毒
鉱山に近付く程、腐臭が強くなっていく。妖精も少ない。現場に着くと尚更、鼻がもげそうな悪臭に顔が歪む。セーアは鼻を摘むが、意味がないようで今にも倒れそうだ。
「あによほへぇ〜!」
ネロやスティーグはルクスとセーア程臭いを感じないが、さすがに発生源に来るとその悪臭を感じるらしく顔をしかめる。
「何だ、この臭い。ねぇ、臭くないの?」
「臭えよ。つうか話しかけんな馴れ馴れしい。」
あまり表情の変わらないネロにスティーグが話しかけるも、相手にしたくないようで素っ気なく返される。嫌われているとわかっている相手に、気安く話しかける気が知れないと、ネロは改めて相容れないと思った。
鉱山の入口には誰も立ち入らないよう、柵で塞がれていた。突風が吹き付けたと思うと、目の前に魔力が集中していくのがわかる。
「こんにちは、小さな主。」
何が起きたのか理解するのに時間がかかり呆気にとられるが、、精霊が現れたと理解すると、スティーグは興奮したようにネロに話しかける。
「本当にいるのか、精霊って!なぁ?」
「知らねぇよ。」
精霊が見えないネロにとって、興味のないことだ。だが普通の人間でも精霊は目視できる。それが当たり前なのだが、ネロにとっては見えないのが当たり前で、当然のように接してくる人たちをうっとおしく思っている。特に、スティーグのように距離感の近い人間はあまり好きではなく、なるべく避けてきた。仕事でなければ隣にいたくないしいてほしくない。心底うんざりしていた。
「あぁ、待っていましたよ。」
精霊自ら待っていたと言うのは初めてで、ルクスは精霊にも難しいことが起きているのかと身構える。
「この臭いは……。」
「王の……今は代替わりしたのでしたね。前の王の行いが原因です。」
スティーグは思い当たることがあった。ルクスも以前ソティリスに話を聞き、それを思い出していた。
「溜まりに溜まった“毒”は、あまりにも根が深いのです。この国中の妖精を集めても、難しいでしょう。」
「精霊は、妖精を増やせるんじゃないのか?」
スティーグは王族らしくそれなりに教養があるようで、精霊がどのような存在かも人より知っていた。自分で頭が悪いと言っていたが、謙遜だろうか。
「浄化のために増やしても、その後増えた妖精の影響で、気候や自然に影響が出ます。」
「……なるほど。」
スティーグは何か考えている様子だが、何か言うわけでもなく、おとなしくしている。そのままネロと共に外で待っているよう言われ、ルクスとセーアは鉱山の入り口に立てかけてある柵を取り除き、中へと進んでいった。
「何か良い案でも?」
ネロがその様子を気にかけ話しかける。
「いや、やっぱり俺は考えるのが苦手だなって思っただけだよ。それに……前王の所業に早く気付いていればなって。」
ソティリスだけではなく、やはり弟であるスティーグも関わっていたらしく、相当に恨まれていたことがわかる。
「あの人はイエスマンしか側に置かなかったからさ、それも兄上は気に入らなかったんだ。」
「ふぅん。」
無関心なようで、ネロは返事もそぞろに、鉱山の入り口を見つめる。セーアも中に行ったのは、それ程までに深刻な状況と言うことだろう。
鉱山の中はどんよりと重く、セーアに至っては息をするのもやっとだ。
「ここですね。」
精霊が指し示す場所は、一見何もないが、魔力が黒い霧となり渦巻いている。
毒と呼ばれたそれは、実際毒ではない。ただ人体に取り入れれば、普通の人間に害のあるものなのは間違いなく、毒と呼ばれるのも当然である。
「不味そう〜。」
しかしセーアにとっては問題のないものだ。毒を分解し、正常な魔力に変換すればいい。根が深いと言うこの毒も、ルクスとセーアが加われば解決すると、精霊は考えたのだろう。
「子犬ちゃんはあまり無理をせずに、漏れ出た毒の処理だけで結構ですよ。」
「誰が子犬よっ!」
3人は毒を吸収するため、集中し始める。




