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任務が始まる2日前に戻ってきた。いや、戻れなかった、と言ったほうが正しい。だがそれを気にはしなかった。
「大丈夫か?」
「うん。大した事ないよ。」
この日はエリアーシュがヒネクを庇い怪我をした日だ。医務室から出てきたところを、クリスが通りかかる。その後ろからヒネクが顔を出し、余計な事を言うのだ。
「全く鈍臭いやつだ。」
クリスはそれを注意するも聞くわけもなく、俺はエリアーシュの代わりに相手をする。だが、それもそこそこに、俺はその場を後にした。不思議がっている3人をよそに、どうすればエリアーシュが死なずにすむのか考えなければならないのだ。
要はエリアーシュが任務に行かなければいい。そうすれば死なずにすむ。幸いと言っては癪だが、怪我を理由に説得しよう。
翌日、任務が言い渡された。
「エリアーシュを任務から外せ?」
当時副団長だったブロウに直訴するも、いい顔はしない。
「……あぁ、確か怪我したんだったか?でもなぁ、大した事ないんだろ?なるべく人は多い方がいい。」
やはり一蹴され、相手にされない。当然と言えば当然だ。個人の感情でどうにかなるなど、組織にはあってはならない。だが、ヒネクのせいでエリアーシュが死ぬのは我慢ならない。
(……アイツが死ねばいいのか。)
だが、すぐに我に返った。何を馬鹿なこと思うのか。だが、だからと言ってエリアーシュが死んで良いはずがない。
「任務行くのやめたら?」
突然の事に、エリアーシュは目を丸くする。
「怪我のこと?もう大した事ないんだぞ?」
「でも、なにかの拍子に傷口が開くかもしれないだろ。」
「心配しすぎだって。」
笑われるのも当然の反応で、いくら言っても変わらず、むしろ怒らせてしまった。独りよがりなのはわかっている。でもこのままでは変わらない。
当日、エリアーシュの元へすぐ行けるよう、なるべく近くで魔物を倒していた。だが、異変を感じた。
(何だ?こんなに手こずったか?)
なかなかエリアーシュの元へ行けない。魔物が行く手を阻む。
「エリアーシュ!」
──あぁ……また失敗した。あの足手まといのせいで。
ヒネクはやはり邪魔なのだ。
再び戻る。任務前日の朝だ。俺はすぐさま部屋から出て、ヒネクを探す。食堂でのんきに朝飯を食べるヒネクに怒りを覚えつつ、呼び出す機会を伺う。
だが、クリスが違和感に気付き、話しかけてくる。
「酷い顔だぞ。」
「うるさい。」
「昨日のことか?」
こうなったクリスはしつこい。が、クリスにヒネクのお守りをさせればなんとかなるかもしれない。一か八か、魔法の事は伏せ話してみることにした。
「ヒネクのお守り?」
「……アイツはまたやらかす。そのせいで仲間が犠牲になるかもしれないだろ。」
「まぁ……無くはないな。」
被害を最小限に。そう言うと、クリスは納得したようだった。
今までにない展開に、少し期待していた。もしかしたら今度こそ、エリアーシュは死ななくてすむのではないか。
だがその希望も、すぐに絶望へと変わった。
目の前で倒れるエリアーシュとクリス。余計なことを押し付けたばかりに、クリスも殺してしまった。ヒネクは相変わらずどこか岩陰にでも隠れていたのだろう。全て終わった後、のこのこと姿を現した。
やはりヒネクが邪魔だ。殺さないにしても、動けなくなるくらいには痛めつけよう。
三度戻る。任務当日の朝だ。また戻る時間が短くなっている。心做しか妖精の数が少ない気がする。
未完成の銃を持ち出す。威力は大した事はないが、腕くらいは負傷させられるだろう。ヒネクを呼び出し、毎朝鳴る鐘の音に合わせ、離れた所からヒネクの腕を狙い撃った。
「……!?ぐうっ!?」
突然の痛みに悶え崩れ落ちる。俺は呼び出した本人として、何食わぬ顔で居合わせる。そして白々しく、ヒネクに駆け寄るのだ。
「ヒネク、どうした!?」
「……っ、わからない。いきなり腕が……。」
左腕からは血が止まらず流れていた。利き腕にしなかったのはせめてもの情けだ。利き腕じゃなくても、剣をまともには持てない。
「とにかく医務室へ行くぞ。」
何故呼び出されたのかも忘れ、敵襲とも疑わず、ヒネクは素直に医務室へ着いてくる。
医者と団長には敵襲ではないが、原因がわからない、警戒はしておくと伝え、思惑通りヒネクは任務から降りる事になった。
これでエリアーシュの足を引っ張る者はいなくなった。後はエリアーシュを守るだけ。
──おかしい。おかしいおかしいおかしい。どうして魔物が倒せない?
以前より強くなっている気がする。足場も相まってなかなか倒すのが難しい。以前は雑魚の集まりだった。でも、今回は違う。それぞれが格段に強くなっている。
エリアーシュを確認すると、苦戦しているのが伺える。エリアーシュだけではない。他の仲間もそうだ。
結果は最悪。またもエリアーシュを守れなかった。やはりエリアーシュを任務から降ろすしかない。
朝の鐘が鳴る。時間がない。どうすればエリアーシュを守れる?死なせたくない。死んでほしくない。何故、神は俺の大切なものを奪っていくんだ。いや、神など信じてはいない。昔から何度も何度も神に祈った。祈っても誰が応えてくれる?人々を救わないのなら神など必要ないのだ。
結局、何も出来ず魔物を倒す。魔物は強くなったまま、必死にそれを倒す。妖精がいない。そんなはず、ない。
──もう……戻れないなんて。




