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アネルが手際よくネロの傷の手当をしていく。魔法ではなく薬草を使っているのを見て、ゾグはこの2人でも無理なんだと改めて思った。
目の前に紅茶が差し出される。カップから零れそうなほど激しく置かれたそれと、差し出された方を見る。
褐色の肌に、黒みがかった深い茶色の髪から覗く獣のような耳。獣人の子供だ。ゾグは暫しそれを注視していた。
「なんだよ。」
「あ、ごめん……。」
特別珍しいわけではない。ただ、獣と子供というので双子は今どうしているのだろうと気になったのだ。
「すまないね。人見知りなんだ。」
そう言って出された紅茶を一口飲む。ゾグもそれに習いカップに手をかけるが、獣人の子供はすでに目の前には居らず、遠くの物陰からこちらを警戒しながら覗いている。
クリスは心配と緊張で、ネロを見つめている。傷は問題ないだろう。何故こんなことになったのか、それだけが気掛かりだった。
「しかし、王宮騎士団の君が教会に手を貸すなんて、余程友人が心配だったのかな?」
「成り行きです。」
改めて言われると罪悪感があるのだが、クリスの気持ちとしては騎士団としてではなく、ネロの友人として真実が知りたいと言う気持ちが強くなっていた。
脱走などと、まるでルクスの気持ちに反する事をしでかしたのには必ずわけがある。ネロの行動理念は常に誰かのためだと、クリスは知っていた。
ネロが小さくうめき声を出す。
「……ぅ……うるせぇ……。」
「ネロ!」
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。そして自分の置かれた状況を把握したのか、大きく溜息を吐いた。身体を支えようとクリスとゾグが手を出すが、ネロはそれを拒む。
「どうして脱獄なんてしたんだ。」
相変わらずの態度に、クリスの心配も何処かへ吹っ飛んだ。
ネロは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……殺されそうになったら、誰でも逃げるだろ。」
「なっ……!?」
ゾグとクリスは聞き間違いかと思った。誰が?誰を?2人が混乱する中、ワイスだけ何か考え込んだ様子で冷静だった。
「殺されそうにって……一体……。」
一体誰に。そう言いかけたが、それを遮るようにネロは叫ぶ。
「エテルの野郎に決まってるだろ!」
「……っ!!」
ネロは咄嗟に傷口を押さえ、歯を食いしばり痛みに耐える。
未だに状況が飲み込めないでいるゾグとクリスをよそに、ワイスは1人納得していた。
「エテルは死ねない身体にうんざりしていたからね。」
視線が一気にワイスへと向く。ゾグは、全ての原因はワイスにあるのではないのかと責める気持ちを抑える。エテルが不老不死となった現場に居合わせていたのもワイスなのだ。偶然だとしても、全ての出来事の裏には彼がいる。信用できない相手だと、ゾグは警戒するしかなかった。




