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暗がりの部屋で、ゾグは集魔石の欠片を真剣に見つめていた。既に使い物にならなくなった屑石である。屑石になった集魔石は、そこら辺に転がっている。もちろん回収されもするが、時々不法に投棄されていることがあるので、ゾグはそれを拾っていた。
(これがなんの犠牲もなく使えるようになればいいってことか?)
新たに採掘されないようにするならば、既にある集魔石と、特に使い物にならなくなった屑石を再利用出来れば良いのではないか。ゾグはそう考え、暇さえあれば資料を読み漁っていた。
しかし、持ち出して読めるものは一通り知っていることが多く、実際やってみても何の意味もない結果となっていた。そしてふと、思い出した。
(……そういえば、どうやってルクスさんは作られたんだろう。)
もしかしたら何か手がかりになるものがあるかもしれない。何処かに研究資料があるはずだ。しかし、ゾグが立ち入ることのできる場所の資料は、大体調べたはずだ。それでも中身をきちんと調べたわけではないため、見落としがあったのかもしれない。
だが、もし立入禁止の資料室があったなら、ゾグにはどうしようもできない。当時研究に携わっていた人物はいるのだろうか?可能性があるとすれば、やはりエテルだ。しかし教えてはくれないだろう。
「困ったなぁ。」
すっかり暗くなった部屋の天井を仰ぐのだった。
エテルは書類整理をしている。ルクスが不在なため、その分エテルに仕事が回ってきているが、それに対しての不満はない。むしろ余計な不安がなくなる。
「……ん?あぁ、ようやく落ち着いたのか?」
妖精を通じて、ウベルトから連絡が来た。魔力も安定し、妖精も問題なく増えているようだ。
『あぁ。一時はどうなるかと思ったが、精霊様はかろうじて見放しては下さらなかったようだ。』
「そのようだな。」
疲れきった声に、思わず口元が緩む。
『そちらはどうだ?』
「問題ない。が、少し不安なことはある。」
『?』
エテルは深いため息をついた。
ソティリスとリアンが聖堂で神官長と話をしている。ルクスを訪ねてきたようだ。
「私の力が足りないばかりに……。」
「ルクス様でも手こずったと聞く。神官長のせいではない。」
“毒”の根源をどうにも出来なかったと、神官長は嘆く。だが、精霊とルクスたちでも苦労したのだから、それは仕方のないことだ。誰も責めはしない。
ルクスが来たと、リアンがお辞儀をする。少し顔色が悪いが、以前より表情は晴れやかだ。
「傷の方はどうなのだ?」
「傷はもう塞がってます。でも少しずつ治さないと、体に負担がかかってしまって……。」
「ひとまず安心か。」
ソティリスの隣で、リアンはソワソワと何か言いたげだ。それに気付き、ルクスは代わりに話しかける。
「アレスと遊んでいたんですか?」
「はいっ……!あの、魔法を教えてもらったり、ひ……僕のお気に入りの場所に案内してました。」
何か言いかけ咄嗟に言い直すが、ルクスはアレスが自身の秘密をリアンにバラしたことを知っていた。心を許したからなのか、その場での勢いなのかまではわからなかったが、アレスがリアンを信用してのことだろうと、何も言う気はなかった。
「ルクス様が倒れでもしたら申し訳が立たん。食事を用意させたから、城へ来るといい。」
神官長は後ろで首を縦に振る。
「しかし……。」
「何かあれば連絡しますので。」
「顔色が悪いですよ……?」
結局、3人に半ば強引に引きずられ、教会から出ていくのだった。
ネロは静かに目を開けた。傷の治っている腹部を触り、傷跡が残っていない様子から、ルクスがずっと治療をしていたのだと状況を理解する。
部屋に神官長が入ってくる。ネロに気付くと、喜びの声を上げる。
「よかった、気が付きましたか。」
「……ルクスは?」
「先程城へ行ったところで……連絡しますね。」
「いや……いい。休憩しに行ったんだろ。俺は平気だから。」
死んでもおかしくない傷だった。また、命を救われた。
(……懐かしい夢だったな。)
1人にしてくれと、ネロは神官長を部屋から追い出す。
「なぁ〜んだ。無事なの。つまんない。」
沈黙は長く続かず、神官長の出ていったドアからセーアが入って来た。すっかり良くなったようで、普段通りの憎まれ口を叩く。ネロはそれに返す元気もなく、適当にあしらう。
「何しに来た。」
「お見舞いよ。」
「嘘つけ。」
セーアが気を使うわけがない。互いに気に食わないからか、滅多に話もしない。
「アンタが睨んでた通り、始めちゃったわね。」
その一言で、ネロの目付きが変わる。
セーアはネロが嫌いだが、時々見せる全てを憎むような、誰も信じていないような、光のない瞳が好きだった。普段はルクスしか見えていないその瞳から光が消えると、薄い青い瞳の色が濁ったように暗くなる。それが綺麗だからだ。
これからどうするのだろう。セーアは楽しみで仕方なかった。
空が暗くなる。ネロはぼんやりと光る月を映した瞳を閉じるのだった。




