3
城ではアレスが出迎えてくれた。セーアがいないのは、1人ネロの所へ行ったのだと聞かされた。珍しいことがあるものだとルクスは思ったが、すぐにそれは違うと、嫌な予感がするのだった。顔に出ていたのだろう。アレスに気を使われた。
「ただのお見舞いだよ。」
「……そうだね。」
食堂には沢山の料理が並んでいる。肉、野菜、スープ……それらには特産品であるフルーツが使われているようで、ソースからは甘酸っぱい香りが漂う。
ルクスは食事を摂らなくても問題ない。単に食事という行為が好きと言うのもあるのだが、ルクスが食べることによって、それは魔力に分解され、多少なりとも世界に循環していくのだ。
「遠慮せず食べてくれ。」
セーアとネロの席は空席だ。しかしすぐにセーアは戻ってきた。
「あいつ、目を覚ましたわよ。」
席に着くなり言うと、さっそく食事に手を付ける。
「でも、また眠ったわ。」
「そう……良かった。」
目が覚めれば何の心配もない。ルクスは一安心とスープを口に運ぶ。
ただ嫌な予感は未だ拭えないでいた。それが何なのかはわからない。胸のモヤモヤが晴れることはなかった。
誰もが眠りについている中、教会住民区も例に漏れず皆就寝中だ。そんな暗がりの中、ゾグは足音に気をつけながら住民区の一角に来ていた。そこはルクスとネロの部屋がある建物で、エテルとウベルトの執務室もある。
(今僕は、罰当たりなことをしようとしている!)
エテルやウベルトの執務室になにかあるのではないか。そう考え侵入を試みているのだが、鍵がかかっているのが当然で、どこかから入れないだろうかと建物内を彷徨いている。幸いにもエテルとネロは留守のため気付かれることはないが、念の為忍び足になる。もしかしたら既にバレているのかもしれないが、これは人類や精霊、ひいては世界のためだと言い切ろう。
3階建てのこの建物の最上階にはルクスの部屋になっている。立ち入ることが出来るのは、恐らくネロやエテルなど近しい者だけだろう。
しかし鍵が掛けられていない部屋が1つ。
(ここって……ルクスさんの部屋?)
不用心だと思いつつ、好奇心に勝てず吸い込まれるようにルクスの部屋に侵入する。
教会に戻ると、そこにネロの姿はなかった。神官長も気付かなかったようで、申し訳ないと頭を下げるばかりだ。ルクスは当然責めはしない。嫌な予感はこの事だったのかと、やはりずっと側にいればよかったと後悔していた。まだ間に合うだろうか。ルクスは再び、城へと戻る。
「すみません、急なことだったので。」
ソティリスに見送られる形で、人目のつかない裏庭にルクスとアレスは案内される。こんな場所でどうやって帰るのかとスティーグは不思議に思っていた。
「こちらこそ、いろいろ助けてくれて感謝してもしきれない。」
夜空には大きな満月。ソティリスの目には、大きな黒味がかった灰色の翼が映った。翼の生えた狼のような、獅子のような姿になったアレスは、乗りやすいよう座り込み、ルクスは慣れた様子でそれに乗る。
「では、失礼します。」
大きな羽音と風と共に、空へ飛び立つ。
「……驚いたな。」
目を丸くし、暫し呆然と立ち尽くすソティリスだった。
ルクスの部屋の本棚は、資料室と見間違うほどに本で埋まっていた。その数に圧倒されつつも、ゾグはその本棚にしっかりと目を通す。
小説、哲学、図鑑……様々な本がある中、隙間に隠れるように挟まっている、色褪せた数枚の紙が目に止まった。不思議に思い手に取ると、所々染みが出来ていたり虫に食われていたりで、読めなくなっている所がある。
(……の、核を利用……?)
肝心の前述は虫食いで読めない。全体の文章に目を通した時だった。後頭部に硬い物が当たる。
「え……?」
振り向こうと動こうとすると、強く押し当てられ前屈みになる。
「やっぱりあの時、追いかけてでも殺しておけばよかった。」
ゾグの聞き覚えのある声だった。
「何で……ここに……?」
窓から射し込む月明かりに照らされ現れたのは、ここにいるはずのない、ネロの姿だった。




