それでも前へ
アレスとセーアの首から首輪が外れる。騙されたと喚く双子を宥める。監視もなくなり、ようやく好きに出かけられると喜びながら部屋を出る双子を見送り、ルクスも部屋へと戻る。
部屋の前では、ジュリアンが壁に背を預けつまらなそうに待っていた。ルクスはそのまま部屋に通すと、驚く様子もなく話す。
「てっきりエテルに着いていくものとばかりおもっていましたよ。」
ルクスは部屋の奥へ行き、ティーセットを持ち出す。ジュリアンは特に遠慮するわけでもなく、出される紅茶を受け取った。
「……許せないんだよね。だって、俺たちを裏切ったわけでしょ?理由がどうであれ、ね。それに感謝してるのは何もあの人にだけじゃないよ。ルクス様がいなかったら、俺はここにいないわけだし。」
ただ盲信しているわけではないと、ジュリアンからは静かな怒りを感じる。それにルクスにも感謝していると初めて知り、案外義理堅いものだと感心した。
ジュリアンにとってエテルは恩人であり師でもある。そんな存在が突然姿をくらましたのだ。当然ショックだろうと心配していたのだが、どうやら怒りの方が強いらしい。
「一発殴らないと気が済まないよね。」
拳を掌に打ち付け憤りを逃がす。エテルはジュリアンのためを思って何も言わず去ったのだろうが、ジュリアンはそれが許せない。
「……そうですか。」
ルクスはそう静かに言い部屋を出るジュリアンを見送ると、意を決した表情で空を仰ぐのだった。
昼間でも太陽の光が届かない森。それは現在の正確な時刻もわからなくなるほどだ。そんな場所に好き好んで足を運ぶ者はほとんどいない。だから絶好の隠れ家にもなる。
ミスラは目の前にいるエテルの話を興味深く聞いている様子だが、それはエテル自身への興味でもあった。人にはない独特な気配。ミスラもまた、エテルを利用しようと考えていた。だが今、それは重要ではない。
「ルクス……やっぱりあの時の精霊だったんですね。よかったです、勘違いじゃなくて。」
恍惚とした表情に、エテルは不気味さを覚えた。ネロとはまた違う固執さがあるからだろうか。口を噤んでいるエテルに気付き、ミスラは微笑む。
「もったいないですね。その身体ならルクスとずっと一緒にいられるのに。」
「可能ならば譲りたいくらいだ。」
ミスラは怪しく笑う。
「ルクスの事、いろいろ教えてくださいね。」
その笑顔はまるで、天使などではなく悪魔が微笑んでいるように見えるのだった。




