真相
ルクスは色褪せた資料を手に取る。
「精霊の核を利用した器の研究。」
虫食い部分であろう文字を読む。
「何故この本部は、神殿ではなく教会と呼ばれているか、ご存知ですか?」
不意の問に、ゾグは言葉は出なく、黙って首を横に振る。確かに神が眠っていると言われるこの教会で、祀られているのも神だとしても、なぜ神殿ではなく他と同じ教会なのか。言われてみればと、不思議に思う。
「元々この国にも精霊がいました。」
――およそ2000年前
その精霊は今にも消えそうだった。精霊にも死という概念はある。しかしただ死ぬのではなく、その精霊が新たな精霊となり生まれるのだ。だが、この精霊は何かが違った。苦しそうにうめき声をあげ、消えかかっている。
本来なら、苦しむなどなく繭のような姿に変わり、数年かけて精霊に新たに生まれ変わるのだが、繭になる気配もなく辛そうにしている。
「……これが、“死”なんだね。」
精霊が死んでも、何百年とはかかるが新たに精霊は生まれる。世界がそう出来ているのだ。
精霊の傍らで心配そうに見守る人物がいる。どことなくルクスに似ている。
「僕のせいです……。僕のせいで人に肩入れしすぎたから……。でも、僕はそんなあなたが大好きでした。」
当時の聖人であるエカードは、この精霊と親しかったようだ。そのせいで人との関わりが強くなり、精霊は人に近い存在になってしまった。そうなると新たに生まれ変わる事が出来ず、魔力の結晶だけが残る。精霊がいなくなった国は魔力不足になるため、新たに精霊が生まれるまでにその国は人が住めなくなってしまう。
この精霊は人が好きだった。自分にはない感情があり、それがとても興味深かった。それを理解した時、新たな自分になる感覚が新鮮で楽しかった。それがいけなかったのだ。人の感情を理解し、人の前に頻繁に現れていた精霊は、その存在が朧げとなる。
「精霊でも人でもなくなった私と、最期まで共にいてくれてありがとう。」
消えた精霊のいた場所には、握り拳程の大きさの結晶が残った。それはさながら心臓の形のようで、エカードはそれを大切そうに抱える。
エカードはその国に神が眠っているのは知っていた。彼の精霊も主である神と同じ場所で眠らせよう。そう考え、魔力の塊である結晶を神殿であるこの場所に祀った。しかしその存在が、人々を狂わせた。結晶を狙った輩によって争いが絶えず、エカードはそれを封印するしかなかった。それから数千年と時は流れ、結晶に宿る精霊を祀ると言う教えだけが残り、今現在に至る。
「ルクスさんはその結晶が核になっている、と?」
「そうです。」
「でも、誰が封印を解いたんですか……?」
「賢者に決まってるだろ。」
ネロが吐き出すように答える。
「賢者……ワイスさんが!?」
悟っているだろう賢者が何故、争いの元になる封印を解いたのか。ゾグは更に疑問を投げかける。
「悟ってるだろうさ。この世界が出来て今まで生きてるんだ。でもそのおかげで、刺激のない平穏で平和な生活を1番嫌っているのもあいつだ。」
だから賢者と言う立場を利用し、干渉する。
「でも最近の賢者は何を考えているんだか、国の政に口出ししないと思ったら、今度はシニスに手助けだ。そんな奴だ。封印を解くのも頷けるだろ。」
ゾグはそれを聞き、納得よりも賢者であるワイスを哀れだと思った。この世界が出来て途方も無い時が経っても、彼の心は満たされる事が無かったのか、と。
もしワイスが結晶の封印を解かなかったら、ルクスが誕生する事はなく、ネロが人を手に掛ける事もなかったのだろうかと考えてしまう。だがその考えも間違いだと、後に気付くことになる。
「賢者が結晶を持ってきた時、奴はこれは精霊の一部だと言っていたが、ようやくその意味がわかったな。」
ウベルトが呟く。その発言で、彼もルクス誕生の関係者だとゾグは理解した。
「私が顕現するまで、この国は聖人エカードの作り出した結界によって、守られてきました。」
しかし、度重なる争いで魔力も弱まり、強固であった結界も意味をなさなくなっていた。土地が枯れ始め、作物が育たない。そこで行われたのが、神降ろし……降臨祭である。
「結晶の魔力を利用し結界を維持しつつ、私はネロと出会い、この世に顕現出来たのです。」
それからはルクスが、国でもあるこのスピルス大陸を守護してきている。
(精霊の結晶、か。)
ゾグは不意に視線を感じ顔をあげる。変わらず冷たい視線で見下ろすネロと目が合った。
「……っ!」
たまらず息を呑む。
「ネロ。」
貴方の番ですよ。
エテルはまるで子供をなだめるような優しい口調で、ネロを諭した。




