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日が昇り、町に活気が出てきた。だが別の賑わいもあるようだ。
昨夜死体のあった場所には王宮騎士団と、人集りが出来ている。
「まさかここにまで魔物が……?」
「怖いわ……。」
騎士たちは人を近付けないよう、盾を前に出し壁を作る。
「人払いしているんじゃなかったのか?」
「してたっつーの。でも団体で堂々と騎士団が来れば何事だって思うだろ?」
騎士団の1人とネロが言い争っている。ネロは早くこの場から去りたいのか、何度も話を切り上げようとするのだが、相手の騎士がそれを許さなかった。
「こっからはテメーら騎士団の仕事だろうが!俺は早くルクスのとこに戻りてぇんだよ!つーか来るのおせーんだよ眠いわくそが!」
「おい!まだ話は終わってないぞ!」
その声を無視し、ネロは中指を立て人混みに消えた。
「ったく、港の夜は寒いんだぞ。ルクスの命令じゃなきゃ即酒場行きだっつーの。」
ルクスとネームレスは教会へ来ていた。事件があった後だからなのか、大勢の人が教会に祈りに来ている。
ネームレスは周囲を見渡す。昨日と違い、妖精が見える。だが片手で数えるくらいにしか見当たらない。
ルクスは精霊像の前に祈りを捧げる。結界が張られた後も、しばらく祈りを続けていた。教会にいる人々もそれをならってか、祈っている。ネームレスは綺麗な光に包まれるルクスに見惚れていた。
神官はルクスと目を合わせない。
「何があったのか、聞いたほうがいいですか?」
「……いえっ。大丈夫です。ありがとうございます。」
神官は震える声で答えた。ルクスの何もかもを見通すような目を、ネームレスも恐ろしいと思うのだった。
教会から出たところで、ネロと合流した。
「騎士団の連中に押し付けてきた。」
「お疲れ様。じゃあ、少し予定を変更して帰りましょうか。」
「帰る?」
「本来このまま王都に行くんですが、このまま船に乗って本部に帰ります。」
事件があったとは思えないほど、今日も市場は賑わっている。船で食べるためサンドイッチを買っている時だった。騎士団の1人がこちらにやってきた。
「ルクス殿、少しよろしいか。」
「おや、王宮騎士団長のブロウ殿。私に何か?」
つい先程ネロと言い合っていた騎士だった。あからさまにネロは嫌な顔をする。
「ここではなんですから、こちらへ。」
「こっちは帰るとこなんだ。船が出ちまうだろ。」
ネロが睨みを聞かせる。
「まだ時間はあるだろう。」
そう言うと、数人の騎士がルクスたちを囲った。襲いかかりそうなネロを制し、大人しく着いていった。
小さな喫茶店に入り、隅にある席に一同は座った。店員が注文を聞き、それが飲み物だけだったため、さほど時間もかからず全員分の飲み物が揃った。
「最初に発見した者を教えて欲しい。」
前のめりになりながら、ブロウは迫る。紅茶を片手にルクスは表情1つ変えず、代わりにネームレスが恐る恐る答える。
「僕です……。」
やれやれと言った様子で、ルクスとネロはブロウに言う。
「彼は犯人を見てはいませんよ。」
「トラウマになってんだから思い出させんなよ。サイテー。」
ブロウは苦虫を噛み潰したような顔で2人を見るが、負けじとネームレスに聞く。
「本当に見ていないのかね?」
「一瞬何かが去っていくのを見ただけで、後はそれどころじゃなかったので……。」
「そうか……。」
残念そうにブロウは頭を抱える。相当参っているようだ。
ルクスは飲み終えたカップを静かに置き、ブロウに言い聞かせる。
「安心してください。あなた達の仕事を取るようなことはしません。」
「……お心遣いどうも。」
ふと、ブロウは思い出した。彼らは教会本部に帰るところだったと。それと同時に疑問に思った。巡回途中なのでは、と。
「そう言えば、王宮へ寄るはずだったのでは?」
その問いに、ルクスはまるで知らなかったのかと言いたげな表情をした。
「昨夜王都の方から来なくていい、と連絡がありましたので。」
「なんだって!?」
ブロウは声を荒らげ、テーブルをたたく。それもそのはずだ。ルクスに来てほしいと頼んできたのは他でもない、王と教会の神官長なのだ。それが昨夜突然、来なくていいと言う連絡が入ったため、本部へと戻ることにしたのである。
「それほど結界が弱っていないのか、神官長が結界を張るだけで充分なのか、それとも私に来てほしくないのかはわかりませんけどね。」
「…………っ。」
そう言うとルクスは席を立ち、それを追いネロとネームレスも続いて席を立った。
「団長さんが払ってくれるって。」
ネロは店員にそう告げると、本日2度目の中指を彼に立て出ていった。