ね。」
飛鳥は早紀に行った。地球大会と言えでも、優勝したからには彼女に大きな期待がかかる。地球の名誉という。その重圧が美弥にのしかかってくるに違いない。
「まあ、そうだけど・・・。でも美弥は私と違って神経が図太いんだから。多分、大丈夫よ。それよりこの人だかり・・・いつになったら美弥のそばに行けるのかしら?」
早紀はあきれたように美弥を取り囲む記者を見ていた。
「まだしばらくかかりそうね。それより本大会はいつ?」
「1か月後だけど。その前に地球マコウ友好記念大会という大会があるの。」
「出なくちゃいけないの? 本大会に出る大事な体なのに・・・」
「それがね、世話になっているコーチのマリカ先生が世話人になっているの。美弥は出ると言っているしね。」
早紀はため息をついていた。