再び雪国へ
以前訪れた村は結界に問題もなく、神官も村人も穏やかに過ごしていた。教会に寄ると、神官には深く感謝され、その後も問題ないと報告された。ルクスから見ても魔力も安定している。
ただ、問題があるとすれば、国王が代替わりした事の情勢の変化だろうが、政治に口出しするのは教会の仕事ではない。神官や村人も何やら口々に不満や不安を言っていたが、ルクスにはどうしようもないことだ。
精霊がいた森も、澄んだ空気で包まれている。戦った跡も殆ど残っていなかった。人の滅多に入らない森だが、それ故精霊が修復したのだろうと推測できる。
「どうです?なぎ倒された木も元通りですよ。」
どこかから声が聞こえたかと思うと、目の前に精霊が現れた。ゾグは驚き腰を抜かす。それもそうだろう。人生で一度も精霊を見たことがないし、目の前に現れたものが精霊だとも思わなかったからだ。
「な、何!?」
「精霊ですよ。」
「……これが、精霊。」
教会にある像の印象があるためか、ゾグにはそれと酷似した姿に見えているようだった。恐らく全ての人間に精霊の姿が見えるとしたら、9割の人間が像と同じ姿に見えるだろう。
「こちらも問題なさそうですね。」
辺りには妖精も沢山漂い、以前とは比べ物にならないくらいに豊かになっている。
「えぇ。こちらは、問題ありません。」
含みのある言い方が気になるが、ルクスはそれを笑顔でかわし後ろ髪を引かれているゾグを連れ森を出た。精霊が問題ないと言ったらそれが正解なのだ。これ以上長居することもない。それに、精霊に余計な事を言われても困るからだ。
ゾグは息を吐き、それが白く消えていくのを見ながらも寒さに耐えている。ここまで寒い場所に来るのは初めてで、もっと着込んでくればよかったと後悔していた。ルクスを確認すると、やはり寒いらしく鼻の頭を真っ赤にしているがどこか楽しそうである。
雪を踏みしめる音だけが響き渡る。それに気不味さを覚えたのか、ゾグが話し始める。
「この国には、何があるんですかね?」
特に意味はなかった。特産品などは村の様子を見れば察しがつくし、ただの話題探しだ。
「あれ?あんな所に家がある。」
すぐ終わりそうな話題ではだめだと、何かないかと周囲を見渡したゾグは、木々の間から微かに覗く家屋を発見した。
以前は黒い霧で周囲の見通しも悪く、家があるのに気付かなかった。精霊との一件でもしかしたら迷惑がかかっていただろうかと、ルクスは心配になった。ただ、突然訪問しても迷惑だろうとその家を頭の片隅に置き、セヴルへ急ぐのだった。
王都セヴルは本来の姿に戻っていた。以前は過剰な魔力に満ち、その影響で不自然に土地が豊かになっていた。しかし現在は、他の村と同じ雪が降り、相応の土地となっている。元々セヴルは他の土地と違い暖かく豊かな方ではあるが、妖精を閉じ込めていた時は雪も殆ど降らず自然を無視した状態だった。
その味を占めてしまった住民たちは、不満もあるだろう。特に若者に不満を持つ者が多く、直接国王への発言はないが、住民たちの間では度々話題になっている。
もちろん国王の耳にも入ってきているようで、王弟や宰相の意見が食い違い揉める回数も増えてきている。ただでさえ前王の残していった研究の後始末もあるのに、今現在でも充分に生活出来ているのに何が問題なのだと苛立つ反面、これも前王である父のせいだと頭を抱えている状況だった。
そんな話を神官長から聞き、ルクスとゾグは大変ですねとそんな言葉しか返せなかった。ルクスにとってはノール国本来の姿に戻っているし、ゾグにとってはどうしようもない話だ。
「賢者様も、来られはするのですが……。」
話は進まないと、神官長は疲れた様子だった。住民から愚痴を聞かされ、城からの話も聞こえてくるのだろう。板挟みになり大変そうだ。だがそれも自分のせいでもあると、責任を感じている。
「国民や政治に関しては王家の仕事。我々に出来ることなどありませんよ。」
冷たいようだが、役割と言うものかあるのだ。
教会から出ると、数名の騎士団が待っていた。外見から王宮騎士団だとわかる。その光景にゾグは怯むが、ルクスは堂々としていた。何事かと神官長が様子を見に追いかけてきたが、ルクスがそれを制止させる。
「ルクス様、ハンネス陛下が是非面会したいと仰っております。ご同行願いますか?」
「わかりました。」
また面倒事だろうかと、ゾグは気が重くなるのだった。
「いきなりの呼び出しで申し訳ありません。」
護衛も引き連れず1人で部屋に入ってくるあたり、此方を信用していると言うことだろうか。
「先日の件で、謝罪をしたいのです。」
「謝罪?」
「勝手に犯人だと決めつけてしまった。」
父の死を目の当たりにし、ルクスなら可能だと決めつけた事の謝罪で呼び出したらしい。だがそう思うのも納得のいくことだし、ルクスはそれを責めようともしないし、出来ない。
「謝る必要はありませんよ。あなたの反応は当然のことでしたから。」
だがそれでも頭を上げないハンネスに、ルクスは困惑した様子だ。
「これは私の自己満足にすぎない。だが、シニスで天罰が下ったと聞いて、やはり間違っていたのは父だと改めて理解できたのです。」
あの出来事は確かに抑制力になっていた。愚かな行為だと、理解させることが出来ていた。それを複雑な気持ちでゾグは聞いていたが、ルクスは凛とした表情をして聞いている。
ルクスは結果的に妖精や精霊に害がなければいいと言う考えだ。これ以上余計な事をしなければ、謝る必要などない。研究は自己責任とは言ったが、シニスの件もあり、手も出しにくい状況になっただろう。
「今日はもう遅いですから、どうか泊まって行って下さい。部屋は用意しております。」
ルクスとゾグは顔を見合わせた。寝首を掻く気ではないだろうか、また面倒事に巻き込まれるのではないか。そんな考えは失礼だろうかと不安を抱きながら、ハンネスの謝罪を受け止める意味でも、その言葉に甘えるしかなかった。




