脱獄
本部へ戻ると何やら騒がしく、地下室への入口には人混みが出来ていた。慌てて様子を見に行くと、誰も入らぬよう規制されている。
「何が起きたのですか?」
「ルクス様!それが、エテル団長が暴発したらしく……。」
エテルが暴発なんてらしくない。それに、周りの騎士たちも良く状況を理解していないようだ。
ルクスとゾグは人混みを掻き分け地下室へと進む。そこは散乱していて、鉄格子も破壊されている。壁や天井部分には大きな穴が空いていて、そこからは青空が顔を覗かせている。
そこにはネロの姿と双子の姿がなく、エテルだけが佇んでいた。
「何があったのですか!?」
エテルは勢い良く振り向くが、ルクスだとわかり肩の力を抜いた。
エテルは戸惑いがちに口を開く。
「ネロが……逃げたのだ。」
「!?」
以外にもルクスは冷静で、驚いたのはゾグの方だった。先日は機嫌が良さそうだったが、この計画があったからなのかと疑ってしまう。
エテルはルクスの表情が変わらないのを不思議に思いつつも、経緯を語る。
「先程双子を牢から出し自室へ行かせたんだが、その後激しい音がして駆けつけたら、既にネロはいなかった。ネロの事は皆に知らせていないから、私のせいにしておいたが……。」
その話を聞き、ルクスは考え込む。
「まだ遠くへは行っていないはずだ。」
追いつくはずだと、エテルは今にも飛び出して行きそうな勢いだ。だがそれをルクスが止める。やはりネロには甘いとエテルは呆れるが、追うなと言うわけではなさそうだ。
「ここはゾグさんにお願いしましょう。」
「僕ですか!?」
地下室の現状に言葉を失っていたゾグは、いきなりの任命に驚く。もちろんエテルも驚いていた。自分が追った方が確実で早いからだ。そもそも、ゾグがネロに追いつくとも思わない。
「ほら、昨夜の失態を挽回するチャンスですよ。」
「でも行き先の目処がつきません……。」
「大丈夫。あなたなら見つけられます。」
ルクスはゾグの肩に手を置き、そのまま体をくるりと反転させると、そのまま地上への出口へと歩かせた。
ルクスはゾグの耳元で、誰にも聞こえないように喋る。
「さぁ、いってらっしゃい。」
「……はいっ!」
ルクスは野次馬で集まった騎士たちを仕事に戻らせる。
エテルは機嫌が悪いようだ。ゾグに追わせるなど、ネロを自由にさせるのと同義だからだ。焦りを見せないルクスにも不満があるようで、それを見通してか、ルクスは心配ないと語りかける。
「ネロは自ら私から離れることはない。いずれ見つかります。それより問題なのは……。」
ルクスは昨夜の出来事を話すため、地下室を封鎖し場所をエテルの執務室へと移動した。
聖人エカードと名乗るミスラと言う人物に襲われた事、ゾグが呆気なくやられたため、ゾグのためにネロの捜索に向かわせた事、再びミスラが現れる事。何よりエテルが驚いたのは、ミスラの存在よりもルクスが襲われた事だった。やはりゾグをつかせたのは間違いだったかと、頭を抱えていた。だが過ぎたことだと、ルクスは相変わらず笑っている。
今回ミスラが現れたこととネロの脱獄と、果たして偶然なのか?それに、ネロは自らルクスから離れることはしない。誰かに襲われたのだろうとルクスは考えているが、それは口に出さなかった。
「そのミスラと言う人物、こちらでも調べておこう。」
調べたところで進展はないだろう。そう思うルクスだった。




