港町プルエ
港町と言うだけあって、パーニュ村と違い人で賑わっている。活気があり貿易が盛んで、船や人の往来が激しい。市場では港町らしく魚が多く、青果なども並んでいる。
ルクスとネロの後ろから、ネームレスは目移りしながら着いていく。
しばらくすると、高台にある灯台が姿を現してくる。そのすぐ隣に教会はあった。地平線には太陽が沈みかけている。扉を開けると神官が出迎えてくれた。
「ルクス様、ようこそいらっしゃいました!」
「少し遅くなりましたね。」
「とんでもない!お疲れでしょう。宿屋を手配しますので、話は明日にでも。」
何やら焦っているように見える。気を使っているのだが、ネームレスはどこか違和感を覚えた。そして気付いた。いつも空気のように漂っている妖精が、教会の周りには1つもいないのだ。
(市場にはチラホラいた気がしたのに。)
ルクスとネロを見ても特に何もないかのような振る舞いで、関係者でもない自分が口出しするのも間違っていると黙る事にした。
ネロは宿屋のベッドにダイブした。つられてネームレスもダイブする。
「あなたは自由にしてていいですよ。」
ルクスは小さな袋に数枚のコインを入れ、ネームレスに渡した。好きなものでも買って観光でもしていろ、そう言うことだろう。
確かに教会とは関係ない部外者だが、改めて仲間外れにされると寂しさを感じる。
「あの……。」
「市場からあまり離れた場所には行かないように。最近は魔物が出て危ないですからね。」
「僕も着いていったら……。」
「駄目だ。」
ネロが強く言い放つ。
「お前は少なくとも教会の人間じゃない。余計な事はするな。」
「……そういう訳なので、大人しく観光でもしていてください。」
そう言い残し、2人は部屋から出ていった。
少なからずショックを受けたネームレスが重い腰を上げたのは、すっかり夜も更けた頃だった。
(あの2人帰ってこないな。)
ネームレスは酒場へと向かっていた。どんなにショックだろうが、空腹には勝てない。
夜遅くに開いている店など酒場しかないと思い町へ繰り出してみたものの、市場のある通りしかまともに歩いていないのだ。昼間とは違う町の姿と見知らぬ土地で、ネームレスは迷いかけている。
「それらしい看板も見当たらないなぁ。」
誰に語りかけるわけでもなく呟く。と、その時だった。
「ッッ……!?」
背筋が凍りつくような寒気がした。ネロを初めて見た時にも寒気がしたが、それとは比べ物にならないほどの寒気だ。そして周りを漂っていたはずの妖精もサッと気配がなくなり、嫌な静けさが増した。
何かが物陰から飛び出した。しかしそれを追うほどの余裕もなく、ネームレスは何かが飛び出してきた場所を覗き込んだ。
「ーーーーーーーっ!!!!!」
ネームレスは声にならない悲鳴を上げた。
月明かりに照らされたそこには、四肢が引き裂かれ、まるで何かに食われたように胴体が抉られている死体が転がっていた。