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ゾグとクリスは宛もなく歩いている。共にネロの行く場所など検討もつかず、身を潜められそうな場所を探すしかない。
町から少しでも外れると、そこはもう木々が生い茂る森林になっている。必要以上に開拓していないスピルス大陸は、8割が木で覆われている。隠れる場所ならどこにでもある。そこから人を探すとなると、骨が折れるだろう。
「その、魔法でどうにかできないのかい?」
「出来ないです……僕には。」
他の人なら出来るのだろう。だが少なくともゾグには無理だ。ルクスに聞こうにも、頼まれた事をまともに遂行したいと言う気持ちもある。そうでなければ先日の失態を挽回することは出来ない。信頼されて頼まれたのだと、ゾグは自分を鼓舞する。
「もう他の国に行ってしまったんじゃ……。」
もし他国へ行ってしまったら、尚更探すのが大変になる。しかしそれをクリスは否定する。
「出港履歴は全てその国の中心部に集められる。いずれバレるような事はしないだろう。」
「そうですね……。」
振り出しに戻ってしまった。クリスはネロに何があったのか聞いた。何故ネロを探しているのか聞いていなかったからだ。
「ネロは何をしたんだ?」
「それは……。」
言っていいのだろうかとゾグは迷う。ただ、こちらの事情だけ知らないと言うのはどうなのかと疑問に思っている。どうせネロが見つかってしまえば事情がわかってしまうのだからと、ネロは気不味そうに答えた。
「脱獄……です。」
「脱獄だと!?」
驚くのも無理はない。普段ルクスの側にいる人間が投獄、そして脱獄など、余程の事をしたに違いないと思うしかない。
ゾグは瞬時にマズイと焦った。これではクリスが知りたがっている一連の犯人がネロだと言っているようなものではないか。
おそらくクリスの疑惑は確信に変わっている。それは表情でわかった。ゾグはルクスとネロに謝りながら、クリスに何があったのか話す事にした。
エテルがルクスの部屋へと入ってくる。調べていたミスラについての報告らしいが、家族構成くらいしかわからなかったようだ。そしてやはり、家系を辿ればエカードに辿り着く。
「迫害されながらも、慎ましく暮らしていたようだ。」
「そうですか。」
報告は以上だが、エテルは沈黙しその場を動かない。
「まだ何か報告が?」
その表情を見て、ルクスの表情も変わる。
「……私が憎くないのか?」
エテルは目を合わせない。自分がした事を自覚しているからだろう。
「何故?あなたがネロを殺そうとしたから?」
やはり知っていたのかと、エテルに緊張が走る。
「いくらネロでも、丸腰では牢を破るなんて出来ない。私を怒らせようと、ネロを殺そうとしたのでしょう?」
あの騒ぎは本当は脱獄などではない。エテルがネロを殺そうと、戦闘行為に発展したものだった。アレスとセーアを先に牢から出したのも、邪魔されないようにするためだった。
「何故何も言わない?」
落ち着いたルクスをよそに、エテルはどこか焦っているようだった。ネロを殺そうとしたら怒り狂うと思っていたようだが、意外にも冷静で拍子抜けする。
「……やはり、気持ちは変わっていなかったんですね。」
少し寂しそうな表情で笑う。
「ルクスが出来ないのなら、俺はミスラのもとへ行く。」
「!」
長く生きた。充分すぎる程。賢者と違い、死ぬことは出来ない。賢者と違い、自由なわけではない。賢者と違い、精神が強いわけではない。
神の力ならば、この呪われた身体をどうにかしてくれると思っていた。唯一の希望だった。だが、ルクスは何もしてはくれなかった。だが、もう1つの希望が現れたのだ。
「だから核を寄越せ。」
右手を差し出し、エテルはルクスが答えるのを待った。




