2
1人のメイドがリアンたちのためにミルクティーを準備していた。いざ部屋に向かおうとワゴンを押し進めると、ソティリスが立ちはだかる。深々と頭を下げるメイドに、怪訝な顔をし話しかける。
「何故蜂蜜にした?私は砂糖にしろと言ったはずだが?」
慌てて謝るメイドは、すぐ変えますと戻ろうとする。
「待て。」
それを引き止め蜂蜜を手にする。険しい表情に、メイドは更に怯える。
「これは誰が用意した?」
「マイルズ様です。蜂蜜の方が喜ばれると。」
マイルズは補佐官の1人で、ソティリスが怪しいと目を光らせていた人物でもあった。ソティリスを盲信しているフシがあり、そのせいでスティーグやリアンに危害が加えられないか心配していた。
「これは私が預かろう。」
「しかし……!」
「良い。ついでに様子も見ておきたいしな。」
砂糖を乗せ、ソティリスは足早にリアンの部屋へと向かった。
「そうそう、いい感じに抜けてきたよ。」
アレスはリアンの手を握っている。どうやら解毒魔法のようで、体内の毒を魔力と共に排出する魔法のようだ。
「無意識に出来てたみたいだから、練習すればもっと上手になるよ。」
「ホント?」
ドアを軽く叩く音がする。リアンが返事をすると、ワゴンにケーキとお茶を乗せたソティリスが入ってきた。後ろからは不安そうにメイドが顔を出している。
「兄上!」
「何をして遊んでいたんだ?」
「魔法を教えてもらってます!」
テキパキと準備するソティリスは、4つのカップを用意していた。メイドの分だろうか?とリアンは思ったが、気が付けばそのメイドの姿がない。蜂蜜の入った壺には手も付けず、角砂糖を数個落としていく。
準備は万端と言わんばかりに腰掛ける。4つ目のカップが置かれている場所には、誰もいない。誰の分かと聞こうとリアンが口を開けかけた時、再びドアが叩かれた。
「入れ。」
「失礼致します。マイルズ様をお連れ致しました。」
ドアが開かれると、先程のメイドと、冷や汗をかいているマイルズと呼ばれた男が立っていた。
「まぁ座れ。」
ソティリスがマイルズに促すが、困惑し戸惑っているとソティリスの強い視線が突き刺さる。耐えきれず椅子に腰掛けるが、空気が重い。リアンとアレスは、何が起きるのか緊張しながら窺っている。
「陛下……何故私のような者が……呼ばれたのでしょうか?」
恐る恐る口を開くマイルズだが、目の前にあるミルクティーと蜂蜜を見て、顔を青ざめる。
「なに、日頃の労をねぎらおうと思ってな。遠慮するな、飲め。私が淹れたのだからな。疲れが取れるよう、多めに入れて甘くしておいたぞ。」
「…………っ!」
それでも手を出さないマイルズに、ソティリスは一喝する。
「飲めと言っているだろう!私の淹れた茶が飲めぬか?それとも、他に何か理由があるのか?」
「っっ!!」
震える手でカップの取手を持つ。波打つそれを口元まで持っていく。しかし、怖気づいたのかカップを放り、膝を付き降伏した。
「お許し下さい!!」
頭を床に擦り付ける。ソティリスは怒りのこもった眼差しで見下す。
カップの乗る受け皿を手にしたソティリスは、落ち着くために一口ミルクティーを飲む。それを慌ててマイルズは止めた。
「陛下それは……!」
「毒だと?」
「…………。」
全て見透かされている。そう感じ取ったマイルズは、隠しても無駄だと諦めた。
「これには砂糖しか入っていない。それとも、貴様は客人も殺そうとしていたのか?」
「陛下は……陛下は魔力の恐ろしさを理解していない!」
それは恐怖からか怒りからか、握っている拳は震えていた。しかしソティリスは変わらず冷たい視線を向ける。未知のものに恐怖を覚えるのも無理はない。それを否定するつもりはないが、謀反のような真似をしたことを肯定するつもりはない。
「脅威となり得るかもしれないのですよ!?」
リアンは困惑した。自身の魔力などたいしたことはなく、アレスに教わった解毒魔法も、全ての毒を抜くことまでは出来なかった。そもそも王座を奪うという発想をしたことがなかったため、マイルズの考えが理解できなかった。
「もし兄弟が王の座を狙おうと動いているなら、私が気付かぬはずがなかろう。」
「しかし……!」
「貴様の気持ちもわからんでもない。だがな、私が助けようとした弟を再び害すると言うこと……覚悟は出来ているんだろうな?」
怯えた声を出し身を縮める。その姿を心配してか、リアンは声を上げる。
「兄上、僕なら大丈夫です。アレスに解毒魔法を教わったんです。だからもう……。」
その言葉を聞き、マイルズは息を呑む。次第に様々な魔法を覚えていくだろう。そう考えると冷静ではいられなくなる。
「……やはり……やはりあなたは危険だ!」
自暴自棄になったのか、手元にあったペストリーフォークを手に取り、リアン目掛け襲いかかるのだった。




