辞令
ジェニは緊張した面持ちで、ルクスの部屋の前に立っている。巡回の準備をしていたところを突然呼び出されたと思えば、連れて来られた場所は思いがけない場所だった。何か失態でもしたのかと唸っていると、どうぞ、とドアの向こうから声がした。その声に促され、おずおずとジェニはドアノブをひねる。
「……失礼します。」
部屋の中は太陽の光で明るく照らされ眩しい。その中でルクスが一層輝いて見えるほどだ。あまりの姿に見惚れていると、ルクスが1枚の紙をジェニに差し出す。ジェニはその紙に目を落とすと、目を疑った。
「シニスへ異動……しかも神官長見習いですか!?」
嫌でも耳に入ってくる面倒事。異動など当たり前なのだが、事件があった場所で、しかも新人である自分がそのような所へ異動となると尻込みすると言うものだ。しかし上司の、それもルクスと言う存在に言い渡されたのであれば断ることなど出来ない。
表情に出ていたのだろう。ルクスは苦笑いでジェニを見ると、申し訳無さそうに口を開く。それはジェニにとって、自身の限界とトラウマに向き合う事になる。
「あなたも、中途半端なままは嫌でしょう?」
「でも……僕は結界なんて張れません。回復魔法だって……。」
ジェニの手に力が入り、グシャリと紙の音が響く。決定事項に少し抗ってみるも、結局はルクスの笑顔の前では無意味に終わる。
「あくまでも見習いです、気を楽にして下さい。ただ、修行は厳しいですよ。」
「修行……?」
連れてこられた場所は人気のない森。陽の光が辛うじて射し込むが、ほとんど意味がない。ルクスはその場から、1kmほどの広さで魔法の壁を張る。触れれば衝撃が走るため、逃げることは出来ない。
「期限はシニスの国葬が終わるまで。それまでに周囲の壁を、あなたの結界で打ち破りなさい。木に登って脱出は駄目ですよ?」
「そんな、無理です!結界は張れないって……。」
「張りたくない、の間違いでは?」
「……っ!!」
見透かされている。そう思うと、ジェニは何も言い返せない。
「ジェニ、確かにあなたの魔力は強くない。そのせいで守れなかったものもあるでしょう。でも、このままでいいとも思ってない。……違いますか?」
ルクスは優しく微笑むと、ジェニを置いてその場を去った。
人里から離れた場所に残され、聞こえるのは鳥の声と、風に吹かれる木々の音だけ。これから日も暮れてくる。些細な物音で、ジェニの肩が跳ねる。
「と、とにかく、壁の所まで行ってみなきゃ……!」
不安を振り切るように首を振り、ジェニは走り出した。




